「まじトラウマ」で済ませてない? 「セラピースピーク」の正しい使い方

「セラピースピーク」という言葉を聞いたことがありますか?心理学の専門用語のひとつですが、日常会話に浸透することで共感しやすくなるいっぽう、誤用のリスクも存在します。この記事では、セラピースピークの意味や具体例、影響についてくわしく解説していきます。

セラピースピークとは?
意味と背景を解説

心理学やカウンセリングの専門用語が、日常会話の中で使われることが増えています。これを「セラピースピーク」と呼びます。

メンタルヘルスへの関心が高まるなかで、心理的な状態を表す言葉が広まり、会話のなかで使われることが増えてきました。しかし、言葉の意味が曖昧になったり、本来とは違う使われ方をすることもあります。ここでは、セラピースピークの定義と広がった背景について解説します。

セラピースピークには
どんな言葉が含まれるのか

セラピースピークとは、もともと心理学やカウンセリングの現場で使われていた言葉が、一般的な会話の中で広まったものです。たとえば、「トラウマ」「ガスライティング」「HSP(Highly Sensitive Person)」などがその代表。

これらの言葉は、もともと特定の心理状態や症状を指していましたが、最近では「ちょっとした嫌な出来事」や「相手が自分の意見を認めないこと」など、より広い意味で使われることが増えています。

セラピースピークが普及した背景

セラピースピークの普及には、いくつかの要因があります。第一に、メンタルヘルスに対する社会的な意識の変化が挙げられます。かつてはタブー視されがちだった精神的な健康の問題が、近年ではオープンに語られるようになってきました。

第二に、SNSの影響も大きいと考えられます。TwitterやInstagram、TikTokなどでは、心理学の知識を発信するアカウントが増えており、これが若い世代を中心に広がっています。短い動画や投稿で手軽に知識を得られるため、専門用語が急速に広まりました。

また、ストレス社会のなか「自分の状態を適切に説明したい」というニーズが高まり、心理学的な言葉がその手段として用いられるようになったことも、セラピースピークの浸透を後押ししていると考えられます。

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日常でよく使われる
セラピースピークの具体例

セラピースピークは、現在、日常会話やSNSのなかで多くの人に使われています。心理学の専門用語がどのように広がり、どのような意味合いで使われているのか、具体的な例を紹介しましょう。

よく使われるメンタルヘルス関連の言葉

最近、日常会話やSNSでよく耳にするセラピースピークには、次のようなものがあります。

  • HSP(Highly Sensitive Person)
    「刺激に敏感で感受性が強い人」を指す。本来は心理学的な概念ですが、現在では「ちょっと繊細な人」くらいの意味で使われることもある。

  • 燃え尽き症候群(バーンアウト)
    仕事や勉強に対する意欲が極端に落ちる状態を指す。しかし、実際には一時的なモチベーション低下のことを指して「燃え尽きた」と使うことも増えている。

  • ガスライティング
    本来は「相手の現実認識を操作し、精神的に追い詰める行為」を指すが、日常会話では「意見を否定された」「話をすり替えられた」といった状況で使われることも。

  • 自己肯定感
    心理学では、自分の存在価値を認めることを指すが、日常では「ポジティブな気分」程度の意味で使われることも。

SNSでの拡散|専門用語のカジュアル化

SNSでは、短い投稿や動画で心理学的な概念が紹介されるため、セラピースピークが拡散しやすくなっています。そのため、言葉の意味が変化しやすい特徴があります。

たとえば、「ガスライティング」という言葉は、本来の定義よりも「単に意見が食い違ったとき」に使われることが増えています。こうした広がり方には注意が必要かもしれません。

コミュニケーションに与える影響

セラピースピークは、メンタルヘルスに関する話題をオープンにするという利点がある反面、誤用や軽視のリスクが潜んでいることも意識しなければなりません。ここでは、その影響について詳しく見ていきます。

【ポジティブな影響】
メンタルヘルスをオープンに話せるようになる

セラピースピークが浸透することで、メンタルヘルスについて話しやすくなるというメリットがあります。一例を挙げれば、「HSP」という言葉を使うことで、自分の気質を理解し、他者に伝えやすくなることもあります。

また、職場や学校などでも、メンタルヘルスに関する知識が広がり、心理的安全性が高まる可能性が考えられます。

【ネガティブな影響】
言葉の軽視や誤解のリスク

いっぽうで、本来の意味とは異なる使い方をされることで、誤解が生まれることもあります。

たとえば、「トラウマ」という言葉は、本来は深刻な心理的ダメージを指しますが、最近では「ちょっと嫌な経験」を指して使われることが増えてきました。このように言葉が軽く扱われると、本当に支援を必要としている人の声がかき消されてしまう可能性があります。

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日本でのセラピースピークの広がりと
今後の展望

欧米を中心に広まったセラピースピークは、日本でも徐々に普及しつつあります。けれど、日本には独自の文化や価値観があり、海外と同じ形で根付くとは限りません。ここでは、日本におけるメンタルヘルスの意識や、セラピースピークがどのように受け入れられているのか、今後の可能性について考察していきます。

日本のメンタルヘルス意識
セラピースピークの普及に必要な要素

メンタルヘルスに対する意識が近年高まりつつある日本。企業の福利厚生としてメンタルヘルスケアを導入する動きや、学校教育での「心の健康」に関する取り組みが進んでいます。ですが、欧米と比べると「メンタルの問題をオープンに語る」ことに対して、依然として抵抗を感じる人が多いのも事実。

この背景には、日本特有の価値観があるのではないでしょうか。たとえば「周囲に迷惑をかけない」「我慢が美徳」といった考え方が根強く、精神的な不調を打ち明けることを避ける傾向があります。そのため、セラピースピークのような概念が広がることは、ポジティブな変化をもたらす可能性もありますが、そのいっぽうで「心理学の言葉を使うことに違和感を覚える人もいる」という課題も。

セラピースピークが普及する可能性と課題

では、今後、日本でセラピースピークがさらに広がるためには、なにが必要なのでしょうか。考えられるいくつかの条件を挙げてみましょう。

  1. 正しい知識の普及
    SNSなどを通じて心理学用語がカジュアルに広まるいっぽう、誤用や誤解も生まれやすい。そのため、専門家による適切な解説や、正確な情報の発信が重要となる。メディアや教育機関が役割を果たすことで、より正しい理解が広まる可能性も。

  2. 日本文化に合った形での定着
    セラピースピークの概念は欧米由来のものが多いため、日本の文化や価値観に適した形で言葉を取り入れる工夫が必要。日本人が馴染みやすい表現や、メンタルヘルスに対する配慮を加えた発信方法が求められる。

  3. 職場・学校でのメンタルヘルス教育の強化
    メンタルヘルスに関する知識を適切に学べる環境が整えば、セラピースピークの誤用を防ぎつつ、より良い形で浸透する可能性あり。職場や学校で、メンタルヘルスの重要性が認識されることが、社会全体の意識改革にもつながる。

日本におけるセラピースピークの普及は、単に海外のトレンドを取り入れるだけでなく、日本独自の課題や価値観を考慮しながら進めていく必要があると言えるでしょう。

まとめ

セラピースピークは、メンタルヘルスを身近なものにする反面、言葉の意味が変化しやすいという側面もあります。大切なのは、本来の意味を理解し、適切に使うこと。これからも、言葉の力を意識しながら、より良いコミュニケーションを築いていくことが求められます。

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