視線が“楽器”になる。ALS当事者EYE VDJ MASAが生んだ新曲『RAIN BEAT』
他者のダンスに心を動かされ、そこから曲を書く。音楽制作としてはごく自然なプロセスです。
ただひとつ違うのは、その作曲者が「視線の動き」だけで音を紡いでいること。
「雨粒のリズム」は
目の動きから生まれた

2026年8月26日、ALS(筋萎縮性側索硬化症)当事者のアーティスト・EYE VDJ MASAこと武藤将胤さんの新曲『RAIN BEAT』が各音楽配信サービスでリリースされました。一般社団法人WITH ALSが発表したものです。
ALSは、脳や末梢神経から筋肉への命令を伝える運動ニューロンが少しずつ侵され、全身の筋肉が動かなくなっていく指定難病。意識も感覚もはっきりしているのに、手足の自由、声、やがて呼吸の自由までが奪われていきます。日本には約1万人の患者がいるとされ、有効な治療法はまだ確立されていません。
武藤さんは2013年、27歳でALSを発症。現在は視線入力——画面上の目の動きを検知する技術——を使い、作曲やDJ、VJの活動を続けています。
『RAIN BEAT』の着想源になったのは、パフォーマンスチーム「MPLUSPLUS DANCERS」が使う「LED VISION UMBRELLA」というデバイスでした。3,000個を超えるLEDを搭載した傘が、光や映像をまとって踊る。その姿から雨や雷、雨粒が刻むリズムをイメージし、視線入力で書き下ろしたのがこの曲です。
10年続く音楽フェスが
「啓発」の意味を変えた

『RAIN BEAT』が初めて披露されたのは、2026年6月に開催されたALS啓発音楽フェス「MOVE FES.2026」の10周年特別公演でした。
ステージでは、LED傘を操るダンサーたちと、武藤さんが視線入力で操るVJ映像が重なり合い、会場に雨が降り出したかのような空間が生まれたといいます。
注目したいのは、このフェスが2016年から10年間続いてきたという事実です。難病の啓発活動と聞くと、どうしても「知ってもらう」「支援を募る」という一方向の構図を想像しがちではないでしょうか。
でもMOVE FES.は、最先端のテクノロジーと音楽が交差するライブ体験そのものを入口にしています。観客はまず「かっこいい」と感じ、その先にALSという病気の存在を知る。同情ではなく、表現への驚きが回路になっている。
「代替手段」ではなく
「新しい楽器」という視点

視線入力は、もともと身体が不自由な人のコミュニケーション補助として発展してきた技術です。しかし武藤さんの使い方を見ていると、それは「できないことの代わり」ではなく、まったく新しい楽器のように映ります。
他者のパフォーマンスに触発され、イメージを膨らませ、音に変換する。そのプロセス自体は、ギターやピアノで曲を書く人と何も変わりません。変わったのは、創造性の出口が「指先」から「視線」に移ったこと。
テクノロジーは人の表現欲求をどこまで拡張できるのか。『RAIN BEAT』は、その問いに対するひとつの答えを、雨粒のビートに乗せて届けてくれます。






