断食の儀式が伝える、朝4時起きの「食育」

世界中のイスラム教徒たちが、1ヶ月のあいだ、一切の飲食を絶つ「ラマダン」。今がまさにその期間中で、今年は6月14日まで続きます。あらゆる欲を抑えることで、神への信仰心を深めるのが目的。

さてそのラマダン、断食といっても30日間飲まず食わずじゃカラダがもちません。あくまで食べちゃいないのは日の出から日の入りまでの時間。これとてキビシイ。だから、朝はたっぷりお腹にたまるものを食べるそうです。

ではどんなもの?「Food52」より、Sumayya Usmaniのこんな記事を紹介します。

ラマダンの朝食は、意外にも豪華

毎年ラマダンの時期、夜明け前に行われる料理支度にほっとします。“禁欲を課せられる一ヶ月”として、みなさんの中にイメージがあるでしょうが、ラマダン(ウルドゥーにいる私たちは「ラマザン」と呼ぶ)の期間中は、意外にも食べものが欠かせないんですよ。

私が幼少期を過ごしたパキスタンの実家では、数週間前からラマダンの準備を始めていました。母はまず、すぐに消費期限を迎えてしまわない食べ物から揃え始めます。たとえばベサン粉(ひよこ豆粉)やサゴ(サゴヤシの幹から採ったデンプン)、全粒小麦粉、ヤシの砂糖……など。

生鮮食品を買うのは、休みが近づいてから。たとえば、断食期間中に毎朝食べるセリ(夜明けに食べる食事)用の脂肪分の多い、羊や脂肪分の高いバッファローミルクヨーグルトなどは、それこそギリギリになってから買いつけます。

ちなみにインドでは多くの家族が料理人を雇いますが、私たちの家には料理人がいなかったので、母親がすべてイチからつくりました。そのおかげで私もごく自然にパキスタン料理が身についたんだと思います。母と料理をするのは普段からとても好きだったけど、ラマダンのときはいつも以上にその一瞬、一瞬を大切にしていた気がします。

彼女はラマダンになると、普段はつくらないKalay Chanay(黒いひよこ豆)やSagodana Kheer(サゴを使ったミルクプリン)、サモサ(具材を詰めたペストリー)、スパイシーコリアンダースクランブルエッグ、Keema Paratha (スパイシーなフラットブレッドの間にひき肉を挟んだもの)など、ラマダンを待ち遠しくさせる食べ物をたくさんつくってくれたものです。

Photo by James Ransom

母と娘、早朝の台所で紡ぐ“愛情”

ただ、小さい頃は起きるのがとにかく苦痛で(笑)。だって、私の朝食は決まってミルクとティービスケットだっていうのに、夜明け前にわざわざ目を覚ましてそれが食べられないなんてあんまりだと思っていましたからね。

なんて言いながらも、ギーの香りが漂えば、朝4時に起きるのも案外なんてことなかったり。そうして母と祖母の話し声という素敵なアラームを目覚まし代わりに起きていました。健康上の理由から母は断食をしなかったものの、彼女は私と父より先に起きて、夜までお腹が持つようにたっぷりの朝食をつくってくれていたんです。

両親はまた、断食に欠かせない食べものをいくつか教えてくれました。水分を補ってくれるヨーグルトとサゴ。エネルギーとなるジャガリー(精製されていない砂糖)、それから全粒粉でつくるParathas(パラタ)というパン料理。これは消化するのに時間がかかるので、腹持ちがいいみたい。ここにキーマを入れると、おいしどころか贅沢な気分に浸れてしまいます。

 

パラタには数日前に用意しておいた、余りもののスパイシーなひき肉を使います。早起きのリズムを掴んでからは(数日かかるケド)、私が小麦粉を測り、やわらかくなるまで生地を伸ばし、テニスボール大に丸め、中にお肉を入れ、具材がこぼれないようにさらに伸ばしていました。

いま思うと、母と料理をしている時間もある意味“儀式の一部”のようでした。時間がとにかくあったので、パラタにきれいに具材を詰め込みながら、おしゃべりをしたり、ウワサ話を交換したり、秘密を明かしたり、笑ったり。

そうしてできあがったパラタを自家製ギーをたっぷり流し込んだ、平たい鉄製のフライパン(tawa)の上で焼いていきます。味見がてらできあがったものをあれこれつまんだものです。

こうして食事が全部揃ってから、父と祖母もテーブルを囲みました。そこで私たちは断食をすることでぶつかるであろう壁に思いを巡らせるのです。このとき家族とその瞬間を共有できること、いまあるものに対する喜びを噛みしめること……それだけでカラダが満たされていく気がしました。

すると、一日近く続く断食に対する怖さも簡単に消え去ってくれた気がしたんです。なぜって?考えられる時間だったり、この瞬間を共有できることのほうが、自分にとっては大切だったから。

住む場所は変わっても、
母から子へ伝える想い

パキスタンでやってきたラマダンの儀式とは縁もゆかりもないスコットランドで、いま私は暮らしています。母親がいるといないとでは楽しみ加減がやっぱり違いますが、パキスタンに住んだことのない9歳の娘にも、いつかこの伝統儀式を引き継いでいけたらな、と思っています。

それに、一緒に料理をするだけでも、この文化は少なからず娘に浸透していくはず。彼女も、キーマパラタづくりが大好き。母娘ふたりで朝早く起きて、次から次へとパラタの生地を伸ばす作業をよくします。

「ママもおばあちゃんと一緒に早起きしてつくったのよ」、なんて娘に言っちゃったりして。いつもより早起きして食卓を囲むことが、娘にとっても貴重な時間であってほしい。そう静かに願っています。

Written bySumayya Usmani
Top photo: © James Ransom
Licensed material used with permission by Food52
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