やがて、企業から対面による「採用面接」がなくなるかもしれない
現在、ほとんどの企業が人材採用の際に行っている(対人型の)面接、これを「何の役にも立たず、むしろ最悪の手段」とまで言い切る人物がいます。組織・人事コンサルタント会社を経営するMarcel Schwantes。
日頃からサーヴァントリーダーシップの指導者として、人材コンサルの第一線で活躍する彼が「Inc.」に寄せたこの記事の内容は、アメリカにおける採用面接のシーンが大きく変わってきていることを示しています。
採用面接において81%もの人が
どこかでウソをついている
『The Best Place to Work』の著者であり、社会心理学者のRon Friedmanによれば、じつに81%もの人が面接の最中、どこかでウソをついているといいます。理由は極めて単純、「そうしないと合格できない」から。これが面接中に私たちを不誠実にする最大の要因。
例えば、私が採用面接を受けているとしましょう。自分が持っていないスキルについて尋ねられたとき、仮に素直に「持っていません」と答えてしまったら、面接に落ちるんじゃないか?と思うことがあります。唯一残された選択肢は、答えをはぐらかしながらも面接官に「ウソの印象」を与えることだけ。
つまり、結果として求職者は「不誠実な受け答え」をするしかないし、採用する側はそれを鵜呑みにするしかないわけです。
面接中、脳はどのように
私たちを思考停止させているか
もしも、現在キャリアチェンジを考えている人が読んでいるとしたら、踏んだり蹴ったりな内容で申し訳ないのですが、考えてみてください。仮に採用候補者が100%正直に質問に答えてくれたとしても、目の前にいるその人のことを正しく評価できるかどうかには疑問が残ります。
Friedmanによれば、これは脳のはたらきに原因があるのだそう。私たちが誰か他の人を観察したり、あるいはスキルセットを評価したりする際、そこには無意識のバイアスが存在します。魅力的な女性、背の高い人、深い声で話す人…あなたも、このような人たちを面接したことがあるかもしれません。
現に、科学的にも以下のように言われているのですから。
・見た目がいい人
「優秀」、「有能」、「知的」であると評価されやすい。・背の高い人
「リーダーシップ」を有していると評価されやすい(男性ほど顕著ではないが女性にも当てはまる。またどの年齢においても「身長」と「給料」には関係がああるというでモータも)。・深く低い声で話す人
「力強さ」、「高潔さ」、「信頼性」を持っていると評価されやすい。
あなたの脳に、このようなバイアスがかかっていなかったと言えますか?見た目や声などのファクターに影響を受けない、というのは不可能に近いとも研究は示しています。これは、採用面接のあり方そのものにも影響してこないはずがない。
面接官のバイアスが
質問の仕方を変えている
仮にあなたが面接官だとして、採用候補者が「外交的」に見えた場合、こんな質問をしたくなるものだ、とFriedman。
「リーダーとしてプロジェクトを率いた経験を教えてください」
また逆に「内向的」な人と感じた時は、ほんの少しだけ変えて、
「プロジェクトを率いるのに、リーダーとして苦労することはありませんか?」
どちらもだいたい同じことを尋ねているのですが、面接官は自分の第一印象(バイアス)を裏付けるような質問の仕方をしてしまうものな。これこそが、最大の問題なのです。
解決策は「トライアル」にあり!
現行の対面式による採用面接を廃止して、「ジョブオーディション(ないしはトライアル)」にするべきだと主張するFriedman。私もこれには一理あると思っている派。
ミュージシャンやダンサー、俳優など、つねにオーディションを受けることで、仕事を手にする触手と同じように。その場合、採用する側もただイスに座って型通りの質問を投げかけたりはしないもの。その人が実際に歌ったり、演じたりするさまを見たいのですから。
これと全く同じ理由で、採用候補者がどんなふうに働くのかを、雇用契約を結ぶ前に「トライアル」しておきたいと思いませんか?
