究極の寝心地は、日々ベッドを「ととのえる」ことで生まれる

新年度がスタートしました。心も身体もそして環境もととのえていくなかで、だれもが重要と考えているのが睡眠ではないでしょうか?

2021年に経済協力開発機構が世界33ヵ国を対象に「各国の時間の使い方」を調査。平均睡眠時間の各国比較をしたところ、日本は平均7時間22分ともっとも短いことが明らかになりました。

睡眠の質が問われる昨今。いい眠りなくしてパフォーマンスは発揮されません。そして、質とともに大切なのが睡眠環境です。

コイルの弾性がなくなったマットレスやぺらっぺらのせんべい布団では、良質な睡眠を手に入れるなんて難しい。食と同じように自分の体を、心の健康をつくるもの。それが“居心地のいい寝床”ではないでしょうか。

そこで、いま一度ご自身の睡眠環境について考えてみていただきたいのです。

チンパンジーがつくりだす
極上の「寝心地」

撮影/座馬耕一郎
撮影場所/タンザニア マハレ山塊国立公園

霊長類進化の過程で分岐したチンパンジーがどのように眠りについているか、ご存知ですか?

アフリカ赤道付近の熱帯林や乾燥林に生息する野生のチンパンジーたちは、なんでも木の上で眠っているんだそう。肉食性の動物から身を守るため、自衛本能もあるでしょう。でも、どうやら他にも理由があるようです。

チンパンジーは木の上で枝葉を幾重にも敷きつめ、ふかふかの葉っぱのベッドをつくり体を休めます。枝葉は楕円形に組まれ、縁が盛り上がり、中がくぼんだお皿のような形をしているんだとか。その中でチンパンジーは横向きになったり、うつ伏せになったりしながら深い眠りにつく……。

自分にとって最良の寝心地をもとめて“専用ベッド”をつくるという行動が、チンパンジーたちの生活のなかで、親から子へ連綿と受け継がれているようなのです。

その寝心地、
まるで「ゆりかご」のよう

さて、この森の中のベッドに体を横たえた日本人研究者がいます。20年以上にわたって野生チンパンジーの研究を続ける、長野県看護大学の座馬耕一郎准教授がその人。

低反発の枕でも体がほどよく沈み込むようなマットレスでもない、タンザニア原生林のなかで座馬さんが出会った、人生最高の寝心地。

折り曲げられた長い枝は丈夫な土台となり、葉のついた小枝を網目に敷き詰めることで、積み重ねた葉の一枚一枚が弾力を生み、体を包み込んでくれる。氏によると、それはじつにロジカルに組成されていたそうです。

後に座馬さんは、その寝心地を未体験の私たちにもわかりやすいこんな言葉で表現しています。以下、「The Guarudian」より抜粋してご紹介しましょう。

「チンパンジーのベッドは体を包み込むように設計されているため、非常に快適でした。木の高い位置に作られることで、体の動きに連動して枝葉も揺れる。ゆりかごの原型とも言えるでしょう」。

 

あの寝心地を人間のベッドで再現したなら──。

そんな夢物語が現実のものとなったのが、今から8年前のこと。デザイナー石川新一氏、そして京都の老舗寝具メーカー「株式会社イワタ」とともに開発したのが、チンパンジー研究と睡眠文化研究から生まれた「人類進化ベッド」です。これ以上ないほどに的を射たネーミング。ほれぼれしてしまいます。

自分にとっての心地よさを
日々、自分で作りだす

©株式会社イワタ
©株式会社イワタ

ご覧の通り人類進化ベッドは楕円形をしています。形状も独特なら、マットの周囲が360度“どこでも枕”というのもまた独特じゃないですか。

気分によってあるいは体調によっても、自分が「心地いい」と思える寝姿勢って、毎度一緒とも限りませんよね。デスクワークで1日座りっぱなしの日、ずっと外回りで電車に揺られっぱなしの日、ジムやアウトドアアクティビティで疲労が溜まった日だってあるでしょう。蓄積した体の負担をどう休めるか。同じように思えても、ちょっとずつ寝姿勢にも違いとなって顕れているんじゃないか。と思うわけです。

そういった日々変化する最適な寝姿勢にそっと寄り添ってくれる、このベッドならではのギミックが随所に。

©株式会社イワタ
©株式会社イワタ

たとえばフレームを支える格子状に張った麻のベルト。これを調整することで土台部分のカーブを微調整したり、マットレスとフェザーを移動させて枕の高さを変えることも。

また、楕円形である利点を活かし、横向きで寝そべれば膝を曲げたり背中を丸めたりと、頭の先から足元まで好きなように体を収めることもできるというわけです。ちょうど横向きの姿勢でハンモックに包まれたときのような感覚に近いのかもしれません。

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ベッド=長方形のあの規格をスタンダードに住環境が整備されてきたことを思えば、楕円の人類進化ベッドは空間に最適化された設計とは言いづらい面もあります。加えて海外のベッドブランドや国内寝具メーカーと比較しても、寝心地よろしく価格(42万9000円〜)も極上の品。ですから、かんたんに「オススメです!」なんて書くつもりはありません。かく言う筆者もまだ、問い合わせフォームへの記入を躊躇っている一人です。

では、なぜ新製品でもないこのベッドを令和のこの時代に取り上げたかったか。

“古きを尋ね新しきを知る”ではありませんが、人類のあゆみと睡眠の歴史を丁寧に紐解いていくなかで生まれた、古くてまったく新しいベッドに従来とは違ったアプローチを感じたからに他なりません。

体型や体格に合う心地よいベッドを探すのも一考ですが、チンパンジーに倣えば、本当に“居心地のいい寝床”というものは、日々自分たちの手によってととのえられ、作りだされるものなのかもしれませんね。

人類進化ベッド

【公式ページ】https://www.iozon.co.jp/jinruishinkabed

Top image: © 株式会社イワタ
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