『現代演劇ポスター展2017』が、せつない。

宇野亜喜良が好きだ。

『男装劇 星の王子さま』(演劇実験室◎天井棧敷)
1968年 デザイン:宇野亞喜良 シルクスクリーン

中学時代、寺山修司の詩集が好きだった私は、必然と宇野亜喜良のイラストを多く目にしていた。そして彼を好きになり、彼の絵を特別に思うようになった。

2003年、SPACE SHOWER BOOKSから出ている『宇野亜喜良60年代ポスター集』を手にした。本を通して、ますます宇野亜喜良が好きになると同時に、彼のポスターが街中に貼られていた60年代の街を想像し、うらやましいと思った。

私は1988年生まれ。あんな刺激的な60年代を、決して経験することはできない。同じ時代を生きた人は、奇跡。その奇跡は、私には訪れない。

しかし、あれから14年。
あの時代は決して戻ってこないけれど、あの時代の演劇ポスターが帰ってくることを知って、私は興奮した。

約300点のポスターで
あの時代がよみがえる

その展覧会こそ、すでに話題となっている『現代演劇ポスター展2017―演劇の記憶、時代の記憶、デザインの記憶、都市の記憶』だ。渋谷ヒカリエホール ホールB、渋谷キャスト スペースアツコバルー arts drinks talkの3会場を使い、宇野亞喜良、横尾忠則、粟津潔、赤瀬川原平、平野甲賀らの60年代の演劇ポスターが展示される。

『現代演劇ポスター展2017』は、ポスターハリス・カンパニー設立30周年の記念展として開催されるものだ。

ポスターハリス・カンパニーは、演劇や映画、展覧会などのポスターを、劇場や美術館などに配布している会社だ。手元にポスターがたくさん集まるようになったことをきっかけに、1994年、60年代以降の舞台芸術系ポスターを収集・保存・公開するプロジェクトを設立した。そのコレクションの充実度は、新国立劇場のポスター収集活動にも協力しているという事実からもうかがえる。

ポスターハリス・カンパニーの約2万点におよぶポスター・コレクションのなかから、60年代を語る上で特に重要なもの、貴重なものなどを300点厳選し、大々的に公開するのが今回の展覧会だ。

左・『犬神 フランクフルト公演』(演劇実験室◎天井棧敷)1969年 デザイン:粟津潔 シルクスクリーン
中・『腰巻お仙 忘却篇』(劇団状況劇場)1966年 デザイン:横尾忠則 シルクスクリーン
右・『少女都市』(劇団状況劇場)1969年 デザイン:赤瀬川原平

 すばらしい、けど
せつない理由

前述の『宇野亜喜良60年代ポスター集』には、「ポスターという名のメディア、あるいは懐しい風」という、宇野亜喜良本人のエッセイが収められている。そのなかには、彼の温度で、時代と演劇ポスターの関係がつづられていた。

60年代は今ほどメディアが多様化していなかったこと。そのため、ポスターは都市のなかで、メディアとしての機能を立派に果たしていたこと。それが若者にとっては、情報を得て、文化を楽しむ方法のひとつだったこと。ポスターを貼り出すとすぐはがされ、持ち去られ、新たに貼っても、またはがされたこと。劇団はそれを嘆いていたこともあったようだけれど、ポスター作成者として、宇野亜喜良は嬉しいと感じたこと。彼がそれを、演劇+デザインによる「市街劇」ととらえ、60年代の街を見ていたこと。

そして、当時の演劇ポスターを、こう言い換えている。

「ごく一時期の間だけ
 人間の精神や、情緒にかかわりを持つ、
 ある種のはかなさを
 具有するメディアである。


60年代を彩ったこの華麗な演劇ポスター群は、今私たちがあの空気を疑似体験できる、唯一で、最大限の方法だ。それは高揚であり、貴重であり、幸福であるのはもちろんだ——けれど。

この展覧会の根幹にあるのは、まぎれもなく、切なさなのである。

なぜなら、ここで展示されるのは、もう戻れないあの時代・あの都市の「精神」であり、「情緒」であり、それらを総じた「記憶」だからだ。このポスターたちが華麗であればあるほど、「戻れない」現実は色濃くなり、せつなさは増す。それがまた、この展覧会を最高で、唯一無二のものへと押し上げていくのだろう。

だからこそ、私はこの展覧会に期待している。宇野亜喜良に憧れ、60年代に憧れ、けれどその奇跡を享受できないという切なさを胸に、観に行こうと決めている。

現在、パルコのクラウドファンディング「BOOSTER」では、この展覧会の応援プロジェクトが始動している。サポーター募集期間は2018年1月31日(水)までだ。

展覧会名
現代演劇ポスター展2017―演劇の記憶、時代の記憶、デザインの記憶、都市の記憶

会期
2017年12月21日(木)~2018年1月10日(水)

会場
渋谷ヒカリエホール ホールB
渋谷キャスト スペース
アツコバルー arts drinks talk

開館時間
11:00~20:00(最終入場19:30)

休業日
2018年1月1日(月・祝)

Licensed material used with permission by ヒカリエホール
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