日本より、ナチスの「もっとも価値ある略奪品」が返還
世界的に広がりを見せている、戦争による略奪文化財の返還。
過去に帝国化していた西洋圏が主体となって進めるなか、ついに日本もその流れに同調しはじめたようだ。
日本から、かつてナチスが略奪した絵画が返却されたことが報道された。
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こちらは、16世紀の貴重な絵画『聖母子(現代:Madonna with Child)』。
ナチスがポーランド侵攻時に略奪した名画で、ナチス略奪品のリストでは「もっとも価値のある521の美術品」の1つとされていたそう。
初期バロックに活躍したイタリア人画家アレッサンドロ・トゥルキの作品で、略奪前はポーランド貴族のコレクションに収められたものだった。
略奪された後、詳しい経緯は不明だが、2022年に日本国内のオークションで本作が発見。90年代にニューヨークのオークションハウスで売られたのを機に世界を回り、近年日本に入ってきたとみられている。
国と所有者、オークションを開催した「毎日オークション」との交渉の末に、幸いにも無償でポーランドへ返還された。
「AP通信」によると、5月31日に都内のポーランド大使館で引き渡し式が行われたようだ。
ナチスのポーランドからの略奪品のうち、現在600点ほどが返還されているが、これは約6万6千点に上る全体の1%にも満たないという。ポーランド文化財返還部門の責任者は、こうコメントを残している。
「略奪品がオークションで出回る機会が増えているのは、その記憶が薄れ、作品の歴史や来歴を知らぬまま購入する人や、気にしない人が増えているからです」。
日本からの返還も喜ばしいことではあるが、これは戦争や歴史の記憶が薄れていることの裏返しでもある。
コレクションとしての芸術品と共に、芸術や歴史へのリテラシーも広がることを願いたい。
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