ポップでプリミティブ!松尾たいこ個展「福馬福鳥」。

自分の「すき」が、ひとつでも身のまわりにあると、なんだか守られているというか、しあわせな気持ちになるものである。それがたとえ、ままごとに使うような小さな豆皿であっても、とぼけた表情の人形であっても、自分の「すき」という視点で揃えて、それらが調和した暮らしというのはやっぱり憧れだ。松尾たいこさんの作品と対面すると、まるで松尾さんご本人と対話しているかのように、たちまち楽しい気持ちになってくる。そして、良かったら寄ってって、なんて、自分の家に招きたくなるのだから不思議である。

どんなものにも、
小さな物語がある。

松尾さんが立ち上げたブランド「千年陶画(せんねんとうが)」は、福井に通い、地域の人たちと交流を重ね、そこから越前焼きとのコラボレーションがスタートした。長くイラストレーターとして活躍されてきた松尾さんがあたらしいカンバスとして最初に選んだのは、陶板。描かれるモチーフは、フクロウやユニコーン、ネコやインコなど、かわいらしい動物ばかり。そこに夫であり、ジャーナリストの佐々木俊尚さんによる小さな物語がかさなる。

クローバーをくわえた、ぱっちりした瞳のフクロウと、小さな物語『夜はいつも、明るい朝を待つ時間』。フクロウは夜の鳥であり、希望の鳥でもある。満月の夜、月明かりが薄雲を照らすように、そっと背中を押してくれる、やさしい作品である。

わたしだけの、
かわいい神さま。

縁起物として古くから親しまれてきた「だるま」は、その顔がいのちであると言われている。赤いだるまは、祈願するときに左目に目を入れ、願いごとや目標が達成されたら右目に目を入れるものだが、このシリーズは、干支の愛らしい動物たちがモチーフとなり、ひとつひとつ異なる表情が、福をたっぷりと呼ぶ。何かに挑み始める人だけでなく、自分だけの小さな神さまとして、部屋のお気に入りの場所に飾りたい。こんなだるまなら、いくつでも欲しくなる。

手の平からうまれた、
プリミティブなかたち。

ずっと手を動かしつづけていると、頭より先に、手の平が教えてくれることがある。もともと、埴輪や土偶などのかたちが好きだったという松尾さんが、心のままに作りあげたのは、馬や鳥といった立体物。素焼きならではの土っぽい素材感を生かし、明るくやわらかな色をかさねる。まさしく、プリミティブ&ポップの世界。ところどころ、まだらになっている釉薬もあるが、必ずしも、ととのったものが美しいとは限らないのだ。

大胆な形を取り入れた、
使うほどに育む皿。

料理を盛る皿というものは、見て愛らしく楽しいほうがなんとなく気分がいいものである。食卓は、作り慣れた料理と、使い慣れた器で、いろどりがさびしくなりがちであるから、その雰囲気を和らげるべく、こんな大皿を並べてみたい。使うたびに洗って、その都度変化していく風合いを楽しむうちに、きっと手放せないものになるだろう。これこそ、越前焼の魅力である。食卓は、ほんのりと色気が加わって、きっとゆたかなものになる。

手のひらで触ると、ちょっとしたざらつきや、貫入(ヒビ)など、ひとつひとつ表情が異なるのが陶器の魅力であると思う。「絵は、額に入れて眺めるものだから、触れることができない。」イラストレーターとしてさまざまな絵を描いていた松尾さんが、自分で想像しながら描くということに飽きはじめていた矢先、出会ったものが、陶器だった。焼きあがるまで、どんなふうに出来上がるのかわからない。その想像のつかなさが自由で楽しい雰囲気を生みだす。松尾さんの「すき」は、めぐり巡って、私たちの「すき」へとつながっていく。

松尾たいこ個展「福馬福鳥」
会期:2016年11月11日(金)〜23日(水・祝)
時間:11:00〜19:00(最終日は18:00まで) 
休:木曜
場所:ギャラリースピークフォー

Licensed material used with permission by TAIKO MATSUO ART-WORKS
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。