フランスに、34歳「史上最年少」の首相が誕生。高い人気を誇るその素顔とは……?
フランスの政界にもたらされたフレッシュな新風は、難航する現状を打破することができるのだろうか。新たな首相に期待が高まっている。
1月9日、エリザベット・ボルヌ前首相に代わり、34歳のガブリエル・アタルが新たな首相に任命された。1984年に指名されたローラン・ファビウス氏の37歳を塗り替え、1958年以降の第五共和制下における“史上最年少”の首相となった。
また、同性愛者であることを公にした初の首相でもある。
持ち前のビジュアルと政治的手腕で注目を集めてきたが、その若さゆえに今の国政をリードする技量について心配する声も少なくない。
一方、マクロン大統領は「君のエネルギーと献身を頼りにしている」と自身のXでコメント。
ニューフェイスの誕生に色々と注目が集まっているようだが、果たして彼はどんな人物なのだろうか?生い立ちから学生時代の様子まで、アタル首相の中身をサクッと見ていこう。
映画プロデューサーの父のもと
「俳優」を目指した幼少期
1989年にパリの郊外に生まれ、弁護士であり映画プロデューサーの父と貴族の家系に生まれた母のもと、裕福な家庭で育つ。
今でこそ若き首相たる敏腕政治家だが、実は、幼い頃は俳優になることを夢見ていたのだとか。
エリートを輩出するパリ6区にある名門校「エコール・アルザス」の出身で、芸術の教育を重視する学校の方針のもと、幼い頃から演劇に打ち込むようになる。
「INA(フランス国立視聴覚研究所)」が発見した、同校に通う当時9歳のアタルの映像がこちら。
「お父さんは映画業界で働いていて、もし有名な俳優になりたいなら演劇から始めないとと言われた」と話す。演劇のショーにも毎年出演していたのだそう。
雄弁に語り、リーダーらしく振る舞う(演じる)力は、ここで培われたのだろうか。
『BBC』によると、2017年に議会へ初当選を果たしたアタル氏は「討論者としての才能を発揮し、新人議員の中で最も優秀」で、大統領からも注目されていたそう。その3年後には、政府報道官にも任命されている。
メディアに露出する機会が増え、抜け目のない適切な答弁や冷静かつ堂々とした対応が、世間の一定の支持につながっていることは確かだ。
大学時代から「将来の大統領」との期待。
生粋のカリスマ?それとも……
INAが公開した興味深い動画は他にも。
こちらは、フランスのテレビ局「France2」の番組で、当時22歳のアタルが学生たちと政治について話す映像だ。
司会者が「彼(アタル)は良い政治家になると思う?」と尋ねると、ひとりは「私は彼に投票します」と答え、別の学生は「彼は将来の大統領だ!」と自信満々。
政権入りして6年、政府報道官や国民教育相を経て、あっという間に首相まで上り詰めてきた。「将来の大統領」も夢ではないのでは……と感じてしまうほどの勢いだ。
今年1月発表のある世論調査では、39%の支持率と高い数字を記録。去年5月の22%から、大きく人気を伸ばしている。
さて、マクロン大統領が、このタイミングで若々しく人気のあるアタル氏を首相に選んだことには、どのような狙いがあったのだろうか?
ここ数年のフランスでは、年金改革に対する激しい抗議デモ、移民受け入れの厳格化をめぐる与党内の分裂などが引き金となり、マクロン政権の威信に大きな揺らぎが生じている。
このままでは、6月の欧州議会議員選挙で勝利を掴むことは難しいと思われているのが現状だ。
アタル氏は中道左派に分類されるが、昨年に公立校でのアバーヤ(イスラム系の民族衣装)の着用禁止に踏み切ったことで、右派からも一定の好感を得ている。大統領の政敵である右派「国民連合」に対抗する駒として彼を選んだとなれば、納得もいく。
夏にはパリ五輪も控えているだけに、行き悩んだ国政を、ここで一気に立て直したいと考えてのことだろう。
しかし、果たして彼に、滞った現状を吹き飛ばすほどの突破力があるのだろうか。今試されているのは、人気を集めるカリスマ性だけではなく、国を確実に牽引する政治力だ。
ただ心地よいだけの春風ならば、一大イベントが待ち構える夏を乗り切ることはできないだろう。