【問題作】トランプの「伝記映画」大統領選直前に全米公開

世界中でその動向が報道されている次期アメリカ合衆国大統領選。11月5日、ついに決する。世界的にも強い影響力を持つ「合衆国大統領」の座を狙う共和党候補、ご存知ドナルド・トランプ。大一番を目前に控えた10月11日、日本では考えられないようなことが、アメリカでは起きていた。

トランプの伝記映画、ついに全米公開

Instagram / studiocanaluk

現地時間11日、全米で『The Apprentice』が公開された。国のトップを決める重要な選挙の直前に、候補者の伝記映画の封切り。これが自由の国・アメリカといったところか。

本作の監督は、手掛ける作品すべてが「カンヌ映画祭」に出品されている問題作メーカーのアリ・アバッシ。脚本担当は、長年トランプを追ってきた政治ジャーナリストのガブリエル・シャーマン、さらにトランプを演じるのは、『キャプテン・アメリカ』シリーズで知られるセバスチャン・スタンなど、気合いの入った制作陣で構成されている。

同映画は5月に開催されたカンヌ国際映画祭でプレミア上映され、既に全米公開までの6週間で複数の映画祭に出品されるという話題作。日本での公開は2025年1月17日よりTOHOシネマズ日比谷ほか、全国公開が決定している。

Instagram / allyn_hiddlestan

弁護士ロイ・コーンが作りあげた
怪物「ドナルド・トランプ」

本作はテレビタレント、そして大統領就任へとのぼり詰め名を馳せる以前、トランプが不動産業界で成功を収めるまでのサクセスストーリーが描かれている。

Instagram / bookshelfnews

1970年頃に不動産開発を始めたトランプだが、まだビジネスマンとしては未熟であった。さらにその頃、連邦政府との裁判を控え、強力な弁護士を必要としていた時期。そんな彼の前に現れたのは、ロイ・コーン弁護士だ。彼は50年代にマッカーシー上院議員の側近として「反共産主義運動」を推進したことで、既に業界では有名な人物だった。

非常に攻撃的で無慈な戦術を取ることでも知られ、トランプの裁判でも積極的な反撃を行っていく。トランプに対しては「決して謝らない」「攻撃し続ける」というアプローチを徹底的に植え付けていったとも。そうして彼は単なる弁護士としてではなく、トランプのメンター的存在になっていく。

実際、トランプはその戦術によって様々な実績を収めるが、コーン弁護士の助言によって未熟な青年から“勝利第一の”冷酷無比な男へと変化していく様子が、今作には色濃く描かれている。最終的にトランプは、コーン弁護士までもがあつかえない「怪物」となっていくのだった……。

YouTube / オリコン洋画館 ORICON NEWS

トランプ陣営、制作陣、消費者             3つの視点から見る「問題作」

若くして巨万の富を築いた大統領候補のサクセスストーリーが選挙直前で公開され、トランプ旋風が巻き起こるかと思いきや……どうやら現実はすこしばかり違うようで。

もちろん、作品の内容に納得するはずもなく、トランプ陣営の広報担当者はカンヌ映画祭でのプレミア上映後「これは、完全なフィクションだ。我々は、この悪意ある中傷に対して訴訟を起こすかまえでいる」との声明を発表。さらに、親トランプ派で知られる米大物プロデューサー、ダン・スナイダー氏は米国での公開差し止めのために出資したと報じられたりと、反発は大きかったようだ。

しかし、そんな抵抗もむなしく業界ではベテランのトム・オーテンバーグ率いる「ブラークリフ・エンターテインメント」がついに全米公開へと漕ぎつけた経緯がある。

先週行われた試写会でトランプ側からの訴訟について聞かれたアリ・アバッシ監督は、「彼には今もっと大変なことが起きていますからね」と余裕の様子で答えている。そんな監督は、トランプサイドに特別な上映会のオファーをしており、今回の作品についてトランプのイメージダウンを狙うものではなく、事実に基づくフェアな作品であることを主張しているようだ。

と、さまざまな背景を宿した『The Apprentice』。だが、本作は単なるトランプの伝記映画ではないのかもしれない。成功と挫折、そして人間としての光と影を、ありのままに映し出すことで、私たちに多くの“問い”を投げかけてくる。「成功とは何か?」「そのために、私たちはどこまで自分を犠牲にすることができるのか?」と。

アメリカ史上、もっともヤバい大統領候補の人生を通して我々が学ぶことは多いのかもしれない。

Top image: © Bill Pugliano/Getty Images
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。