無我夢中になるのがライブ。ここに写っている人たちはみんなそれをやっていますね。

2月9日に発売したばかりの写真集が、発売して間もなく完売した。国内のヒップホップシーンを初めてまとめた作品だ。

重版が決定したと知り、写真を撮影した現場主義の著者、cherry chill will.さん(以下c)に、今と昔のシーンについて話を聞いた。

cherry chill will.1978年生まれ、青森県八戸市出身の写真家。レコードショップ「CISCO RECORDS」の元スタッフ/バイヤー。

本記事は2記事で構成されている。いくつかの写真にまつわる貴重な話を聞いたインタビュー記事はコチラから。

──日本のヒップホップシーンを今と昔で比べると、どんな違いを感じるでしょう?

 

c「お客さんの層が細分化されていますね。フリースタイル、MCバトルが好きな層。日本語ラップが好きな層。全部ひっくるめたクラブが好きな層。日本語ラップに興味が無いけど、海外のヒップホップが好きな層。

もっとあるけど、昔はそこまで細かくなかったかなって思います。

みんな日本語ラップも好きだし、アメリカのラップも好きだし、クラブしか遊ぶとこなかったから、同じ場所に集まって、同じものを見ていた。

今はヒップホップにも色々なスタイルがあるから総括するのは難しい。細かく言えば沢山あるけど、ハードコアなスタイル、少しポップなスタイル、と昔は分かれてたとしてもそのくらいでしたし」

 

──情報も追いきれませんしね。

 

c「だから、今回の写真集に掲載したアーティスト達の世代間にはちょっとこだわってます。ぼくは78年生まれで、さんピンCAMP世代なので、そのとき高校生だった僕みたいな人間にとっては、BUDDHA BRAND、KGDR(キングギドラ)、RHYMESTER、雷なんかはレジェンド。

そこから、BAD HOP、KANDYTOWNまでを、現場でコミュニケーションとりながら撮っているフォトグラファーは他にいないと思うんです。

ヒップホップは音楽なんですけど、シーンの中に身を投じられるのが面白み。アーティストだけでなく、クラブ関係者、ステージを作る方々、照明、音響、スタイリスト、ヘアメイク、フォトグラファー、ビデオグラファー、ライター、そして、リスナー/ファンのみんなで創っていこうっていう参加型のカルチャー。

みんなキャラが濃いので、こんな変な人でも生きていけるんだとか音楽できるんだとかも思える(笑)。

ロックも面白い人が多いでしょう?やっぱそういうストリートの音楽って、人とは違う特別であることが武器になる。ヒップホップなんか特に、何も持ってなくてもマイク1本で、ターンテーブルで、世界を変えられるかもしれない!って思わせてくれる所がありますよね。

そういうのは面白味のひとつかなって思いますね」

 

──写真集を見て、ヒップホップファンだけではないところまで届いているのではないかなと思いました。RIZEのJESSEさんも登場します。

 

c「JESSE(ジェシー)と知り合ったきっかけはThe BONEZでした。写真は、RIZEの香港・上海ツアーに密着して、武道館まで追って撮影したときのもの。入稿の直前、何日か前に急遽入れることが決まりました。

彼も間違いなくカリスマであるし、バンドマンでありロックスターだから、なんで彼がこの写真集に入ってるの?みたいな意見があったんです。

だけど、彼のメンタリティとか、根っこにあるものはヒップホップだな、と。ラップのスキルも人格も。本人にもその自覚は強くあって、彼をこの写真集に入れないのは違うな、と。

ジェシーのおかげといっても過言ではないくらい、ストリートのバンドマンの方達にも知ってもらえましたし、いろいろなところとリンクしてきています。最近は、BRAHMANのTOSHI-LOWさんや、Crossfaithも撮らせてもらっているので」

──cherry chill will.さんのルーツはパンクだったと聞きました。音楽は広く聞いていたタイプだったのでしょうか?

 

c「そうですね。青森県八戸生まれで、親父やおじさんがロックバンドやってたから、幼少期から家にドラムセットとか、ベース、ギターがあって。

80年代後半は世間的にビリヤードが流行ってたと思うんですけど、親父はビリヤード台のある、いわゆるプールバーを経営していました。

店には米軍基地からのお客さんも多く、ずっと聞いて育ってきた洋楽に耳が馴染んでいました。小3ときに初めて買ったのはセックス・ピストルズ。UKのクラシックパンクとか聞きながら、その流れでヒップホップを好きになったんです。同じ匂いがして。

根底にあった怒りとか、ハッピーだけじゃなくてちょっとしかめっ面でオトナに反抗するところとか、パーティーって感じよりシリアスなところとか。アグレッシブな感情を表にしている音に、ゾクッとしたのがきっかけでしたね」

 

──わかります。

 

c「つくり込まれたエンターテインメントというより、みんな魂を削って自分の言葉を吐き出して、生身でやってるからライブになるのかなと。

面白いもので、ポートレートとかもそうなんですけど、彼らのテンションやお客さんを含めた会場の空気感を撮らせてもらっていて、セッションに近いんです。

こうだから、こうなって、こう撮るっていう、そういうロジカルなものではない。むしろ、それが見えてしまうアーティストって、たぶんいいパフォーマンスをしていないんじゃないかなって思うんです。

こっちが無我夢中になるものがライブじゃないですか。ここに写っている人たちはみんなそれをやっていますね」

(C)cherry chill will.

写真集は、2008年に撮った初めての仕事から始まる。この記事のトップ画像は、2009年に発売されたDABOのアルバム『HI-FIVE』に使われた写真だ。

それから、京都出身のラッパー・ANARCHYの撮影などを経て、活動の幅を拡げてきた。最後に掲載されているcherry chill will.とANARCHYの対談では、より詳しい経緯や、アーティストとのやりとりなどが語られている。

売り切れで手に入らなかったという声もあったが、本日3月9日からは再度店頭に並ぶ。写真の撮影背景について語ってもらったインタビュー記事はコチラから。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。