日本一小さいプライド・パレード『西湘クィアプライド』に参加してきました

なんだか雨が降ってきそう──。
分厚い雲が空に広がる6月最終日、私は神奈川県の真鶴町にいました。いつもは、住まいのある静岡から東京へ出るときも通り過ぎてしまう真鶴駅に、降り立った理由はただひとつ。

“日本一小さなプライドパレード”に参加するためです。

日本一ちいさなプライド・パレード
「西湘クィアプライド」

「西湘クィアプライド」は、プライド月間である6月に真鶴町で行われる、同県唯一のプライドパレード。LGBTQ+当事者や、日頃から社会のジェンダー規範に違和感を感じている人々がこの町に集合し、自分らしい性のあり方を祝福、クィアたちに与えられているはずの権利を主張する「デモの場所」としてスタートしました。

企業や団体からのスポンサーは一切なし。有志の個人が人口7000人の小さな港町ではじめた、私が知る限り、日本一小さいプライド・パレードです。

seisho_queer_pride / Instagram

ちなみに本イベントの開催は今年で2回目。初回となった昨年は、「西湘“レインボー”プライド」と称していたそうですが、今回から「西湘“クィア”プライド」と改名。ピンクウォッシュ企業に多用されがちな“レインボー”ではなく、当事者が誇りをもって使いはじめた“クィア”という言葉こそ、このパレードにふさわしいと考えたからだそうです(詳しくはInstagramの投稿をcheck!)。

参加のきっかけとなった記事
主催者との出会い

私が今回参加するきっかけとなったのは、TABI LABOでとある記事を書いたこと。

「プライド月間らしいことは、何もしないまま最終週まで来てしまったけど、ちゃんと見える形でお祝いしたい」。

そう思っていたときに、西湘クィアプライドのお知らせが、主催のびびさんのInstagramから周ってきました。

びびさんはフランス出身で、3年前に真鶴に移住したクィアの方。昨年とある雑誌のイベントで、知り合いました。嬉しそうに真鶴町のこと、クィアプライドのことを話してくれるびびさんが印象的で、「いつか参加したいな」と思ったんだっけ。

てことで、一人で乗り込む

©西湘クィアプライド

今回、直前まで参加できるかわからなかったこともあり、友人や知り合いは誘わず、一人で参戦。相当アウェーな感じになるんだろうなと思っていたのですが……。

©西湘クィアプライド

みんなめちゃくちゃウェルカム!集合場所に着くやいなや、びびさんだけでなく、いろんな人が声をかけてくれました。

「どこから来たんですか?」
「何で知ったんですか?」

お互いの素性を話していると、「え、前あったことある!」なんて人や、「もしかして、前からチェックしていたアーティストさん?」なんて、予期せぬご縁にも巡り会えたり。集団に加わっておよそ10分、すっかり馴染むことができました(笑)

場もあったまってきたところで、
いざ出発!

時刻は11:30。参加者もかなり集まってきたところで、いざ、真鶴の町へ!アップテンポな音楽とともに、ゆっくりと隊列が動き出します。

隊列が向かうのは、真鶴駅からおよそ1km離れた真鶴港。海に向かって、緩やかな坂を下っていきます。

©西湘クィアプライド
©NEW STANDRAD 2024

人だけではなく、わんこも一緒に。

©西湘クィアプライド

性別も国籍も、年齢も、みーんなごちゃまぜ。文字通りカラフルなマーチは、思わず踊りたくなっちゃう!

ん?めっちゃ堂々と歩けるぞ?
寛容すぎる真鶴の人たち

©西湘クィアプライド

歩いていて驚いたのが、真鶴の人たちの反応でした。小さな町ゆえ、参加者たちはあまり歓迎されないのかな〜なんて思っていたら、むしろその逆。家の目の前を通ると、わざわざ外に出て、笑顔で手を振り返してくれるのです。

そういえば……周りを見渡すと、商店、街灯、協働センターなど、町のいたるところにレインボーフラッグが飾られています。その鮮やかさといったら、曇天なんて忘れてしまうほどに。

©西湘クィアプライド

びびさんがこのクィアプライドをはじめたのは、クィアである自分を隠して生活したくなかったから。移住した翌年からプライド関連のイベントを開催し、真鶴の人たちに自分たちのことを知っていってもらったそうです。

もともと移住者にはやさしい町とのことですが、びびさんたちのはたらきが、決して今日だけではない、連帯を真鶴につくっていったのでしょう。

「真鶴だから、びびさんたちがいたから、私たちは堂々と歩けているんだ」

沿道から声援を受ける真鶴のクィアたちを見て、「有難う」と、心の中でつぶやきました。

ついに到着!

©西湘クィアプライド

終始ハッピーな気分で歩くこと、およそ20分。ついに目的地の真鶴港に到着です!港で開かれていた「なぶら市」に集まった地元の方々がやさしく出迎えてくれました。

©西湘クィアプライド

参加者に、労いと感謝の言葉を述べるびびさん。

「Thank YOU!」「こちらこそありがとう!」という声があちこちから聞こえてきます。歩いているときは気がつかなかったけれど、隊列はいつのまにか、かなりの大所帯となっていた模様。地元メディアによると、今回のパレードには県内外からおよそ100人が参加していたそうです。

(……そのうち、そのうち日本一小さくなくなるかも?)

©西湘クィアプライド

マーチが終わっても、なかなか港を離れない参加者たち。写真を撮ったり、あとから隊列に加わった人とお話したり、感想をシェアしたり……。いつしか、雨予報だった空には晴れ間が見えていました。

その後、アフターパーティーへ

その後、一緒に歩いたみなさんと、真鶴を散策。数十分前まではじめましてだった人も、今や昔から知っていたかのよう(笑)

最近Threads(スレッズ)で呟いたこと、描き始めている絵のこと、お気に入りのドラァグクィーンのこと……いろんなことを話しながら、アフターパーティに参加するため、2駅離れた熱海へ向かいました。

© Gothmura
© NEW STANDARD 2024

アフターパーティーでは、シンガーソングライターでもある運営サポートメンバー、Yuki Avocadoさんと、そのお母様であるYoshikoさんが歌と演奏を披露。お2人のソウルフルでやさしい歌声とピアノ、音に揺れる聴衆のやさしい顔は今も忘れられません。

「ここは安全な場所だ」──きっとその場にいた全員が、そう感じていたはずです。

私にとってマーチは、仲間と出会える場所

そういえば、皆さんは「デモ」や「パレード」と聞いて、何を連想しますか?

怖い?過激?近寄りたくない?大半の方はネガティブなイメージを抱いているかもしれません。しかし、私にとってデモやパレードというのは、「仲間と出会える場所」。社会に対する違和感や過去の痛みを共有し、一緒に立ち上がってくれる人を見つけられる、そんな場所です。

西湘クィアプライドはまさにその最たる例。日本一小さいけれど、日本一あたたかい。たった1kmのマーチで、「あなたはひとりじゃない」と教えてくれました。

©西湘クィアプライド

プライド月間は終わっても
「みんなが自由になるまで、
誰も自由じゃない」

みんなが自由になるまでは、誰も自由ではない

西湘クィアプライドで一番大きなプラカードに書かれていた言葉です。プライド月間はとっくに終わりましたが、私たちの戦いは続きます。

理不尽な規範によって苦しむ人がいなくなるまで、みんなが自分らしさに誇りを持てるようになるまで──。クィアたちは真鶴に集い、自由のために歩き続けるのです。

Top image: © 西湘クィアプライド
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。