1,300年続く“漬物の祭り”。途絶えかけた愛知の伝統の味を、地元有志が復活

愛知県あま市の萱津神社(かやつじんじゃ)が、日本で唯一の「漬物のお祭り」である香乃物祭(こうのものさい)を2026年8月21日に開催されました。今年最大の話題は、途絶えかけていた地元伝統の漬物が、ついに復活・販売再開されるというものでした。

供物が偶然「塩漬け」になった日から1,300年

萱津神社の社殿で行われる神事の様子、白装束の神職と巫女装束の女性が並ぶ
© 愛知県

萱津神社には、国内で唯一「漬物の神」として知られる鹿屋野比売(かやのひめ)が祀られています。その由来がちょっとおもしろいのです。

かつて尾張平野が海岸に面していた時代、人々は海の幸と山の幸を神前に捧げていました。あるとき、供物の一部を甕(かめ)に入れておいたところ、偶然ちょうどよい塩漬けになった——。これが日本における漬物の起源のひとつとされています(諸説あり)。

「偶然の産物」が1,300年以上にわたって祭りとして受け継がれてきた、というスケール感。毎年全国から漬物業者や関係者が集まり、約1,000人が参列したこの行事は、単なる食のイベントではなく、発酵文化そのものへの感謝の場なのかもしれません。

漬物を絶やしたのは、時代の変化だった

ところが近年、この伝統は存続の危機に直面していました。コロナ禍で祭りの規模が縮小されたことに加え、食品衛生法の厳格化により、小規模な手づくり漬物にも営業許可や衛生基準への対応が求められるようになったのです。

伝統的な製法を守ってきた地元の作り手にとって、新たな設備投資や手続きのハードルは高く、上萱津に伝わる漬物づくりは途絶えかけていました。

風向きが変わったのは2026年4月のこと。「地域で採れた野菜を、地域の人の手で漬け、届けたい」という思いのもと、地元有志が「かりかりもりもりたい」というグループを結成。

萱津会館の2階に新しい工房を立ち上げ、尾張地方で昔から親しまれてきた野菜「かりもり」を使い、粕漬をベースにした伝統製法で浅漬けを仕込んでいます。かりもりは、漬けてもカリカリとした歯ごたえが残るのが特徴で、この地域の食卓に欠かせない存在でした。

祭り当日の販売再開を皮切りに、毎月21日の「漬物の日」に定期販売を行う予定とのこと。

法律や衛生基準は、食の安全を守るために必要なものです。でも、その網の目から静かにこぼれ落ちていく文化がある——そのことに気づいた人たちが、制度に適応しながら伝統を繋ぎ直した。この「かりかりもりもりたい」の動きは、全国の小さな食文化が抱える課題の、ひとつの答えかもしれませんね。

Top image: © 愛知県
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