ピカソを“スワイプ”で買う……Tinder型オークションこと会員制アートアプリ『Fair Warning』

ピカソの傑作を買うのに必要なのは、スマートフォンと右へのスワイプだけ。

そんな冗談のような話が、アート界のトップレベルで現実のものとなっている。仕掛けるのは、史上最高額の絵画取引を成功させた一人の男。

アート市場のルールが根底から揺るがされている。

週に一度、傑作をスワイプ。会員制アートアプリ『Fair Warning』

革命の舞台は『Fair Warning』と名付けられた招待制のオークションアプリ。

創設者は、クリスティーズの元現代アート部門責任者であり、レオナルド・ダ・ヴィンチの《サルバトール・ムンディ》を4億5000万ドルで売却した伝説を持つLoïc Gouzer氏。

このアプリは、毎週木曜日の午後に、Gouzer氏自身が「自分の家に飾りたい」と心から思う作品を、たった一つだけ出品するというユニークな形式。

入札したい会員は、デーティングアプリのTinderさながらに、作品画像を右にスワイプするだけ。最も高い金額を提示した者が、その傑作を手にすることができる。

流行を追わず、市場のペースを自ら作れるシステム

Gouzer氏は、アートフェアの騒がしさや、誰が「ホット」かといった会話には興味がないという。

彼がクリスティーズやサザビーズでの経験から得た信念は、オークションハウスは市場の衝動に流されるのではなく、指揮者が楽譜を奏でるように、自ら市場のペースを作るべきだというもの。

「傑作」という言葉が乱発され、その価値が薄れている現代において、Gouzer氏はこのアプリを通じて「何が真の傑作か、買い手自身が結論を出す」機会を提供しようとしているらしい。

「5年もすれば、あらゆる誇大広告や雑音は消え去る。我々が彼らを欺いていなかったと、人々はやがて気づくだろう」と自信を語っている

Soho Houseのような雰囲気のクローズドなコミュニティ?

このアプリに参加できるのは、Gouzer氏自身がキュレーションした会員のみで、資金力と購入意気込みが、その資格を証明するらしい。

顧客リストは非公開だが、テニス選手のRoger Federer氏や俳優のLeonardo DiCaprio氏といった著名なコレクターとも親しいとされ、その客層は伝統的なオークションハウスよりも若く、Soho Houseのような洗練された雰囲気を持つという。

彼らはスマートフォンでの迅速な取引に魅力を感じ、Gouzer氏の審美眼とカリスマ性に信頼を寄せる。

アート取引が、開かれた市場から、信頼できる個人の審美眼を核とした、更に限定的でクローズドなものへと移行する予兆なのかもしれない。

Top image: © iStock.com / LEOcrafts
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。