両親を連れていきたいと本気で思った、日南飫肥の宿「季楽」
「こんにちは!!」と、下校中の小学生が大きな声で、しかもこちらに頭を下げてあいさつしてくれたことに驚いていたら、同行してくれた方が、こう教えてくれました。
「学校も飫肥城のなかにありますし、この辺りは城下町でもともと武士の人たちが住んでいたところなので、そういう意識が根づいているのかもしれませんね」
と。
環境が人を育てるというか、「僕たちは城下町に住んでいるんだ」という意識が小さい頃から芽生えているという、自分の中には全くなかった感覚に驚きました。かつては5万1千石を誇ったという藩の中心で、侍と商人たちが活気溢れる毎日を過ごしていたんだろうなぁ、と想像しながら…。
宮崎県の日南市にある飫肥(おび)のまちは今、古民家再生だけでなく、OBI DENKEN WEEKというイベントも仕掛けていて、新しく生まれ変わろうとしているんです。
伝統×快適
飫肥の「季楽」に泊まる
日南市・飫肥にある「季楽(合屋邸)」は、もともと中級家臣の邸宅だった長屋門を、現代に合わせて快適な空間に仕上げた宿泊施設。デザインは乃村工藝社が担当していて、その地域ならではのポテンシャルを活かした空間作りになっているそう。
たとえば、最新のキッチンと昔のかまどのコントラストは、伝統×快適のバランスを考えてデザインされたもの。水回りなども一新して、とても開放感のある作りになっています。
「リノベーションしている間に、屋根裏の梁から刀が出てきたんですよ。オーナーの祖父にあたる方がコレクターだったみたいで、30〜40本くらい保有していたようです。きっと戦時中に回収令が出て隠したんでしょうね。庭の土に埋めて隠していた人もいたみたいですが、それは錆びてダメだったようです」
案内してくれたのは、飫肥地区のまちなみ再生コーディネーターの徳永煌季さん。
「ご両親と一緒に宿泊される方や、お孫さんがおじいちゃんおばあちゃんと一緒に来るケースも多いですね。『冥土の土産になったわ〜』と帰っていく方もいますよ(笑)。あとは外国人の方にも喜ばれます。江戸時代の武家屋敷のテイストを残しながら、快適に過ごせますので」
僕自身も、両親と九州旅行に来るなら、こういうところに泊まって城下町でゆったり過ごしたいなぁと、しばし取材だということを忘れて真剣に考えてしまいました。
当然、こういった古民家再生プロジェクトの背景には、地域とのすり合わせや、資金調達面での課題も多いそうです。
「伝統的な建物があること自体が地域の資源ですし、それをもっと外に伝えていかなきゃいけないと思っているんです。そして新陳代謝が良くなれば、ここに来たい、ここで働きたい、と感じてくれる若い人も増えるかもしれない。ポジティブに新しいマインドや経済の流れを生むことがゴールだと思っているので、達成率で言ったらまだまだ2%くらい(笑)。飫肥全体に波及させたいですね」
住所:宮崎県日南市飫肥8丁目1-48
食事も、近くの古民家
「喜庵 一能」へ
上で紹介した「季楽(合屋邸)」から、歩いて1分ほど。
食事は、鯉の放流通り沿いにある日本料理店「喜庵 一能(よろこびあん いちの)」へ。東京でも腕を振るっていたという料理人歴30年以上の店主、黒木一雄さんが大切にしているのは、季節感。
料理や素材はもちろん、器や盛り付けにも四季を感じることができます。
個人的においしかったランキングをつけさせてもらえるなら、
1位:牡蠣のトマトソース
2位:海老しんじょうのお吸い物
3位:宮崎牛のステーキ
という感じでした。食に関する自分のボキャブラリィのなさが悲しいのですが、一つひとつがとても丁寧で、全部おいしくいただきました。黒木さんは、帝国ホテルや迎賓館などで働いていたこともあるそうです。
懐石のメニューは季節によって変わるので、そこは楽しみにしたいところ。
古民家の間取りを活かした内装は、おじいちゃんちに遊びにきたみたいで、なんだか落ち着きます。
この日は縁側の日当たりも良くて、ポカポカしていました。
「喜庵 一能(いちの)」
住所:宮崎県日南市飫肥5丁目2-41
TEL:0987-25-5551
営業時間:11:30~14:00、17:30〜20:30
定休日:不定休
—— 快適に生まれ変わった伝統的な家屋に泊まりながら、飫肥のまちをブラブラ。
趣のある建物や、水路の鯉を眺めながら、「次はいつにする?」なんて話でもしたいですね。