Aphex Twinが“Z世代のBGM”に?TikTokが起こした逆転現象

Aphex Twinの楽曲「QKThr」は、もともと2001年のアルバムDrukqsに収録された短い実験的トラックにすぎなかった。しかし現在、この88秒のアンビエント曲がTikTok上で約800万件もの投稿に使用され、思わぬ形で再ブレイクを果たしている。

可愛い動物動画から政治ミーム、さらには「subtle foreshadowing」と呼ばれる失敗動画まで、用途は極めて幅広い。もともと代表曲とされてきた「Avril 14th」や「Windowlicker」を差し置き、この楽曲が拡散の中心にあるという状況は、従来のヒット構造とは明らかに異なる現象といえるだろう。

結果として、YouTube Musicにおける月間リスナー数ではTaylor Swiftを上回る数値が観測されるなど、データ面でも“逆転”が起きていると報じられている。

“アンチポップ”が刺さる理由

この現象の背景には、Z世代特有の音楽消費の変化があると考えられている。

Aphex Twinの音楽は、従来のポップミュージックのように分かりやすい構造や感情表現を前提としていない。リズムはしばしば崩れ、メロディは予測を裏切り、時に“人間向けではない”とも言われるほど不規則である。

だがその不安定さこそが、デジタルと現実が混ざり合う環境で育ったZ世代にとって自然に響く要素になっている可能性がある。

また、意味を明確に提示しない音楽であるがゆえに、動画との組み合わせによって自由に解釈できる余白が生まれる。この“意味の空白”が、ミーム文化との相性を高めているとも言われている。

アルゴリズム時代の“再発見”

今回のブームは、単純に新しいファンが増えたというよりも、既存楽曲が短尺コンテンツの文脈で再利用されている点に特徴がある。

いわば、楽曲そのものがヒットしたのではなく、「使われ方」がヒットを生んだ構造だといえるかもしれない。

さらに、Aphex Twinを取り巻く謎めいた人物像や、複数の名義、都市伝説的エピソードも若年層の興味を引きつけている。ロゴの“異星的なシンボル”や不気味なビジュアルは、分かりやすい自己ブランディングとは対極にあり、むしろ「説明されないこと」自体が魅力として機能しているようだ。

このような“掘りがいのあるコンテンツ”は、アルゴリズムに最適化された均質なポップカルチャーに疲れたユーザーにとって、新鮮に映る傾向がある。

世代ごとに“再解釈”される音楽

興味深いのは、この現象が音楽の価値を変えたわけではない点にある。

Aphex Twinの楽曲は30年以上前から存在していたが、TikTokという新しい文脈の中で再び意味を与えられている。

つまりZ世代は新しい音楽を求めているのではなく、“新しい使い方ができる音”を探しているとも解釈できる。

ポップの中心にいない存在が、アルゴリズムによって主役に押し上げられる。この逆転現象は、今後の音楽トレンドを考える上でも重要なヒントになるはずだ。

Top image: © iStock.com / Doriano Solinas
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