「7万円のコース料理」誕生の裏で苦悩する、これがシェフたちのリアル
世界の頂点に4度輝いた「ノーマ(noma)」が、1ヶ月半の期間限定レストランを東京で成功させたのは2015年のこと。
食材も勝手もまったく違う不慣れな土地で、メニュー開発にもがき苦しむカリスマシェフ、レネ・レゼピ率いる総勢77人のスタッフ。彼らの苦悩の舞台裏を捉えた映画『ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやって来た』が明日(12月10日)より公開される。
7万円払ってでも
体験したい料理ってナンダ?
北欧に「美食」という意識改革をもたらし、デンマーク経済を変えたとまで言われるノーマが、コペンハーゲンの本店を臨時休業にしてまで、日本で臨時レストランをオープンする。この試みは世界中で大きな話題を呼び、7万円近いコース料理を求めて、およそ6万2,000人がウェイティングリストに名を連ねた…。
と、ここまでの情報は、食のトレンドセッターならずとも周知のことだろう。では、華やかなその舞台の裏で、何が行われていたのか?このドキュメンタリー映画は、プロジェクトが開始された1年半前から、オープン当日までの軌跡を追っていく。
食材を探し歩いた日本列島
「大学にでも通っているようだった」
2013年7月、レネはすでに日本にいた。数人のスタッフとともに北海道から沖縄まで、地場の食材を求めて各地を飛び回っていたことを、どれだけの人が知っていたろうか。
「もっとも頭を悩ませたのは食材選び」、と映画のなかでレネ自身が語るように、彼らは行く先々で生産者の話を聞き、風土を学びながら味わい、食材を決定していく。ときには、長野県の山へ分け入り、その土地のアイデンティティを自然の中に探し歩く。
自然(Nature)と生命(Life)が息づいた革新的なアイデアで、デンマークとは違う“日本でしか味わうことのできないノーマ”を体現しようと。
「まるで大学にでも通っているようだった」、というレネの言葉が印象的に残った。こうして、彼らは修士論文の代わりに厳選した食材でメニューを書き上げていく。
99%の失敗に挑み続ける哲学
「つねに変化し続ける」
メニュー開発は、連日夜遅くまで続いた。同じ野菜のはずが知ってる味と違う、プレッシャーが重くのしかかり、カメラの前でも本音がもれる。
数名のスタッフたちによる準備が1ヶ月を切るなか、レネが来日したのはオープンまで残り15日というタイミングだった。太陽の光が届かない地下のキッチンで、ひたすらメニュー開発に挑んできたスタッフたちに、いきなり檄が飛ぶ。自分の限界に挑戦してみろ、と。
たとえ99%が失敗に終わろうと、あきらめずに挑み続ける。独創的な料理が生まれる背景には、居心地のいい場所をあえて捨て去り「変わり続ける」ことへの、料理人レネ・レゼピなりの哲学がある。その答えは映画の中で見つけ出して欲しい。
目で“味わう”92分間
12月10日(土)より順次公開
もしも、来年ノーマが再び日本に期間限定レストランをオープンしたところで、よっぽどのグルマンでなければ、さすがに7万円は庶民の財布感覚からは大きく逸脱している。けれど、“目で味わう”ことができるなら話は別。
たしかに映画だから「聴覚」も使えなくもない。ただし、彼らのキッチンには、ガンガンのロックサウンドが流れていることをお忘れなく。これもノーマ流だから。レネの創造力とこちらの想像力の真剣勝負、正直92分があっという間だ。
映画『ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやって来た』は、12月10日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBIS GARDEN CINEMAほか全国にて、順次公開予定。