「自分は大丈夫」がいちばん危ない。総務省調査が暴いた、情報リテラシーの落とし穴
総務省が2026年7月14日に公表した「ICTリテラシー実態調査」が、なかなか痛いところを突いてきます。全国5,640名を対象にしたリテラシーテストで全問正解はわずか5.6%。なのに83.0%が「自分は平均以上」と自己評価していました。
認知バイアスを「知っている」人ほど
広めていた

今回の調査で最も目を引くのは、偽・誤情報の拡散経験と認知バイアスの関係です。
認知バイアスとは、情報を判断する際に無意識に働く「考え方のくせ」のこと。確証バイアス——自分の信じたい情報ばかり集めてしまう傾向——などが代表的ですが、この認知バイアスを「知っている」と答えた人の割合は、拡散経験がある人で66.5%、ない人で52.3%でした。つまり、知識として知っている人のほうがむしろ偽情報を広めている。
ところが「自分にも認知バイアスがある実感がある」と答えた人の割合を見ると、景色が反転します。拡散経験がない人では59.3%、ある人では54.3%。知識の有無ではなく、「自分もやらかすかもしれない」という自覚の有無が、情報を広めるかどうかの分かれ目になっていたのです。
この構造は、心理学でいうダニング=クルーガー効果——能力が低い人ほど自分の能力を過大評価する傾向——を思い起こさせます。「ディープフェイクを自分は見破れる」と答えた人のリテラシーテスト全問不正解率が61.5%という数字は、その最も鮮烈な表れかもしれません。
慎重なつもりの8割が立ち止まれない溝

もうひとつ気になるデータがあります。SNS上で情報を見かけたとき、拡散前に「立ち止まって考えると思う」と答えた人は79.2%。ほぼ8割の人が「自分は慎重だ」と認識しています。
しかし実際には、偽・誤情報に接触した人の20.3%が何らかの形で拡散しており、過去に流通した偽・誤情報を「正しい情報だと思う」と判断した人は48.4%にのぼりました。「立ち止まるつもり」と「実際に立ち止まれている」の間には、かなりの溝があるようです。
そしてリテラシー向上のために具体的な取り組みを「行っていない」人は65.8%。その最大の理由は「取り組み方が分からない」(50.4%)でした。問題を感じてはいるけれど、何をすればいいか分からない——この状態に多くの人がとどまっています。
「自分は大丈夫」を手放すところから
本調査は、総務省がプラットフォーム事業者や通信事業者と官民連携で進める「DIGITAL POSITIVE ACTION」の一環として実施されたものです。同プロジェクトは今回の結果を踏まえ、認知バイアスに着目した啓発活動を強化していくとしています。
従来の情報リテラシー教育は「正しい知識を身につければ、正しく判断できる」という前提に立っていました。でも今回のデータは、知識を持つことと、それを自分自身に適用できることはまったく別の話だと示しています。リテラシーテストの全問不正解率は、拡散経験がある人で48.9%、ない人で24.7%と約2倍の開き。知識の量ではなく、自分の判断力への謙虚さが行動を左右していました。
正直なところ、この記事を書きながら自分自身も居心地が悪くなりました。「自分はそこまでひどくないだろう」と思っている、まさにその感覚こそが危ういのだと、データが静かに語っているからです。
リテラシーとは「正解を知っていること」ではなく、「自分が間違い得ると知っていること」なのかもしれません。次にタイムラインで何かをシェアしたくなったとき、その衝動の手前で一瞬だけ、「これ、本当に確かめた?」と自分に聞いてみる。私たちに必要なのは、新しい知識ではなく、ほんの少しの自己疑念なのだと思います。






