スイスとイタリアの国境変更か。「氷河融解」で変わる世界地図
「永久の雪」と形容されることもある氷河。しかし、その壮麗な景観は、地球温暖化の脅威にさらされている。
目印を失った国境線
「BBC」によると、アルプス山脈の国境線を共有するスイスとイタリアが、国境線の一部を変更することに合意したそうだ。原因は、地球温暖化による氷河の融解。
両国の国境線の大部分は、これまで氷河の稜線や万年雪のある地域を基準に定められてきた。しかし、地球温暖化の影響で氷河が後退し、これまで通りの方法で国境線を定めるのが困難となり、今回の変更を余儀なくされたようだ。
この事態は、地球温暖化が私たちの想像をはるかに超えるスケールで進行していることを示している。スイスの氷河は2023年だけで体積の4%を失い、2022年の6%に次ぐ過去2番目に大きな損失である。「スイス氷河モニタリング・ネットワーク(Glamos)」は、記録的な猛暑と降雪量の少なさに原因があると指摘している。
環境問題が国家間の課題に発展?
今回の協定は、地球温暖化が環境問題の枠を超え、国家間の境界線、ひいては安全保障や経済活動といった国家の根幹に関わる問題にまで発展している現実を、私たちに突きつけているのではないだろうか。
国境線の変更には、これまでどちらの国にも属していなかった土地の所有権や、変更された国境線の管理や警備など極めて重大な問題が大小つきまとう。陸続きの国境を持たない日本にとっては対岸の火事のように思えるかもしれない。しかし、国土が海に囲まれ、海面上昇の影響を受けやすいという点において、他人事とは言えないだろう。
今回のスイスとイタリアの国境変更は、地球温暖化がもたらす影響の意識しづらい側面を認識させられる出来事。本協定は既にスイス国内で承認されており、イタリア側の承認が得られ次第、具体的な国境線の変更が行われる予定だ。
この協定がどのような結果をもたらすのか、今後も両国の動向に注目していく必要がある。
世界各地で陸続きの隣国間の戦争が絶えないなか、島国である日本も、海上の国境では頻繁に近隣諸国とのトラブルが発生する。国家の安全において極めて重大である国境線が地球温暖化によって変化してしまうのであれば、私たちの地球温暖化防止に向けた取り組みは間接的に「国防」に参加しているとも捉えられなくもない。