相手の心を開かせるコツは一つしかない。これは世界共通―谷本 有香―
ジャーナリストとして、世界中の著名人に取材をしてきた谷本有香氏。「2%伝わればいい」と言う彼女が考えるこれからのメディアの在り方とは? 同じく10代でアメリカに渡り、外から日本のメディアを見てきたTABI LABO 共同代表の久志尚太郎が迫る。
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久志 きっと多くの読者の方も同じだと思うんですけど、僕、実はジャーナリストって仕事がよくわからなくて(笑)。今日の話は、そこから明確にしていきたいです。いや、なんとなくは、わかるんですよ。でも、実際にはどんな仕事なんでしょう?
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谷本 私自身、ジャーナリストって本質的になんなのかなって自問自答をよくします。その結論としては、テレビで話をしたり、原稿を書いたりっていうことではなく、「聞く」のが仕事かなって。
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久志 それは正しく伝えるために、情報収集の意味で「聞く」ということですか?
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谷本 そうです。いろんなインフォメーションを持って、私は読者や視聴者に事象の補足をする役目だと思っています。
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久志 僕らTABI LABOも、まだまだこれからではありますが、世の中に対してメッセージを持っていて、それを伝えていく難しさは日々感じています。谷本さんは毎回、何かを伝える時、何%ぐらい視聴者や読者に伝わっていると感じていますか?
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谷本 2%ですね。
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久志 即答ですね。しかも、かなり少ない・・・。
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谷本 私はこの2%を少ないとは思ってないんです。むしろ「2%も伝わっている」という感覚。満足できる数字です。だって、私が100%を伝えられるわけがないじゃないですか? どんな物事にもたくさんの視点があって、それはニュースの受け手が考えること。だから、私は2%で十分だと思いますよ。もちろん、取材やそれを伝える準備としては、200%用意していますけど(笑)。
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久志 う〜ん。ただ「2%から視聴者が考える」って実はハードルが高そうですね。例えば、アメリカならあるニュースに対して、どうしてそうなったのかを議論をするスタイルのメディアが多い。でも、日本だとその土壌がないと言うか。
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谷本 わかります。残念ながら、日本のメディアの多くは、起こったことを解説するだけのスタイルですよね。少し話は逸れますが、私は取材活動のなかで企業のトップの方々にインタビューする機会がすごく多いんです。そこでおもしろいのが、日本とアメリカのトップの方々の違い。日本の社長さんって、バランスシートを見て、説明をしてくださる方が非常に多い。それがインタビューに答えることだと思っていらっしゃるんですが、それは資料を読めばわかることだったりします。一方でアメリカの社長さんは、その人の生い立ちや生き様、思想とか、そういう話をする。その結果としてバランスシートを見せてくれるんです。
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久志 うん、僕もアメリカに住んでいたので、その違いはなんとなく理解できます。
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谷本 話を戻すと、日米のインタビューへの対応の違いってメディアやニュースへの接し方と似ているな〜って。とても表層的なものを追っている感じがするんですよね。
002.
これからのメディアは、いろんな価値観や視点を提示していくことが使命!
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久志 おっしゃるように、「ニュースから考える力」が日本の多くの人に欠けているとしたら、その責任の一旦はメディアにもあるとお考えですか?
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谷本 文化や国民性など様々な要素が絡みあって、現状があるわけです。ただし、テレビや新聞といったメディアにも問題はあります。象徴的なところでは、白か黒かの議論しかしていないところですね。白黒じゃなくて、もっとたくさんの色があるはずなのに。多角的にものを見ること、多様なディスカッションを促すような報道の仕方が不足しているんですね。いろんな価値観や視点を提示していくのが、メディアの本来あるべき姿だと思います。
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久志 いろんな視点を提供するっていう意味では、ソーシャルやモバイルに特化したメディアに期待したいところです。谷本さんはそういった新しい、サードウェイブ的なメディアをどう捉えていますか?
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谷本 TABI LABOのこと?
