猫と金魚と鳥好きならば。栃木・小山の居酒屋、いつもの処で会いましょう

「他の店がガラガラでも、あそこはいつもいっぱい。僕が幼稚園の頃からやっていて、それから30年くらい経つけど、メニューも、お父さんお母さんも変わらない。なんで栄えてるのかってのは、行けばわかるよ」


先日取材で伺った小林酒造の小林正樹専務がそんなことを言っていました。栃木県小山市にある居酒屋「いつもの処」は、専務が大事なお客さんを接待したり、最近受け入れ始めた学生の研修生にごはんを食べさせに連れて行ったりもする、ちょっと特別な場所なんだそうです。

小山駅西口の大通りから一本脇。お店は、派手に主張することもなく、そっとそこにあります。

©2018 Etsu Moriyama

鳥刺しの、納豆巻き?

©2018 Etsu Moriyama
鳥刺し

焼き鳥、鳥わさ、鳥刺しなどなど、いつもの処は鳥料理がメインの居酒屋さん。まず最初に紹介したいのが、この鳥刺し。ここの鳥刺しはちょっと個性的で、一つのお皿に、3種の鳥刺し料理が盛り合わさって出てきます。その内容は、黄味和え、大葉挟み、そして……。

 

「鳥刺しを注文してくれた人には“納豆は大丈夫ですか?”って聞くようにしてるんです。他のお店と違って、うちは納豆巻きが入ってるから」

 

そう、納豆巻き! お母さんの大久保正江さんが言うように、 鳥刺しで、からし和えの納豆を巻いたものが入っているのです。納豆と鳥刺しが合うのかって? 合うんだな〜これが。無論、お酒もすすんじゃうんだな〜。

©2018 Etsu Moriyama
茶碗蒸し

41年前、お店が始まった時からの看板メニューは、丼ぶりサイズの茶碗蒸し。スプーンじゃなくてレンゲですくっていただきます。優しいお出汁に香るゆず。ホッとする味が、喉を伝って胃袋へ。おなかも心もほっこりします。

 

「料理があったかいよね、マスター。作ってる人のあったかさが出るんだろうね」


なんてお隣に座った常連のお客さんが言っていたのですが、お父さんの忠男さんのお返事は、

 

「こういうのはあったかいもんじゃないとね! あったかいうちに食べるっていう方がやっぱり良いですよね」

 

でした。……ん?

 

「そのあったかさじゃねぇよマスター、ハハッ!」

 

と、常連さん。ちょっと天然なお父さんの発言に、場が和みました(笑)。加えて常連さんは、真心も味の一つなんだよな、そういうのが癒しや、居心地の良さに繋がるんだよ、とも言っていて。こういった掛け合いも含めて、もれなく私も、尻から根っこが生えそうなほどの居心地の良さを感じていました。

看板商品に合わせたのは
アノお酒

©2018 Etsu Moriyama

さて、ご紹介が遅くなりましたが、創業以来のもう一つの看板メニューは、なんといっても焼き鳥です。以前、出張で山梨から来ていたお客さんは、全国の出張先で必ず焼き鳥屋さんに入る人なんだそうで、「ここはイイ! また来週来ます!」と言って帰ったとか。

お店が始まった41年前から、大半の焼き鳥の値段がずっと変わらず100円、というのも、なんだかイイよね〜。

©2018 Etsu Moriyama
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そして、この焼き鳥に合わせたのが、鳳凰美田・熟成秘蔵梅酒。香りは素晴らしく、それでいて甘さも上品なので、料理の邪魔をしません。そのあとに飲んだゆず酒もジューシーで本当に飲みやすいのですが、果実酒に珍しくアルコール度数が12〜13%と結構お高め。調子に乗って飲みすぎると、帰り道は右へ左へフラリ、フラリ。かなりイイ感じの酔っぱらいに仕上がります。

お店には、他にも小林酒造の日本酒が揃っていますが、実は小林酒造といつもの処は古くから親しいお付き合いがあるとかで、お店の外で紫色に光る味のある看板は、小林酒造から贈られたものなんだそうですよ。

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鳳凰美田 熟成秘蔵梅酒
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お通しが3種類な理由

©2018 Etsu Moriyama
今日のお通し

そうそう、お通しについて話すのを忘れていました。ここのお通しは3種類の盛り合わせ。日替わりでいろんなものを出しているそうで、これだけ食って帰ってもいいくらいだよ! という常連さんもいるほど満足度高め。今回はたけのこ煮、ウインナー、イモフライ。以前来た時は、肉じゃがに玉子焼き、ローストビーフだったかな?

