小山のサバンナ・渡良瀬遊水地が、炎に包まれた日

私は見ました。赤く燃え盛る、キャンプファイヤーよりも大きな炎を。

そして目の前に広がる、まるでサバンナのような場所が、その炎でどんどん焼かれていく様を。

 

……あ、火事の話じゃないですよ。

栃木県小山市の南部にある、生き物の宝庫、「渡良瀬遊水地」のお話です。

ディズニーランドより広くて
サファリパークより生き物の宝庫

渡良瀬遊水地というのは、栃木、群馬、茨城、埼玉の4県4市2町にまたがる日本最大の遊水地なのですが、その面積は、みんな大好き東京ディズニーランド、およそ65個分。東京ドームでいうなら700個分。

ここには、なんと現在、絶滅危惧種183種を含む植物が約1000種、鳥類が257種、魚類が42種、昆虫が約1700種と、本当に多くの貴重な動植物が生息・生育しているのです。きっとみんなが好きな、なんとか動物園とか、なんとかサファリパークよりも生き物がいっぱいですよー!

で、この渡良瀬遊水地は、2012年に世界のラムサール条約湿地に登録。ラムサール条約の正式名称は、

 

「特に水鳥の生息域として国際的に重要な湿地に関する条約」

 

といって、噛み砕くと、

 

「たくさんの渡り鳥が利用する湖や沼など、国際的に重要な湿地や、そこに暮らすさまざまな生き物を守るための条約」

 

といった感じ。

渡良瀬遊水地、なんかすごい所なのかも……くらいには感じてきたでしょうか。簡単に言うと、ここは「貴重な生き物の宝庫」ということ。

でも一年に一度だけ、その場所が「巨大な炎」に包まれる日があるのです……。

©2018 Etsu Moriyama

それは、3月のことでした

©2018 Etsu Moriyama

渡良瀬遊水地は、その植生の半分がヨシ原。近隣の農家が農閑期である冬の収入源として、かつてはヨシズ作りを盛んに行ってきたという歴史があります。

最近では輸入品やビニール製のヨシズも増え、小山のヨシズ農家もわずか一軒を残すのみとなりましたが、かやぶき屋根の原料としても出荷される渡良瀬遊水地のヨシは、堅くて質がいいと評判が高く、全国から業者が買い求めにきているんだとか。

©2018 Etsu Moriyama

そしてこの良質なヨシを育てるため、年に一度、枯れたヨシを一斉に焼き払う行事が存在します。これが、「ヨシ焼き」。そう、私が見た炎は、この時のもの。

枯れたヨシを焼くことによって害虫も駆除し、新しいヨシを育ちやすくするのですが、同時に、新しいヨシが育つ前に成長する春植物の発芽を促進するという役割も。

 

ヨシ焼きは、渡良瀬遊水地の豊かな自然を守るための、重要な炎に包まれる一日なのです。

©2018 Etsu Moriyama

でも、実は今年(2018年)のヨシ焼きは、前日までかなりの雨が降り続いており、ヨシがかなり湿った状態での決行となりました。土手の上から様子を見守る地元のおじちゃんたちは「今年は全然燃えねーな」「いつもはこんなもんじゃないよ。もっとすごいんだから」と口々に。

それでも、ヨシ焼きを初めて見る私たちにとっては、その光景にはかなりの迫力があり、どこか幻想的でもありました。ただ、例年はもっともっと炎が大きく、黒煙が立ち込めて「周辺の空が黒くなる」んだそうですよ。

©2018 Etsu Moriyama
©2018 Etsu Moriyama
©2018 Etsu Moriyama
©2018 Etsu Moriyama

で、緑は復活します

©2018 Etsu Moriyama

一日かけて焼け野原になったヨシ原。5月に改めて訪れてみると、2ヶ月前とは全く違う顔を見せてくれました。

©2018 Etsu Moriyama

ヨシはすでに2メートルほどに成長していましたが、夏には3メートル近くになるとか。草の間をかき分けて進んでいくと、迷路に迷い込んだような気分になっていきます。「夏休み」とか、「少年時代」とか、「青春」とか……。そんな青くてノスタルジックな単語が頭にたくさん浮かびました。