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久志 入れていただければ幸いですが、もっと全体像ですね(笑)。ソーシャルやモバイルに特化したメディアは、国内でもかなり数が出てきています。
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谷本 正直言うと、私はテレビや新聞の方に知見があるので、ソーシャルやモバイルに関しては意見を言えるほど明るくないんです。ただ、「これは白だよね、これは黒だよね」っていう意思が、いい意味で感じられないメディアや記事はいくつか見たことがあって、それはとても重要なことだと思います。読者に視点を委ねているというか。
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久志 僕もそこはとても重要だと思います。例えば、海外の貧しい村の写真を見た時に、汚いと感じるのか、輝かしい未来を感じるのか、あるいは格差の問題を感じるのか。そのあたりは違ってくると思うんです。それをいろんな視点で伝えるというより、考えてもらうきっかけになればいいですよね。
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谷本 私、ニュースは右脳で見なきゃいけないって思っているんです。そのためにメディアは無駄を削ぎ落としていく必要がある。「こう思わなきゃ」とか「これが正義だ」とか一面的に捉えずに、視聴者や読者の考えるリテラシーみたいなものを鍛えていくことが、これからのメディアの使命かもしれません。
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久志 ソーシャルやモバイルを使った新しいメディアとテレビや新聞、あるいは雑誌など、新旧メディアがお互いに補完し合うかたちで、そうなっていければいいですよね。
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谷本 何も競い合うことではないですからね。いろんなかたちのメディアがあってこそ、情報が多層的になってくるといいと思います。
003.
自分をさらけ出さないと、世界のトップとは渡り合えない。
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久志 ここからはまったくトーンが違う話題へ。
いきなりですが、僕は谷本さんのことをものすごい美人だと思っているんです。それは外見だけじゃなくて、発する言葉とか、思考とか、トータルで。で、その魅力ってどこからくるの? という質問です(笑)。
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谷本 (笑)。きっとそれは、元々私が持っているものじゃないですね。ずっとキャスターをやってきて、世界中の著名人などに会って、そのなかでどうやってスクープを出すかばかり考えてきました。いろいろ試行錯誤しましたが、最終的に、素を出していったほうがいいと気づいたんです。海千山千の政財界の大物たち。彼らの本音を聞き出すためには、テクニックじゃ駄目なんです。素直に自分を出していくこと。そういった答えを見つけたところが、もしかしたら、久志さんが感じてくださっている魅力になっているのかもしれませんね。
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久志 僕が営業マンだった頃に至った結論と同じだ! 営業もテクニックはいろいろあるけど、結局、本当のことを言い続けるしかないんです。素になって、個人的にお客さんと向き合うのが一番正しい。
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谷本 きっとどんな仕事でもそうなんでしょうね。私、これまでにたくさんの人にお会いしましたが、もっとも印象に残っている方が2名いて、名前は出せないんですけど、どちらも世間ではめちゃくちゃ嫌われている方なんです。
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久志 (笑)。
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谷本 お会いする前は、私もかなり構えていったんですが、実際に接してみると、とても丁寧に対応してくださるし、人間力みたいなものがすごかった。その時「ああ、こういう部分もちゃんと伝えられれば、人物評としても違う解釈が生まれてくるんだろうな」って。
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久志 実際、世界のトップの方々って、僕らもメディアからのイメージだけですもんね。接してみると、違うのかも。
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谷本 違いますよ。そもそも政財界の晩餐会とか、そういう場所では、肩書きとか持っているお金とか関係ない。むしろ経済の話とかはタブーなんです。そうじゃなくて、人間力で勝負する場所だったりするんですよ。そこで輝いている人たちって、世間のイメージとはかなり違うと思います。
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久志 そういった人間の本質的な部分って、やはり直接会ってみないとわからない部分なんですね。このインタビューでも、なんとか谷本さんの本質が読者に伝わるといいんですが・・・。
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谷本 そこはお任せしました(笑)!
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久志 最後にTABI LABOにアドバイスなどをいただけますか?
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谷本 これはTABI LABOに限ったことではないのですが、作為的じゃない情報の伝え方が大事だと思います。カザフスタンはこうだ、アンゴラはこうだって決めつけないこと。私も含めてメディアにいる人間が、そこに意識的になるだけで、多くの人が自分の視点を持てるようになってくると思います。
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久志 ありがとうございます。がんばります!
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経済キャスター/ジャーナリスト。証券会社、Bloomberg、日経CNBCなど金融経済番組のキャスターとして従事、日経CNBCでは初の女性経済コメンテーターに。2011年からフリーランスで活動中。英ブレア元首相やマイケル・サンデル ハーバード大学教授の独占インタビューはじめ、マレーシアのマハティール元首相やハワード・シュルツ、スターバックス会長兼CEOなど世界の1000名を超える著名人にインタビュー実績あり。テレビ朝日「サンデースクランブル」にゲストコメンテーターとして不定期出演中。