例えば、あなたはセールスパーソンを一人雇いたいと思っているとします。その場合、候補者を呼んで、実際に商品を営業させてみる。あるいは、ウェブデザイナーを雇いたいなら、実際にランディングベージをつくらせてみる、とか。
いずれにせよ、あなたが抱く第一印象は、「質問にどれだけ上手に答えられたか」ではなく、彼らの仕事ぶりに向けられることになります。企業が「面接」ではなく「トライアル」を選んだ場合、人材獲得に対してより効果的にアプローチできるようになり、望ましい人材に働いてもらえるような職場を手にできる、すでにこんな研究データが出ている、というのも納得です。
ケーススタディ:A社
重要なのは、
社内カルチャーにいかにフィットするか
アメリカ・ミシガン州に拠点を置く、ソフトウェア開発会社Menlo Innovationsでは、「エクストリーム・インタビュー」という採用方式を実施しています。なんでも、求職者には質問がひとつも飛んでこないんだとか。
オーディションのために会社に到着したら、CEOのRichard Sheridanが採用候補者にこう告げます。
「このオーディションでは、履歴書に書いてあることは取り上げません。あなたが我が社にフィットするかどうかだけを見極めたいのです」。
普段の仕事環境を再現するため、候補者50人を一度に集め、ペアをつくって20分間作業させます(同社は、従業員は一人では仕事をせず、ペアになって働く。ブレインストーミングをする際は、ひとつのコンピュータを二人でシェアし、マウスを何度も受け渡すそう)。
オーディションでは、日常業務に近い演習問題が課されます。ペアになって一緒に作業をするため、採用担当者は彼らがどのように相互にやりとりするのかを観察できるというわけ。20分が経過すると、新しいパートナーとペアを組んで別の演習をおこない、さらに20分経つとまた「入れ替え」がおこなわれます。
このオーディションの過程で評価されているのは、候補者がそれぞれ異なるパートナーとペアを組む中で「自分の強み」を最大限発揮できるかどうか。
「Menlo Innovationsの文化は開放的な恊働空間であり、幼少期から培ってきたスキルを発揮し、他の人とうまくやっていけるような人材を探している」のだとSheridan。
人との距離が近い「超協働スペース」では、その人が社内のカルチャーにフィットするかどうかは絶対条件。このオーディションはスタッフが「一緒に働きたい」と思えるような人材を取るための仕組みなのです。
エクストリームインタビューが終わると、スタッフ全員でどの候補者を次のステップである「終日オーディション」へと再招集するかを話し合って決定するそうです。そこでは、現職スタッフ2名とともに実際のプロジェクトに参画。候補者の中でもっとも優秀だった人物が、その後に行われる3週間の試用雇用のもと、給料をもらいながら働くことになるのです。
ケーススタディ:B社
求職者と企業が相互に評価しあえる仕組み
ウェブをより良い環境にするべくWordPressを生み出した「Automattic。彼らは「オーディション制度で面接を刷新できる」と確信している企業です。過去に数多くの従業員が辞めていった教訓を受けて、CEOのMatt Mullenwegは「Harvard Business Review」の中でこう述べています。
「われわれ企業側が採用面接の『いくつかの側面』の影響を受けていることは明らか。例えば『話し方』や『レストランでの作法』など。そういった類のものは、彼ら候補者が実際にどのような仕事ぶりを発揮するのかとはまったく関係がないのに。面接が非常に得意で魅力的な人物であっても、優秀な従業員とは限らない。なぜなら、面接は“演じる”ことができてしまうからね」。
現在、すべての最終候補者は3週間から8週間の契約ベースで、将来の同僚や上司と一緒になって実際の業務にあたっているそうです。このシステムの目的は、「仕事を完成させることではなく、相互に良好な関係と築いていけるかを迅速にかつ効果的に判断すること」だとMullenweg。
希望するポストがエンジニアであっても、CFO(最高財務責任者)であっても、トライアル中の時給は、一律時給25ドル。
それでも、企業と求職者が相互に評価しあえるため、この仕組みはうまくいっているんだそう。カスタマーサポート志望であれば顧客の対応を任されます。エンジニア志望であれば実際にコードを書いていくし、デザイナー志望ならデザインをする。
このシステムを導入したことによって、企業は「早期に辞めていってしまうような人材」をより具体的にイメージできるようになり、結果的に時間を大幅にセーブできるようになったといいます。Mullenwegは強調します。
「求職者にどれぐらいやる気があるか、文面によるコミュニケーション能力はどれぐらいあるのか(ほとんどの業務が遠隔にておこなわれるため)、失敗をどのように解決するのか、がはっきり分かるという点で、オーディション制度は非常に効果的なんだ」。
そして、 採用活動の最終ステップはMullenwegとの面接。しかし、あなたが考えているような「面接」とは違います。
「Skypeのテキストチャットかインスタントメッセージを使って面接するんだ。だから、相手の性別もわからないし、相手がどんな民族性を持っているのかも知る術がない。僕はスクリーン上の『文字』しか見れないからね。求めているのは、情熱と企業風土への一致。実際、最終面接まで進んだ候補者の95%は内定を獲得しており、これは我々のアプローチの正しさの証明になると思うよ」。