お値段、約200万円の「宝石のような自転車」

ここ数年の間にニューヨークのサイクルシーンはめまぐるしく変わった。メッセンジャーたちによってストリートから生まれたピストのムーブメントがひと段落し、いまのニューヨークのサイクルシーンを牽引しているのは、ファッション業界の関係者たちだ。

ピストムーブメントの頃のようなスピードへの信仰とストリート性は鳴りを潜め、ツィードジャケットを身につけてクラシックな自転車に乗る「ツィードラン」のように、よりファッショナブルでスタイリッシュ、イベント性を秘めたものへと変わっていった。

ファッション業界を経て
自転車製作へ

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ヘリオ・アスカリ氏が率いる自転車工房「アスカリ・バイシクルズ」は、そういったファッション業界関係者たちにとって垂涎の的とも言えるものだ。フラッグシップモデルにあたるThe Ascari Kingの値段は2万ドル。

もはや自転車というよりも、贅を尽くした美術工芸品といったほうが適当だろう。「宝石のような」と記述したが、実際にジュエリーを盛り込んだモデルもあるというから驚きだ。

ディレクターのアスカリ氏はもともとブラジルからの移民としてNYを訪れ、ファッションモデルとしてキャリアを積んできた異色の経歴を持つ。

幼少期にブラジルの鉄工所で育ち、クラシックなハンドメイドのモノ作りを学んできた経験、そして最先端のNYファッションシーンの現場に立ち続けた経験がアスカリ・バイシクルズの自転車には込められている。

そのモノ作りはラルフ・ローレンも魅了し、実際にコラボレーションモデルも製作している。

Hand made in USAという
走るための芸術作品

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アスカリ・バイシクルの製品はネジひとつに至るまですべて手作業で作られる。クライアントの使用目的や一日に乗る距離などをヒアリングしながら1台ごとに設計図面が引かれ、数ヶ月を掛けて製作される。

ハンドルひとつとってもスチールにカーヴィングが施された真鍮、黒檀製のハンドルエンド、バーテープとして巻かれた丸革紐など、目を見張るばかりのこだわりぶりだ。

そのディテールワークの精緻さは遥か昔、貴族たちが財を投じて作り上げたアールヌーヴォーの邸宅や宝飾品を思わせる。

自転車という道具にとって
“価値”とはいったい何か

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一般的に自転車の価格は性能に比例する。使用者の体格に合わせてデザインし、カーボンやチタンなど最新の素材を使ったモデルはアスカリ・バイシクルと同じぐらいの値段で、もっとずっと軽量で速く走らせることができる。

しかし、最新の素材を使い、カーボンが割れたら捨てる以外に方法のない高額な自転車が、果たして本当に価値あるものと言えるのだろうか。エコな乗り物として自転車が注目を浴びているが、壊れたら捨てる以外に方法の無いものを選ぶことは、果たして本当にエコなのだろうか。

アスカリ・バイシクルズの自転車は19世紀に自転車が誕生した頃のものと基本構造や素材は変わらない。そして作り方も19世紀の頃と同じく、ひとつずつ職人の手作業によって作られる。だからこそ、たとえ壊れても直すことができ、乗り続けることができる。

価値あるものとは。エコとは。その答えはアスカリ・バイシクルズが掲げる“Looking back to move forward(前に進むために過去を振り返る)”というスローガンのなかに隠されているのかも知れない。


Licensed material used with permission by Ascari Bicycle Inc.

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。