スペックを競わない。無印良品がつくったオーディオの正体

無印良品が、オーディオデバイス市場に本格参入。2025年7月15日から順次発売となる5機種8種のラインナップ。けれどそのコンセプトは、重低音でもハイレゾでもなく「暮らしに、いい音。」という、なんとも無印らしい一言でした。

"すごい音"を目指さない
という、無印らしさ

無印良品のワイヤレスヘッドホン(ホワイト)を装着した女性の後ろ姿と、ヘッドホン本体の製品写真
© 株式会社良品計画

オーディオの世界では長らく、スペックの数字が大きいほど正義とされてきました。低音の迫力、ノイズキャンセリングの遮断率、ドライバーの口径——。メーカー各社がしのぎを削るその競争は、たしかに技術を前進させてきた側面があります。

ところが今回の無印良品は、真正面からその流れに逆らっています。「重低音を強調するなど過度な演出をせず、できるだけ自然な音に仕上げた」と、同社は明言しているのです。

これ、ちょっと立ち止まって考えてみると、なかなか大胆な宣言ではないでしょうか。オーディオデバイスなのに「盛らないこと」を最大の特長にしている。音響メーカーが聞いたら首をかしげるかもしれません。でも、ここに無印良品ならではの思想が透けて見えます。

同社が掲げる「簡素が豪華に引け目を感じることのない価値観」。家具や文房具、衣料品で実践してきたこの哲学を、ついに「音」の領域にまで持ち込んだわけです。音楽や音声コンテンツを楽しむ場面が、通勤・通学から家事、仕事中のBGMまで広がった今、オーディオデバイスは「趣味の道具」から「暮らしの道具」に変わりつつある。その変化を、無印良品は正確に捉えているように感じます。

「片耳なくしたら全部買い替え」
を終わらせる設計も◎

無印良品のワイヤレスヘッドホン(ダークグレー)の折りたたみ状態と、取り外し可能なイヤーパッド2個
© 株式会社良品計画

ラインナップを眺めてみると、もうひとつ気になるポイントがあります。それは「壊れたら買い替える」ではなく「直して使い続ける」設計が随所に見られること。

たとえばワイヤレスヘッドホンは、イヤーパッドが交換可能で、ヘッドバンド部分には劣化しにくいシリコン素材を採用しています。カナル型やインナーイヤー型のワイヤレスイヤホンは、片耳だけのパーツ販売に対応。片方を失くしても、もう片方ごと買い直す必要がありません。

これは地味に見えて、実はかなり思い切った判断です。メーカーにとって「買い替え需要」は大きな収益源。それをあえて手放してでも、長く使ってもらうことを選んでいる。衣料品のリペアサービスや、家具の組み替え対応など、無印良品がここ数年で強めてきた「使い捨てない」姿勢が、オーディオにもしっかり反映されています。

存在感より、居心地をつくるスピーカー

無印良品のモバイルスピーカー(ダークグレー)を指で吊り下げている様子と、スピーカー単体の正面写真
© 株式会社良品計画

スピーカー2機種にも、同社らしい思想が宿っています。コンパクトスピーカーは上向きにスピーカーを配置し、音が空間全体にふわりと広がる設計。食卓やデスクの隅にそっと置いて、存在を主張しすぎない。モバイルスピーカーはIPX5相当の防水性能を備え、キッチンや浴室周りでも気兼ねなく使えます。

どちらも「音楽を聴くぞ」と構えるのではなく、生活の中に音がそっと溶け込む体験を目指しているようです。ヘッドホンのノイズキャンセルオフ時の連続再生が約70時間というスタミナも、「充電を気にせず日常に置いておける」という設計意図の表れでしょう。

私たちはいつの間にか、イヤホンやスピーカーを「スペックで選ぶガジェット」として見ることに慣れてしまいました。でも本来、音は暮らしの空気のようなもの。朝のコーヒーを淹れる時間に流れるBGM、通勤電車で聴くポッドキャスト、夜の読書に寄り添うジャズ——そのどれもが、「すごい音」である必要はないのかもしれません。

「盛らない」ことで、かえって音が暮らしに近づく。無印良品のオーディオは、そんな逆説を静かに証明しようとしているように見えます。

Top image: © 株式会社良品計画
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。