米軍崩壊の危機。肥満や学力低下により、競合国に遅れをとる懸念
米軍が、新兵の獲得をめぐり歴史的な危機に直面している。
2020年のペンタゴンの研究によれば、米国の若者のうち、実に77%もの人々は「兵役に適格でない」とされている。
世界で物騒なニュースが飛び交い続ける現在、これは中国をはじめとする競合国への戦力において危機的な状況であるという。
理由は多岐に渡り、主な問題となっているのは「健康」「学力」「関心」に関するデータだ。かつて軍事大国として世界をリードしたアメリカだが、20世紀以前と比べて若者の状況はどれほど変化したのか、見ていこう。
もっとも深刻なのは健康問題
この危機の最大の原因は健康問題で、特に「過体重」が11%ともっとも高い。
薬物とアルコールの乱用は8%、それに続いて精神・肉体的な健康問題が7%を占めている。この傾向は2013年から2020年にかけて増加しており、特にメンタルヘルスと体重増加の問題が目立っているようだ。
一般的に認知される通り、現在のアメリカの肥満率は非常に高く、これは若者においても例外ではない。さらにメンタルヘルスや薬物といった現代の若者に顕著な社会問題が加わるため、1世紀前と比べて若者の健康水準はかなり低いことが窺える。
教育水準も低下
低い教育レベルも米軍の新兵獲得を困難にしている。
米軍の入隊には高校の卒業資格が必要だが、多くの若者がこの基準を満たしていない。さらに、米国は「STEM」(科学、技術、工学、数学)のスキルで競合国に後れを取りつつあり、これが軍事的・社会的な優位性にも影響を与えることが危惧されている。
2019年のデータでは、米国は数学のスコアでは国際的に15位となっており、中国、韓国、日本、シンガポール、ロシアなどに後れを取っている。
また、高校の卒業率は83%と報告されているものの、この数字は低い基準での卒業やデータの不足、他のプログラムへの転校などを考慮していないとされており、実態はさらに低いことも考えられる。
現代の軍事戦では専門のスキルや高度なSTEM部門が極めて重要とされるため、こうした学力の低下は軍にとって致命的な問題なのだ。
そもそも「軍への関心」が低下傾向
米国防省は、新世代の若者は軍に対して以前よりも無関心であると報告。
『ウォールストリート・ジャーナル』のベン・ケンズリング氏も、各軍種が新兵の獲得目標を大きく下回る可能性が高いと指摘している。
これには、失業率の低下や「Woke」とよばれるカルチャーも関係しているという。
米国における失業率は、54年ぶりに最低レベルの3.4%まで下がっているため、多くの若者にとって軍以外の雇用が魅力的なわけだ。
これに加えて、長年にわたるアフガニスタンやイラクでの戦争、特にアフガニスタンからの急な撤退が、一般の人々の軍に対する信頼を失墜させている。
「Woke」は、人種や性別、性的指向といった社会的な問題に対する高い意識や認識を意味する語。元は左翼の思考とされていたが、現代では揶揄やスラングを含めた「ポリコレ」に近いニュアンスとなっている。
社会的な意識であるWokeの広がりも、軍を前時代的なものと見做し関心を失わせる要因となっているようだ。
状況改善は喫緊の課題に
以上のように、様々な社会的要因が、米軍の新兵雇用状況を追い立てていることが分かる。
それでも解決の糸口を見つける必要があり、健康改善プログラムや教育促進、そして軍に対する信頼回復が喫緊の項目だ。そして、それらを達成することが、米軍が未来においても優れた戦力を維持する鍵となる。
多角的な問題が積み重なる中、どのような手段でこの危機を乗り越えるのかが注目される。状況は日々変わるが、改善の兆しは見出せるのか。
かの“軍事大国”アメリカですが、メンタルヘルスや肥満、学力低下などで次の世代は厳しい状況のようですね。そもそも、これは軍というより「国家そのものの危機」と呼べるのでは……?
ただ、後半の要因「失業率の低下」と「Wokeの影響」という点を踏まえると、ある意味現代的な、未来に向かう意識も感じさせられます(Woke急進派が暴力と離れているかはさておき)。
アメリカ、そして世界は、これからもずっと軍事力で競り合う気なのか?という話なのかもしれません。