 

「毎日来ても楽しんでもらえるように、なるだけ違うものを出したいなと思って」

 

この日、裏メニューのナスとピーマンと豚肉の味噌炒めも食べさせてもらったんですが、お酒が飲めなくて、毎日ご飯だけ食べて帰るお客さんのために作ったんだそうです。

 

「せっかくここに食べに来てくれるんだから、バランスを考えて出してあげたいなと思ってね。野菜とか数品つけることもあれば、オムライスなんかを作ることもありますよ」

 

この感じ。まるで本当のお母さんのようでしょ?

とにかく面倒見が良いのです

©2018 Etsu Moriyama
高貴なお名前のお二人

そして生き物好きならば、店内でメニュー以外にも見逃せないポイントがチラホラ。まず、大きめの金魚が入ったものと小さめの金魚が入った二つの水槽。自称お魚に詳しい同行カメラマンが、その水槽環境をまじまじと見てボソッと一言いいました。

 

「これは、金魚育てるのかなり上手だぞ……」

 

お父さんが好きで育てていて、増えた金魚をお客さんにおすそ分けしたこともあるんだとか。お花も綺麗に飾ってあるのですが、これは師範の免許を持っているというお母さんのお仕事。外の植物も、上手に育てています。

猫好きならば絶対にスルーできないのは、カウンター脇に飾ってある黒猫さんのダブル香箱(前足を隠すお座りスタイル)写真。前に飼っていた猫だそうで、右が母猫のクレオ・パトラさん、左がその子どものクララさん。

 

「もともと迷い猫だったんだけど、とてもお利口さんで、お肉とかお魚とか一切食べなかったね。お客さんにもかわいがってもらって。でも混んでる時は階段のとこに隠れてたりして、お父さんがいいよって言うとそっと出てきたりしてね」

 

やっぱり命あるものは、みんな一緒だよね。

そんなふうに言うお二人。面倒見の良さは、お客さんに限らずなのです。

©2018 Etsu Moriyama

昔から、お客さんに
助けられてきたから

©2018 Etsu Moriyama
ささみの黄味和え

「昔、まだ娘たちが小さい頃は、おんぶしながらお店やってたりもしたんだけど、かわいそうだからっておろしていいよって言ってもらって、お客さんに遊んでもらったりしたよね。そういうことは、ずっと忘れませんね」

 

とお母さんが言うように、他にもお客さんには、これまでいろんなものをもらってきたのだそうです。そういえばこの日も、紙に自分で注文を書いて渡している常連さんを見かけました。

 

「二人でやってるから、忙しくなるとアレもコレもできなくなっちゃうでしょ。だからお客さんが自分で注文を書いて渡してくれたりするんですよ」

 

とお母さん。お店で使うでしょと言って、メモ用紙をどっさり持って来てくれたお客さんもいるとか。みんな、二人を助けてくれるといいます。でもそれはきっと、お父さんの誠実な仕事や、お母さんの真心への、ちょっとした恩返し。

帰りがけには、チョコ饅頭というお菓子をもらいました。それを食べながら思い出したのは、最後にお母さんが言ったこの言葉。

 

「頑張っていれば、ごほうびはいつか必ずありますから」

 

そして二人は、今が特にごほうびだ、そう言って笑っていました。

どうしてここがいつも満席なのか、小林酒造の専務が「行けばわかる」と言っていた意味、私にはもうわかりましたよ。

©2018 Etsu Moriyama
©2018 Etsu Moriyama
常連さん曰く、お二人の若々しさの秘訣は「やっぱり鳥のコラーゲンだな!」
©2018 Etsu Moriyama
お父さん手作りの看板です。多才!

鳥料理 いつもの処
住所:栃木県小山市城山町3丁目6-37
TEL:0285-22-2506
営業時間:17:30頃〜23:00頃(日によって、季節によって多少時間の変更があります)
定休日:日曜日

Top image: © Etsu Moriyama
取材協力:小山市
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。