「キャッシュレス化」で生活はどう豊かになるの?

必要な紙幣や硬貨を、財布の中から探しだし、数えなくてもいい。履歴をチェックできるし、ポイントがつくこともある。近頃はスマホ払いも当たり前。送金アプリでワリカンも簡単。現金を使わずに済むってなかなか楽ちん。

海外は、電子マネーの利用率のほうが圧倒的に高いところもある。オリンピックに向けて、日本でもキャッシュレス化は進むと言われている。とはいえ、これからどうなっていくのかと考えてみても、わからないことはたくさんある。

そこで、個人間送金アプリ「Kyash」の代表・鷹取真一氏にお話を聞いてみました。あんなことや、こんなこと、ありえるんでしょうか?

鷹取 真一(たかとり しんいち )

三井住友銀行にて法人営業のち、経営企画の国際部門担当として海外拠点設立、金融機関との提携戦略を担当。米系戦略コンサルファームの日米拠点でB2C向け新規事業支援。2015年1月に株式会社Kyash創業。同年9月よりFinTech協会理事。

財布はいらなくなる?

スウェーデンや中国など、キャッシュレス化が進む地域で注目される“財布を持たない人たち”。万が一のために、ほんの少しだけ紙幣や硬貨を持ち歩きはすれど、生活に必要な支払いはカードやスマホアプリで済ませるのが当たり前に。

“財布を持たない人たち”は、増えていくと思いますか?

「一部では増えていくと思います。ただ、少額取引において日本はまだまだ現金主義です。経産省のデータによると、2015年における各国のキャッシュレス決済比率は、中国が55%、韓国が54%、米国が41%、日本が19%でした。現在では、さらに開いていると思います。

国によってキャッシュレスが推進された経緯は違っています。中国なら主に偽札対策。現金よりデジタルの方が信頼できたわけです。韓国は、脱税や地下銀行の廃止を目的に、国策としてカード決済者への免税といったインセンティブを与えてカード文化の普及を加速させました。

一度慣れてしまうと、重たい小銭を持ち歩くという生活に戻りにくくなるとは思います」

現金がなくなる、なんてこともありえるのでしょうか。

「個人的に、完全にはなくならないと思っています。ただ、デジタルなお金の形が主役になることは間違いありません。現金は何にでも交換できる一つの通貨の形としては存在し続けると思いますので、旅行に行くとき以外はスマホだけで生活できるとか、財布の厚みが3分の1になるとか、マネークリップを使う人が増えるとか、そういう変化はあるのでは、と思います。どちらも使える状態のまま、デジタルのほうが主流になっていくと思います」

経費精算が面倒だから、全社員にクレジットカードを配ってほしい!なんて要望もあります。

「マイナンバーと紐付いた財布ができてくるでしょう。または、社員証で支払いをして経費精算を自動化する、なんてことも起きてくると思います」

有名店から行列が消滅!

事前精算をしてお店に着いたと同時に商品を受け取れるシステムは、飲食店などに導入されている。列に並んで待たずに済む。

事前精算を主としたお店が増えると、行列自体も減るのかなと。

「行列がなくなるかはわかりませんが、ランチ代をアプリで集めて支払えば、個別に精算するより会計が早く済むようになります。お店にもユーザーにも大きなメリットですよね。

自宅やオフィスから事前精算をしなくても、列に並んでいるときに注文と決済を済ませることができます。親切な店員が外までやってきて、メニューを見せてくれることがありますよね。その先の精算完了まで、アプリで解決できます」

注文と決済が同時に終わるのは手軽ですね。

「対応できるお客様の数も増えると思います」

アーティストやスポーツ選手に
ダイレクトに価値を送って応援できる

Swish(スウェーデン)やWeChat(中国)、Kyash(日本)など、より簡単に個人間の送金を可能にするアプリが増えてきた。

投げ銭をするような感覚でお金を送ることが、一般的になりますか?

「ライブ中の好きなアーティストや、競技中のアスリートに、銀行を経由せず、手数料無しで、リアルタイムに応援の気持ちを送れます。災害などで援助が必要な人に対して、スマホから直接寄付することもできます。

送金行為自体のハードルが低くなることで、新しい経済循環も生まれるのではないかと考えています。振込に、わざわざ銀行口座番号を取得する必要はなく、QRコードやSNSのアカウントがひとつあれば十分なのです」

クラウドファンディングする人が増えそうです。

「似ていますが、クラウドファンディングのようにみんながみんな企画を立てる必要もなくなるかもしれません。ある人の生き様がカッコイイから応援したいとか、助けたいとか、その思いだけあれば、頭で想像した意思の通りに価値を送れる未来はそう遠くないと思っています。

