「マッチョ文化に売らない」宣言。大豆ブランドが仕掛けた知的な逆転劇

フランスの大豆食品パイオニア・Sojasun(ソジャサン)が、広告業界の祭典Clio Networkの情報プラットフォーム「Ads of the World」で紹介された新キャンペーン「SoyMen」。ネット上の侮蔑語を逆手に取り、「拒絶されること」そのものをブランドの誇りに変えるという、痛快かつ知的な仕掛けが話題を呼んでいます。

大豆が「弱さ」の象徴になった背景

インターネットには「マノスフィア(manosphere)」と呼ばれる、男性権利活動家たちのコミュニティが存在します。彼らはプロテイン摂取に強いこだわりを持つ一方で、大豆を激しく嫌悪しているのが特徴的です。

その象徴が「soy boy(ソイボーイ)」という侮蔑語。大豆を食べる男性=弱い、女性的、という偏見を込めたこの言葉は、TikTokやYouTubeを通じて数千本の動画に使われ、数十万回再生される規模にまで拡散しました。

食品が持つ栄養価とはまったく無関係に、ある食材が「文化的な記号」として意味を帯びてしまう——これは現代のネット社会に特有の現象かもしれません。プロテインバーやステーキが「強さ」の象徴として消費される一方、大豆には「弱さ」のレッテルが貼られる。食べ物の選択が、いつの間にかアイデンティティの表明になっている時代です。

「やさしいトロール」という逆転の発想

フランスにおける大豆ブランドの先駆者であるSojasunにとって、この文化的スティグマは無視できない問題でした。同社は広告代理店Marcel(マルセル)と協業し、2026年6月にフランスで「SoyMen」キャンペーンを展開。その手法がじつにユニークです。

マノスフィアのインフルエンサーたちに対し、Sojasunのアンバサダー、すなわち「SoyMen」になってほしいと正面から招待したのです。同社はこれを「gentle troll(やさしいトロール)」と呼んでいます。

アプローチはあらゆるチャネルに及びました。キャンペーンのストーリーボードをメールで送り、TikTok動画にコメントを残し、YouTubeのプレロール広告に自社を挿入。さらには彼らの近くに巨大なトラック広告を駐車し、Twitchのライブ配信中にシンボリックな寄付を行い、Spotifyのプレイリストにまで忍び込もうとしたとのこと。

しかし結果は、全員が断固拒否。そしてこの「拒絶」こそが、キャンペーンの真の狙いでした。

拒絶が証明する「ブランドの品格」

「Sojasunはプロテインが豊富。でもマノスフィアのためには作られていない。そしてそれは、まったく問題ない」——これがキャンペーンの結論です。

ここには巧みな二重構造があります。まず、大豆製品が高タンパクで消化しやすいという機能的な事実をしっかり提示している。そのうえで、有害な男性性(toxic masculinity)に与しないことを、むしろブランドの誇りとして打ち出しているのです。

「嫌われること」を恐れるのではなく、「誰に嫌われるか」を選ぶ。この姿勢は、過去にPatagoniaが「Don't Buy This Jacket(このジャケットを買わないで)」と訴えた広告にも通じる、ある種の「反・万人受け」戦略と言えるでしょう。すべての人に好かれようとするブランドメッセージが飽和する中で、明確に「自分たちが何者でないか」を示すアプローチは、かえって強い共感を生む可能性があります。

食品ブランドが「文化の当事者」になる時代

同社の発表によれば、このキャンペーンは新たな戦略的方向性の第一歩として位置づけられています。目指すのは、単なる食品ブランドから「文化の一部(part of culture)」であるブランドへの進化。社会的・環境的進歩の推進、非GMO原材料やクリーンラベリングといった品質基準を守りながら、現代の文化的コードと遊び心を持って関わっていく姿勢を鮮明にしました。

植物性食品の市場は世界的に拡大を続けていますが、とりわけ男性消費者の間には、ネット上のネガティブな言説に影響された心理的な障壁が存在するとも指摘されています。Sojasunの試みは、その障壁を正面突破するのではなく、障壁そのものを「笑い」と「誇り」に変換するという、きわめて知的なアプローチではないでしょうか。

食べ物が文化戦争の道具にされる時代に、ブランドが沈黙するのか、それとも当事者として声を上げるのか。Sojasunは後者を選び、しかも攻撃的にならず、ユーモアを武器にしました。この「やさしいトロール」が世界の食品マーケティングにどんな波紋を広げるのか、注目しておきたいところです。

Marcel / YouTube
Reference: SoyMen
Top image: © iStock.com / golubovy
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