沖縄・那覇市の「泡盛倉庫」で聞いた、泡盛こそ世界に広がるべきお酒である理由
沖縄・那覇にある「泡盛倉庫」は、その店名からも分かるように、泡盛を専門にしている会員制のBAR。なかなかお目にかかれないヴィンテージの古酒も含め、750種類を超える泡盛を揃えているそうです。
店主の比嘉康二さんは、まずその人の人生や背景に寄り添うように語りかけてきてくれます。
1軒めですか? すでに飲んできてますか?
食前ですか? 食中ですか? 食後として楽しまれますか?
「それぞれのお客様に合わせた泡盛を選ぶことが大切だと思っています。たくさん種類があると言っても、当然1杯1杯に個性があります。以前、お客さまの初恋の味まで表現したことがありますよ」
イメージが悪い、泡盛
比嘉さんの言葉の端々から感じるのは、泡盛への愛、——というよりは、リスペクト。
「イメージは様々ですが、よく聞くのは、親父が飲むお酒でしょ、とか、水割りで飲むお酒、とか、きついんじゃないの? といった、あまりポジティブとは言えない印象です。じつは私自身も、昔はそうでした。幼い頃に酔っ払った父親をよく迎えにいきましたので(笑)。でも今は、泡盛の素晴らしさを世界に伝えていくことが私の仕事だと思っているんです」
もう少し、泡盛の概略を。
「泡盛の本質は、じつはストレートにあります。度数が高いので驚く人も多いかもしれませんが『ストレート=お酒が強い人の飲み方』ではなく、ひとつの出会い方だと思ってください。泡盛は約600年前から作られていると言われていますが、小さな酒器を使ってチビチビと、100〜200年も熟成させた古酒を楽しんでいたわけです」
200年! 確かに気になります。とはいえ今日の1杯目なんです、とお伝えしたところ、粋な提案をしてくれました。
「ではまず、“体を潤す感覚” で、こんなものはいかがでしょう?」
泡盛のハイボールと
泡盛のサングリア
出してくれたのは、神村酒造の「暖流」。樽の味わいを持たせた泡盛で、これをハイボールで割るのだそうです。
「蔵元さんいわく、暖流×ハイボールで、ダンボールと言います」
これがすごく飲みやすい! 考えてみれば、泡盛はウイスキーと同じ蒸留酒なので、ハイボールとの相性がいいのも納得。
「でもこのダンボール、まだ完成ではありません」と、比嘉さん。
「ウイスキーだともっと樽の風味が残っているんですが、『泡盛のハイボール』だからこそできることがあります。それは、柑橘の皮で風味を足すこと。グレープフルーツの皮を軽く絞って味わってみてください」
またひとつ風味が華やかになって、その飲みやすさに驚いたわけです。
次に飲んだのが「泡盛のサングリア」。
「サングリアといえばワインが一般的ですが、泡盛にも合うんです。じつは沖縄は四季が感じづらい場所で、泡盛自体も四季を問わず作れるお酒です。だからこそ、季節を感じることができる旬な果物などを合わせて表現するのも素敵だと思いませんか?」
比嘉さんは、こう続けます。
「この楽しみ方自体は新しいものではなく、伝統的に薬膳酒や薬草酒として続いてきた文化です。先輩たちはここにマムシ、ニンニク、薬草などを使っていたわけですね。それを、今の時代に合わせてサングリアと呼んでいるだけにすぎません」
—— この時点で、僕は早くも泡盛に夢中になりかけていましたが(何より、飲みやすくておいしい)、本質と言われるストレートには、まだたどり着いてすらいないんです。
「ストレートの泡盛」には
誤解と魅力が詰まってる
「ちなみに、泡盛という言葉の意味をご存知ですか? 酒器をご覧ください。泡立ちを盛る、というところに由来していると言われています。この泡の大きさ、立ち方、きめ細やかさ、などで度数が判断できるんです。昔の人は、より高い度数を追い求めたんですね。なぜか? 今すぐに飲むお酒ではないからです。100〜200年かけて育てたお酒だったんですね。度数が低いと、すぐにダメになってしまうので」
「なるほど」と、つい夢中になってしまう。
「そんなお酒は、世界中どこを探してもありません。琉球はそれほど不思議な国だったんです。機械も密封技術もない時代に、どうやったら100年もたせられるのか。高い度数と泡の関係を知っていたわけですね。つまり、とても豊かなお酒だったんです。
ただこれは、戦前までの話。
