タイタニック号の記憶を宿すティファニーの「懐中時計」

1912年、豪華客船「タイタニック号」の沈没事故という未曾有の悲劇は、世界中に衝撃を与えた。しかし、その影で多くの人々の勇敢な行動と、深い慈悲が生まれたことは、あの映画を通しても知るところ。そして今、1世紀の時を経て、その時の"想い"を伝える貴重な品が姿を現した。

海を渡った「感謝」の証
タイタニック号と懐中時計

「ティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン・インク」の発表によると、この12月イギリスで行われたオークションにおいて、同社はひとつの懐中時計を197万ドル(約3億円)という記録的な価格で落札した。それは、1912年に製造された18Kゴールド製の懐中時計。タイタニック号の遺品としては過去最高額の品である。

この懐中時計は、単なる高級品ではない。そこには、100年以上前のあの日、極限状態の中で生まれた「感謝」の物語が刻まれていた。

沈没するタイタニック号から、多くの乗客を救出したのは、現場に駆けつけた客船カルパチア号だった。この懐中時計は、そのカルパチア号の船長アーサー・H・ロストロン氏への感謝の印として、タイタニック号の生存者3名によって贈られたものだ。

時を超えて蘇る
時計に込められたメッセージ

裏蓋には、「1912年4月15日、タイタニック号の生存者3名より、心からの感謝と敬意を込めてロストロン船長に贈呈。John B.Thayer夫人、John Jacob Astor夫人、George D.Widener夫人」というメッセージが刻まれている。贈り主の3名は、いずれも当時を代表するアメリカの著名な女性たちであったという。

さらに、ケースバックには船長のイニシャル「AHR」のモノグラムが。事故からわずか数日後、Astor夫人がニューヨークの邸宅で開いた昼食会で、ロストロン船長に手渡されたという。タイタニック号の生存者たちが集まったこの会は、当時の新聞にも記録が残る特別なものであったという。

100年以上もの間、人から人へと渡り歩いたであろうこの懐中時計。そして今回、再びティファニーの元に帰ってきた。

「ティファニーのジュエリーやオブジェは、19世紀半ば以来、世界のラグジュアリーの礎となってきました。ロストロン船長の懐中時計は、感謝の気持ちを表現した素晴らしいアイテムであり、この特別な宝物を再びティファニーに迎えることができて、身の引き締まる思いです」と、ティファニーのクリエイティブビジュアルマーチャンダイジング、イベント及びアーカイブを統括するヴァイスプレジデント、Christopher Young氏は語る。

©ティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン・インク

モノが語る、本当の豊かさとは?

大量生産・大量消費が進む現代社会。しかし近年、環境問題への意識の高まりから、エシカルな消費、サステナビリティといったキーワードに注目が集まっている。

今回のティファニーの決断は、まさにこうした時代の流れを象徴するものと言えるだろう。100年以上前に作られた自社の製品を買い戻し、その歴史的価値を守りながら未来へ繋いでいく。それは、単なる企業戦略ではなく、真の豊かさとは何かを問いかけるメッセージとも捉えることができるのではないか。

流行や目先の価値観にとらわれず、本当に大切なものを選び、長く大切に使い続ける。そんな姿勢こそが、これからの時代、私たちに求められているのかもしれない。

Top image: © ティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン・インク
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。