デジタルなら、時間と場所の制約がなく、100円渡したいと思ったときに渡せます。たとえ現金の持ち合わせがなくとも、価値を持っていれば届けられます」

より、気持ちを伝えるという感覚に近いでしょうか。

「ホストファミリーをする家庭で育ったので、なんで日本にはチップをわたす文化がないの?と幼少期から問われていました。これを文化の違いとひと言で片付けるのは簡単なのですが、気軽に価値を移す手段や行動習慣があれば、それによって恩恵を受ける人や産業もあると思います。

24時間テレビのマラソンを放送するときに、QRコードを画面にうつしておけば、そこに応援したい気持ちを送れる。すると、どういう瞬間に人の気持ちが動いているのかも可視化できます。リアルタイムな積み上げが表示できるので、応援している側の盛り上がりが見えたら、それも興味深いデータになっていくと思います。
 
アートなどの芸術品に、送金先のアカウントのQRコードが貼られていれば、購入しなくても、入場料以上の価値を感じたときにその気持ちを送れます。作り手への価値の還元も、もっと適正になると思うんです」

お賽銭やお年玉も、スマホでピッ…。

東京都港区にある愛宕神社には、お正月限定で「Edy賽銭箱」が置かれていた。来年の予定は検討中だそう。

“お賽銭を投げる”という体験がなくなるとすれば、ちょっと寂しい気も。

「お金のやりとりは、デジタル化されることによって新しい体験になっていくと思っています。お賽銭も、体験自体がユニークになると思います。

たとえば、寄付すると自分が何人目の参拝者だったのかを知れたり、おみくじがついてきたり、“半年前にあなたが寄付した1,000円が、神社の修復に使われました”、なんてレポートが送られてきたり。どこに貢献できたかを知ることができるようになるかもしれません。トレーサビリティと言いまして、足あとを残せる特徴があるんです」

履歴を追えるのはメリットですね。

「はい。誰が何をしたのかがわかります。現金で買った人がどこへ行ったかはわかりませんが、クレジットカードで払った人なら追うことも可能です。購入後まで手厚いサービスを提供するなど、できることは増えると思います。

お年玉に、今年の豊富を3つ書いてください、などの課題を設けることもできます。それをクリアすると中身がもらえる。そういった体験の豊かさによって、紙幣や硬貨にできないものも提供できると思います」

むしろ、現金主義のほうが怖い?

2013年4月に公開された「The Local」の記事には、スウェーデンで起きた銀行強盗事件のことが書かれている。襲われた店舗は現金の取り扱いがなく、犯人はそのまま去っていったとか。

現金主義とキャッシュレスって、どっちが安全なの?と思うことがあります。

「物理的な現金の所有には、盗難リスクや管理コストがついてきます。キャッシュレスになることで、よりお金の流れが見える化されるのは安全なところだと思います。

ただし、本当の意味でキャッシュレスにシフトするには、サービスを提供する事業者に厚い信頼がないと実現できないと思っています」

キャッシュレスサービスの提供者とは?

「Kyashアプリを使う場合は、その残高を管理するKyashです。その信頼を得るためには、Kyashという企業が、いかにユーザーから社会的な信認を得られるか、が大きいと思っています。インターネットやスマホの普及と似ていると思っています。

5人で飲みに行った時に4人がキャッシュレスサービスを使っていて、1人だけ現金主義な人がいたとしましょう。きっと、そのままでいればいるほど、みんなと一緒にできないことが増えていき、不便を感じはじめ、キャッシュレス化を意識するようになります。そうしてバランスがだんだんとデジタルに移っていくのではないでしょうか。

2020年のオリンピックはひとつの大きな節目だと思いますが、その差に気づけるのは、まだまだ先のことかもしれません」

あとになって、体験が豊かになったことに気づくのかもしれませんね。

「そうですね。効率性や利便性には焦点が当たりやすいのですが、感情に寄り添ったところの話はまだ少ない気がします。そういった豊かさは、あとになって見えてくることではないかな、と。

レジで会計する時間を1秒でも短くしたい人がいれば、ポイントがつくからとクレジットカードで決済したい人もいます。履歴を残して管理を簡単にしたい人もいるでしょう。

たとえ話ですが、優れた家計簿アプリが出たことで、カードを使う人は増えたと思っていて。新たなサービスが生まれ、その便利さに気づく人が増えた結果、キャッシュレス化が進むと言う部分はあると思っています」

お話を聞いた人

Licensed material used with permission by Kyash
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。