まっすぐがんばりたくなる話

まっすぐな人を見ると、ああ自分もこうありたかったんだ、と思い出す。鋤田正義(すきた まさよし)さんは、まさにそういう人物だった。

5月19日から公開されている映画『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』は、デヴィッド・ボウイや、イギー・ポップ、マーク・ボラン、ジム・ジャームッシュ、寺山修司、YMO、忌野清志郎などなど、そうそうたる面々を撮ってきた写真家、鋤田正義さんを追ったドキュメンタリー。

ポートレート写真を中心に、当時交わしていたやり取りや制作現場の様子が、本人と関係者によって語られる。彼の写真に対するこだわりや、その仕事を信頼する人々のコメントはどれも熱狂的だが、本人のテンションはしごく静かでおだやかだ。

この5月に80歳を迎えた鋤田さんは、初日の舞台挨拶で、撮る側から撮られる側になったことについて、恥ずかしいというかなんというか……、と照れくさそうに話していた。

 

「信念としては、人を撮るときはフィフティ・フィフティというか、同じ目線で、上からでも下からでもいやだと密かに思ってるんです。だから、写真は多くの人に見てもらいたいので展示をいろんなところでするんですけど、あんまり有名になりたくないっていう気持ちが一方ではあるんです。映画になったら巨匠とか言われちゃうでしょう? そうなると、ポートレートをやりにくくなるもので。ちょっと違ってくるなあって。風景でもやろうかなあ……」

 

ジム・ジャームッシュ監督は、初めてのカラー作品『ミステリートレイン』以外の作品でスチール写真集をつくらなかった理由について、鋤田さんが撮った写真以上のものができないからだと言っていた。無知で恐縮ながら、日本人が撮っていたのか、と驚いた。作中では、写真撮影のためだけにテイクを重ねていた背景などが紹介される。ほかにも、これを撮った人なのか!と、著名な作品の多さに驚く。

過去のエピソードを見ると、制作現場での体当たりな工夫などもあり、そのアイデアにハッとさせられる。彼自身、もっとすき間をつくらなければと反省した、過去の作品のこだわりようも必見だ。彼の「あまり有名になりたくない」という言葉は、良い写真を撮りたいという一心を表すひと言だろう。時代の寵児と呼ばれるようなひと癖もふた癖もある偉人たちが鋤田さんを信頼していたのは、この実直な姿勢が理由だったに違いない。

Licensed material used with permission by パラダイス・カフェ フィルムズ
Top Photo by ©2018 「SUKITA」パートナーズ 
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。