精神療法の「CBT」が、生活習慣改善に効果的だと判明【最新医療】
CBTが、慢性疾患を抑えるカギに
「CBT」をご存知だろうか。
これはCognitive Behavioral Therapyの略称、日本語で「認知行動療法」と呼ばれるもので、認知と行動の関係に焦点を当てた心理療法だ。
CBTは、ネガティブな思考パターンや認知の歪みを自らの思考で解きほぐし、より現実的・生産的にしていくことを目指すもの。この療法は、うつ病や強迫障害など多くの精神疾患に対して効果的であると広く認知されている。
『Nature』誌に掲載された最近の研究によると、CBTのアプローチが慢性疾患や肥満の改善にも有効であるという。
全世界の死因の大部分を占める
非感染性慢性疾患
糖尿病、肥満、がんといった非感染性慢性疾患は、全世界の死因の大部分を占めている。
不健康な食事や飲酒、運動不足、喫煙などの生活習慣が、これらの疾患の主なリスクとされている。新たな研究は、CBTが精神疾患だけでなく、このような生活習慣を改善する上でも有効であると示すものだ。
認知に目標に沿った行動を心がけることで、CBTは患者が持つ不健康な行動や考え方に対して、新しい視点やそれらと向き合う技術を提供できる。
たとえば、過度な食事や運動不足に対する考え・感じ方の改善に挑戦し、実践することで、より健康的な生活習慣を形にする手助けになるという。
CBTのプロセス
CBTでは、ストレスを伴う出来事が起きた時に起こる変化を「認知」「感情」「身体」「行動」の4つの側面に分け、その中で比較的自分の意思でコントロールしやすい「認知」と「行動」にアプローチする。
例えば、悲しい時に「悲しむのを辞める(感情)」とか腹痛時に「痛みを止める(身体)」のは至難の業だが、一方で「考え方を変えること(認知)」と「とりあえず違うことをしてみる(行動)」のは可能だ。
簡潔に言うと、物事の捉え方に働きかけてストレスを軽減する心理療法。
認知が歪むと何でもないことが大きなストレスとなり、行動にも影響が出てしまう。これが悪化していくとうつ病をはじめとする精神疾患に繋がっていく。また、行動面に悪影響が及べば、それが肥満や糖尿病といった身体的な慢性疾患にも繋がるのだ。
カウンセリングなどで認知の歪みを整え、それを改善する行動を実践していくことで、同じ場面でもストレスを軽減し気持ちをコントロールできるようなるという。
より具体的には、たとえば認知面に対しては、出来事への捉え方を見直したり、考え方を広げたりすることで気分を楽にする「認知再構成」という技法がある。
一方、行動に対しては、生活リズムを整えたり、喜びや達成感がある活動を増やしたりして、物事の回避や先延ばしを減らす「行動活性化」の技法が用いられる。
多くの生活習慣病に効果的との研究結果
スロベニア最大の病院である「リュブリャナ大学医療センター」が行った最新の調査では、このプロセスを踏むことで、生活習慣の改善も期待できることが分かった。
研究は、二型糖尿病と肥満に焦点を当てて行われた。
PubMed(生命科学や生物医学に特化した検索エンジン)などのデータベースを参照し、902人の被験者を含む9件の研究から生活習慣改善と慢性疾患に焦点を当て、CBTの効果を評価。BMIの変化や体重減少、ヘモグロビンA1cレベルの変化などの健康関連の結果を軸としている。
その結果、CBT被験者は、その他の治療の被験者と比較して体重減少や体重維持に良い傾向がみられ、CBTの効果が示されたそう。また、食事の質の向上や、二型糖尿病患者の血糖自己モニタリング、薬の服用順守の向上にも効果があったという。
さらに、これに伴って、CBTは運動量の増加や喫煙率の減少、うつ症状の改善にも効果的であると報告された。
注目が集まることで、より多様な手段の模索へ
この結果により、CBTは生活習慣の改善や肥満治療、精神疾患の緩和に中程度の効果があることが示された。糖尿病や肥満といった非感染性慢性疾患への効能をさらに深く理解するためには、より多くの研究や評価が必要となる。
今回の結果によってCBTはより注目を集めるだろう。この先、認知の変化や行動の実験を利用して患者の健康を向上させる、より多様な方法が模索されていくと期待しよう。