GDPでは測れない豊かさの正体。「ケアエコノミー」が示す、これからの社会のあり方

最近、よく耳にする「ケアエコノミー」。私たちの暮らしや経済にどんな関係があるのかご存知ですか?

この記事では、ケアエコノミーという言葉の意味から、なぜ今これが大切なのか、国内外ではどんな取組みが始まっているのか、そしてこれからの可能性について、ポイントを絞ってわかりやすく解説します。忙しいあなたも1、2分でサクッと読める内容です。

いま、「ケアエコノミー」が注目される理由

少子高齢化と働き方の変化が背景に

日本は今、少子高齢化が急速に進んでいます。たとえば、内閣府の「令和5年版高齢社会白書」によると、2025年には国民の約5人に1人が75歳以上になると言われています。これにより介護の必要性が増すいっぽうで、働き手は減っていくという現実。また、共働き世帯が増え、働き方も多様化するなかで、家事や育児、介護といったケアを誰がどのように担うのか、社会全体で考える必要が出てきたわけです。

これは日本に限った話ではなく、世界的な潮流でもあります。

これまで見過ごされてきた「ケア」の本当の価値

育児や介護、家事といったケア労働は、私たちの生活に不可欠なものです。しかし、これまでは家庭内の私的な領域のこととされたり、経済的な価値が低いと見なされたりすることも少なくありませんでした。

ケアエコノミーという考え方は、こうしたケア労働の社会経済的な重要性を再認識し、社会を支える大切な経済活動として正当に評価しようとする動き。その価値に、今ようやく光が当たりはじめているのです。

SDGsやジェンダー平等とのつながり

ケアエコノミーは、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)とも深く関わっています。とくに目標5「ジェンダー平等を実現しよう」では、無償のケア労働の認識や削減、再分配がターゲットの一つとして明確に掲げられています。

歴史的に家庭内のケアを女性が多く担ってきた現状を見直し、誰もが活躍できる包容力のある社会をつくるためにも、ケアエコノミーの視点は欠かせないものとなっています。

「ケアエコノミー」基本のキ
意味と大切なポイント

ケアエコノミーの意味

ケアエコノミーとは、ひと言でいえば、育児や介護、看護、家事といった「ケア(お世話)」に関する活動全体を、経済的な価値があるものとして捉える考え方、そしてその経済領域のこと。

これには、公的な介護保険サービスや民間の家事代行サービスといった有償のケアだけでなく、家庭内で行われる無償のケアも含まれます。つまり、私たちの暮らしと社会経済の基盤を支えるケアを、重要な構成要素として明確に位置づけようとするものです。

「アンペイド・ケアワーク」も経済の一部

アンペイド・ケアワーク」という言葉を聞いたことはありますか。これは、報酬が支払われないケア労働、たとえば家庭内での育児や高齢者・障害者の介護、食事の支度や掃除といった日常の家事などを指します。

これらはGDP(国内総生産)のような伝統的な経済指標には直接表れにくいですが、実は大きな経済的価値を有しています。たとえば、内閣府経済社会総合研究所の試算(2021年データ)によれば、日本の無償労働(家事関連活動)の貨幣評価額は年間約117兆円から143兆円にも上るとされています。これは国の一般会計予算にも匹敵しうる、見過ごせない経済規模といえるでしょう。

ケアがもたらす経済的なインパクト

ケア分野への投資は、単なる社会的コストではなく、経済成長や社会の持続可能性に貢献するという認識が国際的に広がっています。たとえば、質の高い保育サービスが充実すれば、保護者は安心して働きやすくなり、労働参加率の向上につながります。また、介護サービスや関連機器産業の発展は、新たな雇用を創出し、技術革新を促す可能性も。

国際労働機関(ILO)の報告によれば、世界のケア分野(教育、健康、長期介護など)への公的投資をGDP比2%まで増加させることで、2030年までに約2億9900万人の雇用が創出される可能性があると指摘されています。ケアへの投資が経済成長のエンジンにもなりうるわけです。

世界と日本、ケアエコノミーの取組み事例

海外の進んだ取組みから学ぶこと

海外に目を向けると、ケアエコノミー先進国の取組みから多くを学べます。たとえばカナダでは、2024年2月に政府が国家的なケア戦略の策定に向けた国民との協議を開始し、ケア労働者の支援強化や、良質なケアサービスへのアクセス改善を目指しています。また、北欧諸国では、手厚い公的保育や介護サービスが、高い女性就業率やワークライフバランスの実現を支える基盤となっているのは有名な話です。

日本におけるケアエコノミーの動き

日本国内でも、ケアエコノミーを意識した動きは着実に進んでいます。高齢者が医療・介護・予防・生活支援を地域で一体的に受けられる「地域包括ケアシステム」の構築が進んでいます。また、介護記録の電子化や見守りセンサー、コミュニケーションロボットといったケアテックの導入も、現場の負担軽減と個別化された質の高いケア提供の両立を目指す重要な取組みといえるでしょう。

企業や個人のケアエコノミーとの向き合いかた

ケアエコノミーの推進は、国や自治体任せではありません。企業では、育児や介護と仕事の両立を真に支える制度の整備や、柔軟な働き方の導入、ケアに関わる従業員への理解促進などが求められます。私たち一人ひとりも、家庭内のケア分担を見直すことや、地域の支え合い活動に関心を持つなど、できることはきっとあるはず。小さな意識と行動の変化が、社会全体を動かす力になるのです。

これからのケアエコノミー
知っておきたい課題と未来へのヒント

乗り越えるべき主な課題とは?

ケアエコノミーが健全に発展するためには、いくつかの大きな課題を乗り越える必要があります。もっとも深刻なものの一つが、介護や保育を担う専門職の人材不足と、その労働条件の改善。そして、依然として女性に偏りがちな無償ケアの負担をどう社会全体で分担していくかという問題も重要です。質の高いケアを誰もが必要な時に利用できるよう、安定した財源の確保も避けては通れない議論でしょう。

AIやケアロボットの活用

人手不足の緩和やケアの質の向上に向けて、AI(人工知能)やロボットといったテクノロジーの活用に大きな期待が寄せられています。たとえば、AIが個別のケアプラン作成を支援したり、利用者の状態変化を予測する見守りシステム、リハビリを助けるロボットなどの開発が進んでいます。これらは介護者の負担を和らげ、利用者のQOL向上に貢献しうるいっぽうで、導入コストや倫理面、そして何よりも人による温かいケアとの調和が大切になります。

すべての人が支え合い、豊かに暮らせる社会のために

ケアエコノミーが目指す社会とは、年齢や性別、障害の有無などにかかわらず、すべての人が互いに支え合い、尊厳を持って安心して豊かに暮らせる社会です。そのためには、制度を整えるだけでなく、私たち一人ひとりがケアの価値を深く理解し、ケアする人もされる人も尊重する文化を育むことが不可欠。思いやりの心が社会全体で循環する、そんな未来をみんなでつくっていくことが、これからの大きなテーマといえるでしょう。

まとめ

ケアエコノミーは、単に経済の新しい側面というだけでなく、私たちの働き方、暮らし方、そして社会全体のあり方そのものを見つめ直す大きなきっかけを与えてくれます。少子高齢化が加速する日本にとって、そしてすべての人にとってよりよい未来を築くために、ケアエコノミーの視点を持って社会の仕組みを考え、行動していくことが、今まさに求められているのです。

Top image: © iStock.com / Igor Alecsander
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