バナナに175ドルの値札をつけたら……?The Ordinaryが可視化した“プレミアム価格”の正体

美容メディア「Beauty Independent」が報じた、スキンケアブランド「The Ordinary」による大胆なポップアップ施策が話題を呼んでいます。世界6都市で展開された「The Markup Marché」は、日用品にラグジュアリー風の名前と価格をつけることで、高級美容品の価格構造そのものに疑問を投げかけるものでした。

バナナが「魔法のバー」になる日

2025年5月、The Ordinaryはグロサリーストア(食料品店)を模したポップアップ「The Markup Marché」を世界6都市で開催しました。会場に並ぶのは、バナナやトイレットペーパー、ココナッツといったごく普通の日用品。しかし、それぞれに大げさなラグジュアリー風の名前が付けられています。

たとえばバナナは「オールナチュラル・マジカル・エナジーブースティング・バー」として175.90ドル。トイレットペーパーは「ハイリテンション・クレンジング・シリンダー」で96.20ドル。ココナッツにいたっては「エキゾチック・サースト・ディファイング・ハイドレーション・ヴェッセル」という壮大な名前とともに195.50ドルの値札がぶら下がっていたそうです。

思わず笑ってしまうような演出ですが、その裏にあるメッセージはかなりシリアスなもの。The Ordinaryの親会社DECIEMでVPを務めるAmy Bi氏は「Women's Wear Daily」の取材に対し、ラグジュアリー商品のマークアップ(原価に対する上乗せ率)は最大700%に達することがあると語り、「効果を得るために高額な価格を払う必要はない」と明言しています。

親会社が抱える「矛盾」

このキャンペーンには、見過ごせない構造的な矛盾も指摘されています。The Ordinaryはエスティ ローダー カンパニーズ傘下のブランド。同じグループにはLa Merという超高級スキンケアブランドが存在します。

2020年にBusiness Insiderが報じた推計によれば、La Merの代表的クリーム「Crème de la Mer」(3.4オンス)の再現コストは約35ドル。インフレ調整後でも約50ドル程度とされ、小売価格625ドルに対するマークアップは実に1,000%を超える計算になります。もちろんこの推計にはパッケージングやマーケティング費用、小売マージンなどが含まれていない可能性はありますが、それでもインパクトのある数字です。

「反体制的アウトサイダー」を演じるブランドと、まさにその批判対象となりうるブランドが同じ屋根の下にいる。この構図に対して、化粧品処方の専門家Laura Badcock氏は「注目を集める力はあるが、完全なビジネスモデルとは言えない」と冷静に分析しています。

消費者が本当に嫌うもの

では、価格が高いこと自体が「悪」なのでしょうか。化粧品科学者のJadene Taylor氏は興味深い視点を提示しています。同氏によれば、消費者が本当に嫌うのは「搾取されている」という感覚であり、イノベーションや確かな効果に裏付けられたプレミアム価格は十分に受容されるとのこと。

近年、デュープ(高級品の類似品)文化が急速に広がり、SNSでは「この成分、あのブランドの10分の1の価格で買える」といった情報が日常的にシェアされています。企業への信頼が揺らぎ、経済的な負担感も増すなかで、消費者の「価格リテラシー」はかつてないほど高まっているのではないでしょうか。

The Ordinaryのキャンペーンは、矛盾を抱えながらも、私たちに大切な問いを残してくれます。それは「この価格の中身は何でできているのか」という、ごくシンプルな疑問。高いから悪い、安いから正義、という単純な話ではなく、自分が払う金額の「正体」を知ろうとする姿勢こそが、これからの賢い消費の第一歩なのかもしれません。

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