奄美大島の魅力は、「泥染め」が語っていると言ってもいい。

GWに奄美大島を訪れた私は、次に行くときは絶対に持参しようと決めているものがある。それは、白のコンバースだ。

ウミガメやイルカと遭遇できる海も、鶏飯も、島人の優しさも、魅力をあげたらキリがないけれど、世界で唯一、奄美でしか体験できない伝統工芸「泥染め」は、マストでスケジュールに組み込んでおいて本当によかったと思う。

始まりは1300年前
「伝統より、伝説に近かった」

奄美の自然界に存在する泥田は、鉄分がすごく豊富であることが特徴。見ての通り、こうして泥に漬け込んで染色するのだけど、その前に重要な工程がある。

まずは島に自生するテーチ木(シャリンバイ)をチップ状にして煮出し、1週間発酵させたあとに、左から3番目の茶褐色になるまで煮汁で染める。

その工程を踏んだあと泥に入れることで、木に含まれるタンニン酸と鉄分が化合し、化学染料ではつくれない独特の渋みのある黒に染まっていくのだ。左から4番目が初めて泥に入れたときの色で、回数を重ねるごとに、右の濃い色になっていく。

島の大自然と、人の歴史によって生み出された技術だ。

Photo by Teba Brown

好きなように模様をつけて染め終わったら、世界でひとつだけの作品の完成。もっと黒にしたい場合は回数を重ねてもいいし、テーチ木の色だけで染めたりと、配色はお好みで。

伝説は伝統となり、やがて
「楽しい」と愛され始める

奄美空港から市内に向かって車で25分、「肥後染色・夢しぼり」は昭和47年から泥染めを始め、2015年には、アパレルブランド「Teba Brown」も立ち上げている。

言い伝えによると、泥染めが生まれたのは1300年前らしいけれど、産業として盛んになったのは今から約50年前。「まさか、こんな若い人たちが体験したがるようになるなんてね〜」と、親方の肥後英機さんは楽しそうに笑う。爪まで泥染めされた彼の手は、バトンを繋ぐために、毎日ここに立ってきた歴史そのものだった。 

最近では実際に泥田まで行かず、大きなボウルの中で染める体験所も多いそう。けれど、夢しぼりでは寒い時期や雨でない場合は、実際に膝まで泥に浸かりながら染色を楽しむことができる。長靴や手袋、服が汚れないように上着も無料で貸してくれるから、手ぶらでOK!

完成したTシャツを広げて、母の日にプレゼントするんだ〜と伝えると、「そりゃいいや」と、私よりも嬉しそうに、シャツを眺めて写真に収めてくれた。

「昔はこんなふうにお土産になったり、若い人に体験してもらえるものになるとは思ってなかったんだけどね。この島がずっと大事にしてきた伝統だから、これからも多くの人に愛されるものになっていってほしい」。

泥染めと藍染め、
選べないならどっちも。

Photo by devadurga

夢しぼりでは、藍染めも一緒に体験できる。どちらかが選べないと言う人は、両方使って染めてみる、なんて贅沢も許されるのだ。シャツに黄色が入っているのは、もともと黄色いシャツを染めたから。白いTシャツ、トートバック、ストールなどの素材をその場で買うこともできるけれど、使いたい色のシャツや靴、帽子など持参したものも染めさせてくれる。

体験の直前に素材を買いに行けばいいや、と思うのは危険かも。なぜなら私は、「コンバース」を販売しているお店が遠すぎて断念したから。準備は、飛行機に乗り込む前に済ませよう。

染めるものが増えても、「体験料は一律3,000円」という太っ腹にも感謝したい(3つ以上になる場合は、事前に電話すると助かるそうです)。

奄美から、世界へ。

夢しぼりの親方が染めた洋服や雑貨を販売している「devadurg(デヴァドゥルガ)」が、2010年にオープンした。オーナーの島崎仁志さんは奄美出身で、自然でつくるアウトドア用品というコンセプトを大切にしている。

直営店が、奄美と新潟に2店舗。立ち上げてから7年たった今、全国に40店舗、海外2店舗におろし販売を展開をしている。都内では、東京ソラマチやダイバーシティ東京で、親方の染めた洋服を買うことができるというから驚きだ。

「縫製等は広島や秋田でバラバラだけど、全て日本製。今後は奄美でも縫製できるような環境づくりをし、メイドインジャパンならぬメイドイン奄美を実現したい」

奄美の人たちは、本当に地元のことを大切に思っている。島に大学がないことで、若い人がどんどん少なくなってしまうという深刻な問題を抱えながらも、「島興しは島戻しだ」と、文化や伝統を広めていくために活動している。

初めて訪れたのに、田舎に帰ってきたような優しいあたたかさをつくっているのは、島の人たちの愛情に他ならないのだろう。

肥後染色・夢しぼり
住所:鹿児島県大島郡龍郷町戸口2176
営業時間:9:00〜18:00
電話番号:0997-62-2679
定休日:不定休

devadurga
住所:鹿児島県奄美市名瀬伊津部町11-7
営業時間:11:00〜19:00
電話番号:0997-69-4800
定休日:水曜日

Licensed material used with permission by 肥後染色・夢しぼり, Teba Brown, devadurga
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