なかなか薬をくれない「ドイツの病院」が、大切なことに気づかせてくれた

日本には「女心と秋の空」という表現があるが、ひと昔前のドイツには「April und Weiberwill ändern sich schnell und viel(女心と4月の天気はコロコロ変わる)」という表現があったらしい。女性を指すWeibという単語が女性蔑視気味だということで、最近は使われていないようだ。

そんなコロコロ変わる4月の天気にやられてか、私は風邪をひいた。

日本から最低限の薬は持ってきていたが、冬の乾燥で何度か風邪をひき、もうストックもない。そんなわけで、ドイツ人の友人Aにいい薬はないかと尋ねてみると、返ってきたのは薬の名ではなかった。

「このハーブティー飲んで、よく寝てね」

たしかに私は紅茶好きだが、茶にそこまでの信頼はおいていない。とりあえず同じ文面を友人Bに送ったが、返ってきたのは温かいお見舞いの言葉とハーブティーの名だった。

何かおかしい。

ドイツは風邪を茶で治すらしい

Googleに聞いてみた結果、わかったことがある。どうやらドイツでは、風邪をハーブティーで治すのが一般的らしいのだ。

病院に行っても特効薬は出されず、会社や学校に提出するための診断書が出されるという。ちなみにドイツでは通常、証明書を提出した病欠には給与が支払われるし、それで有給日数が減ることもないらしい。

『The New York Times』では「After Surgery in Germany, I Wanted Vicodin, Not Herbal Tea(ドイツでの手術のあとに欲しかったのはバイコディンだった。ハーブティーじゃなくて)」というオピニオン記事を見つけた。バイコディンというのは、アメリカで使われる強めの鎮痛剤だ。

著者はドイツで子宮摘出手術を受けたという、アメリカ育ちの女性ライターだ。外科医が手術後に彼女に処方したのは、頭痛や生理痛があるときに飲むイブプロフェンだったという。アメリカ同様強めの鎮痛剤が出ると期待した彼女は、当然これに戸惑う。

違う外科医に相談してみても、麻酔専門医に相談してもバイコディンは出てこない。麻酔専門医には、そんなものはなくても大丈夫、と静かな声で諭されたという。

自分の体を信じろと穏やかに諭す彼の言葉で、わたしは泣きそうになった。思い出したのは病院の待合室にあったポスターだ。風邪をひいたらまずハーブティーを飲めと医者が薦めてくる、あのポスターだ。

「Firoozeh Dumas /『After Surgery in Germany, I Wanted Vicodin, Not Herbal Tea』/ The New York Times より引用」

そう彼女は書いている。

目の前に広がるハーブティーの山

そんな話の数々を読んだあとだったので、わざわざ医者に行くのはよそうと思った。幸い、症状は38.5度の熱からくるだるさと喉の痛みだけ(記事を漁れるくらいには元気なのだ)。ひとまず近場のドラッグストアに行き、ドイツ人がそこまで信頼をおくハーブティーとやらを試してみようと思った。

しかし、いざ棚を見てみるととにかく種類が多い。

「風邪用ティー」「セージティー」「喉の痛み用ティー」「乾いた咳が出るとき用ティー」「眠れない時用ティー」「お腹の調子が悪い時用ティー」云々。しかも、さまざまなメーカーが数種類出している。

まずは熱と痛みに効くという「Erkältungs Tee(風邪用ティー)」を購入し、飲んでみた。飲んで数時間寝てみたところで、相変わらず体はだるいし喉は痛い。

でも郷に入っては郷に従えということで、治るまでとことん茶を飲んでやろうと思った。飲み続けているうちに、気休め程度かもしれないが、心なしか体が楽になった気もしてくる。

なぜ私は薬を飲むのか

熱を帯びた頭で考えていたのは、そもそもなぜ我慢できる風邪のために薬を飲んでいたかだ。

いままで、私は風邪をひけば必ず薬を飲んでいた。それが普通だと思っていた。でもよく考えてみれば、ほっときゃ治る風邪だってある。寝てればひく症状だってある。(もちろん自己判断の過信はよくない。「風邪は万病の元」と言われるくらいだ)。

たぶん、私は単に風邪や痛みを治そうとしていたのではなく、症状を「手っ取り早く」治そうとするクセがついていたのだ。授業があるから。仕事があるから。周りに迷惑をかけるから。

「はやく効く」は必ずしも正解ではない

「そうか。ドイツには風邪で病欠がとれるシステムがあるから、ゆっくり風邪を治せるんだな。さすがドイツ」なんて考えをあとでドイツ人の友人Aに話したら、反論された。

たしかにシステムはある。でもときには重要な仕事もあるし、周りに迷惑をかけることもあるから、少しの風邪なら我慢して会社に行く人も多いと彼女は言った。事情は人や会社によるし、日本ほど病欠に厳しくないかもしれないが、その辺りは結局どの国も変わらないのではないか、と(医者も、必要とあらば薬を出してくれるという)。

ちなみに違うドイツ人には、風邪をうつさないよう会社に行かないのも大人の配慮と諭された。

たしかに、さっきの繋げ方は考えなしだったと反省した。そこに、友人Aはこう続けた。

「でも他の国で強い薬をばんばん出されるとちょっと怖くなる。薬は体に症状を無理やり押し込めるだけでしょ」

なるほど、そういう考え方もあるのか。そういえば、以前日本でかかりつけのお医者さんに強めの頭痛薬の飲み過ぎを指摘されたことがある。

「『はやく効く』を謳う薬は多いけど、安易に薬を飲んではいけないよ。逆に体に悪いから」と。体の不調を感じたらまず安静にして様子をみろという、その至極当たり前なアドバイスを守らなくなったのは、いつからだっただろう。

「安静にする」という治療法

話は戻るが、私の熱が下がったのは3日目のことだった。まだ喉が痛かったので、喉用のなかなか美味しいハーブティーをしばらく飲み続けていた。

件の『The New York Times』の女性ライターも、痛みと戦いながら、いろんなお茶を飲みながら、体の回復を待ったという。体のために何もしなかったのではない。「安静にする」という治療でしっかり回復したのだ、と彼女は書いていた。

薬を飲むのが悪いことだと言いたいわけでも、ドイツや日本の働き方についてどうこう言いたいわけでもない。次の日に大事な仕事があれば、私はきっと医者に薬をもらいに行くだろう。加えて私は医療関係者ではないし、前述したように自己判断の過信も危険だ。

私はただ、「風邪をハーブティーで治す」というドイツの治療スタイルから「安静にして様子をみる」というごく普通の病気の治し方を思い出しただけなのである。

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