郵便局員が「見守り相談員」に。飛騨市が全国初の官民連携で届けるもの
手紙や荷物を届けてくれる人——。郵便局員に対して、多くの人がそんなイメージを持っているのではないでしょうか。でも岐阜県飛騨市では、その「届ける人」が、高齢者の暮らしを見守る公的な相談員になりました。全国初の試みが、地域の未来をどう変えようとしているのか。
高齢化率40%超、
「訪問が追いつかない」現実

飛騨市の高齢化率は40.89%(2026年8月1日現在)。全国平均の29.6%(2025年度時点の推計)を大きく上回り、国が2050年に到達すると見込む37.10%すら、すでに超えています。
人口約21,000人、総面積の約93%が森林という山間のまちでは、75歳以上の一人暮らしや高齢者だけの世帯が増え続けています。
市は2017年度から「地域見守り相談員」を配置し、現在は5名体制で高齢者宅を訪問してきました。しかし対象世帯は年々増加し、現体制だけでは全世帯を回りきれないという課題が浮き彫りになっていたのです。
「届ける人」から
「気づく人」への転換


飛騨市が目をつけたのは、地域にすでに根を張っている存在——郵便局でした。
2026年4月、市内5つの郵便局の局長らに「地域見守り相談員」の委嘱状が交付されました。集落支援員として郵便局員が高齢者宅を訪問するのは、日本郵便によれば全国初の取り組みです(同社調べ、2026年8月時点)。
この仕組みのポイントは、民間の有料見守りサービスとは異なり、国の「集落支援員制度」を活用している点にあります。集落支援員制度とは、地域の実情に詳しい人材を自治体が委嘱し、住民の生活課題を把握・支援する国の仕組みのこと。つまり郵便局員は、ボランティアでも営業でもなく、公的な役割として高齢者のもとを訪れるのです。
2026年度は90件の家庭を訪問する予定。生活状況の確認や困りごとの聞き取りに加え、熱中症予防や詐欺への注意喚起など、季節に応じた情報も届けます。
「届けもの」の中身が
変わりはじめている

飛騨市と日本郵便の関係は、実は一朝一夕のものではありません。2017年の地域協力協定に始まり、2021年には包括連携協定を締結。郵便局での日用品販売や住民票の交付、高齢者の集いの場づくりなど、郵便局の役割は段階的に広がってきました。
訪問を受けた小洞昇さんは「気にかけてもらえて、いろんなことを話せることが嬉しい」と話します。山崎いつ子さんも「定期的に来てくれるから、詐欺のことなど世間の新しい情報を知れる」と喜びます。
飛騨古川郵便局の三木忠裕局長は、郵便局を「気づきの窓口」と表現しました。日常的に顔を合わせるからこそ、小さな変化に気づける。その信頼関係は、新しいシステムでは簡単に代替できないものです。
飛騨市はこの30年で全国の倍のスピードで人口が減り、2050年には高齢化率が50%を超えると推計されています。でも、この取り組みが示しているのは悲観ではなく、「すでにある地域のつながりを、制度の力で持続可能にする」という発想の転換ではないでしょうか。
届けるものが手紙から「安心」に変わるとき、郵便局という存在の意味そのものが、静かに書き換えられています。