©2018 Etsu Moriyama

そして、「デコイ」登場。

これは、コウノトリを呼び寄せるための、模型の鳥さんです。渡良瀬遊水地ではたくさんの鳥を観察することができますが、中でもコウノトリやトキの野生復帰の実現のために、自然に放鳥されたコウノトリやトキが飛来し、彼らが年中生育できるような環境整備を推進しているんだそうです。

そしてここ数年は、千葉県野田市で放鳥されたコウノトリが飛来していて、名前を「ひかる」くんといいます。

 

「お嫁さんでも連れてきてくれればいいんだけどなぁ〜」

 

といった地元の大いなる期待の中、毎年1羽で帰ってくるというひかるくん。今年(2018年)の5月頃には、2羽でいるのが目撃されたのですが、どうやら連れは男の子だったみたい。婚活がんばろう、ひかるくん。

生き物探しは
ポケモンGOのようなもの?

©2018 Etsu Moriyama
道の途中には、所々にこういった植物の説明看板がありました

ちなみに、小山市や渡良瀬遊水地アクリメーション振興財団の事務局が出している植物図鑑や野鳥図鑑には、渡良瀬遊水地で見ることができる生き物が写真付きで掲載されているので、それをゲットして、図鑑片手に散策するのも楽しいと思います。オススメなのは、行く前に図鑑をバーっと見て会いたい鳥や見たい植物を決めておくこと。そうすると、現地で宝探し気分を味わえたりして楽しいと思います。

私が思うに、それは、ほぼほぼポケモンGOみたいなものかと……(違うか?)。

植物図鑑や野鳥図鑑は、渡良瀬遊水地湿地資料館や、体験活動センターわたらせなどで入手することができます。

 

草笛作って遊んだりもしましたよ。10年ぶりくらいに。ぷー。

©2018 Etsu Moriyama

たまにこういうことすると猛烈に楽しいです。

草笛って、笹、カラスノエンドウ、イタドリ、タンポポの茎などなど、いろんな植物で作ることができるって、みんな知っていますか? ちなみに私が作ったのはイネ科植物の草笛です。久々のわりには、なかなか良い音を響かせたのではないかと。ぷー。失礼しました。

ある歴史のもとにここがある

©2018 Etsu Moriyama

渡良瀬遊水地はとにかく広いので、まだまだいろんなことをして遊べます。

カヌーやボート、ヨット、熱気球やスカイダイビング、レンタサイクルのあるので、サイクリングも楽しめるし、一部では釣りができる池もあったり。

 

でも、渡良瀬遊水地の本来の役割は、「平地ダム」であること。周囲を流れる渡良瀬川、思川、巴波川が洪水になった時に、増えた水を一旦渡遊水地内の調節池に引き受けて、利根川の水量に影響を与えないようにしています。それと合わせて、「谷中湖」という貯水池に水を溜めておき、渇水に備える役割も。渡良瀬遊水地は、首都圏を守る存在なのです。

©2018 Etsu Moriyama

谷中湖の周辺には、かつて「谷中村」という村が存在していました。足尾銅山鉱毒事件は有名ですが、その際に川を伝って流出した鉱毒を、首都圏に拡散させるのを防ぐため、明治政府は谷中村周辺を、人々の反対を押し切り、遊水地に。つまりここは、周辺地域の人々の大きな犠牲のもとにできた場所。

だから、その歴史を決して忘れることなく、ずっと大切に残していかなければならない場所。

 

のちにここは、みんなに愛される「生きた自然の博物館」となりました。

こんなに広いとワニとかもいそうだよね、なんて言う地元の人もいたけど、私は探せばワニよりもっとすごいのがいるんじゃないかって、想像してます。ネス湖のネッシーみたいなやつ(小山だから……オッシー!?)。

ちなみに帰り道では、タヌキにも遭遇したんですよ。遠巻きにだけど、ちょっとだけカメラ目線いただきました。めんこいタヌキよ、近々、また会おうぞ!

©2018 Etsu Moriyama
写真、左下にご注目!

渡良瀬遊水地に関する情報はこちらから

わたらせ自然ミュージアム
https://www.watarase-museum.net/

※今回ヨシ焼きの見学、及び草笛を作ったのは、小山市の「生井桜づつみ」周辺です(駐車場あり)。

Top image: © 2018 Etsu Moriyama
取材協力:小山市
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。