戦後はしばらく “こだわれない時代” が続きました。泡盛の歴史も、ほぼそこでリセットしているわけです。それまでは妥協のないお酒だったものが、酔うためのお酒、発散するためのお酒、に変わっていってしまいました。でもそれは、仕方のないことなんです。熟成を待つ時間も、蔵元さんがいい酒を作る余裕もありません。今を必死で生きなければいけない時代でした。そんな毎日を生きていくためには、お酒を飲んで忘れること、仲間と飲んで騒ぐことも大切ですから。そんな出来がいいとは言えない泡盛を、なんとか水割りにしたり、シークヮーサーやコーヒーで割って飲む、という文化が生まれたんです。
戦後70年…たったの70年です。その前に500年以上の歴史があると考えたら、非常にもったいないことだと思いませんか?」
本来は安酒じゃないし、水割りでグビグビと量をたくさん飲むものでもない。
「原料はお米ですから、いわゆる当時の税金です。それをアルコールにして、しかもすぐ飲むならまだしも、10〜20年では若造と言われるほど、50年、100年、200年かけて育てたわけです。普通に考えたらコストパフォーマンスに合わないんですが、一部の上流階級の人のために、妥協のない泡盛が作られてきました。外交品として江戸に持っていって何倍もの価値で取り引きされた、という当時の帳簿も残っているんです。国が管理する、国酒だったわけですね。
さてここで、当時の王様やお姫様の気分を味わっていただくために、宮廷菓子『冬瓜漬(とうがんづけ)』と一緒に泡盛をお楽しみください」
冬瓜漬×泡盛で
琉球の「王様」気分
王様が食べていたデザート「冬瓜漬」と、伊是名酒造の「金丸」35度を一緒に口に含んで、チビチビ味わう。
金丸は、尚円王のことです。王様の名前がついた泡盛と一緒に味わったことで、当時の琉球王朝にタイムスリップ!
「冬瓜漬も、冬瓜と砂糖の2種類だけでこんなに豊かな甘みを生み出しているのが、本当に素晴らしいと思っているんです。シンプルですが、他では絶対に真似できないことですし、今でも『謝花きっぱん店』さんだけが、6代かけて守り続けている大切な味なんです」
次はもう少し度数をあげて、瑞泉酒造の「おもろ」39度を。想う、という意味が込められた18年ものの古酒です。度数が高いほうが冬瓜漬との相性も増すとのこと。甘さが引き締まり、アルコールの辛みは和らぎ、2つの味が調和するんです。
「18年も本当に立派な年数です。その間ずっと売らなかったわけですから。歴史ある蔵元さんだからこそできる、甕(かめ)の味わいをお楽しみください。ちなみに、提供後も時間を置いたほうが香りが出てきますよ」
…そ、そうなんですか?
「はい。空気に触れることで香りが花開いてくるので、30分かけて飲んでも大丈夫です。逆に最初にお出ししたサングリアやビールのようなお酒は、時間が経つほどに味が落ちていきますので、すぐに飲むべきお酒ですね。泡盛は、ぜひチビチビ飲みながら、ゆったり時間をかけてお楽しみください」
「泡盛がある」ということは
「平和である」ということ
このあと、さらに話題は広がり、琉球時代の歴史や外交、泡盛の作られ方、酵母菌と黒麹菌のこと、発酵文化と焼酎、チョコレートや焙煎などについても、思わず引き込まれるお話ばかり。
「だいぶ、泡盛のイメージが変わったんじゃないでしょうか?」
そんな言葉に、うんうん、と頷くしかなかった僕。70年前に分断されかかった泡盛文化を “なんとか生き延びることができた” と表現した比嘉さん。
泡盛の古酒がある、ということは幸せの象徴でもあるし、平和である限り、これからだって育てることができます。もしあなた自身が飲めなくても、あなたの子どもや孫がおいしく飲んでくれるかもしれません。
「歴史、文化、パフォーマンス、味わい。どれをとっても世界中のどのお酒にも負けないポテンシャルがあると思っているんです。あとはどのように提案するか。世界に向けて、復活していくべきお酒なんです」
—— 気がついたら、最初に比嘉さんが言っていた通り、40度近い泡盛のストレートをおいしく味わえていました。
「泡盛倉庫」
住所:沖縄県那覇市久米2丁目8-14-4F
TEL:098-869-0808
営業時間:18:00〜24:00
定休日:日曜日会員制について
会員登録料:20,000円(永久会員登録、年会費などはなし)
チャージ料金:2,000円(お酒は原価にて提供)
※グループに1人会員がいればOK。事前連絡をいただき空きがあれば初回トライアルも可能。