平成のテレビっ子が語る!「なんかもう、すべてがラブストーリーであれって感じ」

 

最近、「テレビ」みてる?

ふるわない視聴率、見なくなって久しい新聞のラテ欄、気づけば減った恋愛ドラマ、売れないCD、遠い記憶のミリオンヒット、相次ぐタレントの引退、長寿番組の最終回、大人気アイドルの解散。

そして迎える、平成の終わり。

ポップカルチャー最大の源である「テレビ」がもたらした時代の変遷と、時代がもたらした「テレビ」の変遷とは。元号が変わりかけている今、自他ともに認めるテレビっ子、綿貫大介氏にきいてみた!

(※ 固有名詞、テレビ番組作品名、いっぱい出てくるから気をつけて!)

綿貫大介(わたぬき だいすけ)

ファッション誌編集者を経て、現在も編集・文筆を生業にする熱狂的テレビっ子。2016年に編集長としてインディペンデントカルチャーマガジン『EMOTIONAL LOVE』((http://emotionallove.strikingly.com/ )を創刊。ほか著書に『もう一度、春の交差点で出会う』(2018)など。個人的歴代No.1ドラマは『ロングバケーション』。 https://watanuki002.stores.jp/


Twitter:@watanukinow / Instagram:@watanukinow

「テレビ=東京」だったんです

 

——テレビっ子に対して愚問ですが一応。テレビ、昔からめちゃくちゃ観ていたんですか?

 

めちゃくちゃ観てました(笑)。山梨県出身で田舎者なので、昔からとにかく東京にすごい憧れがあって。情報源といえば雑誌かテレビしかなかったし、自分の中では「テレビ=東京」だったんです。

 

——東京への憧れが、テレビを観るモチベーションだった?

 

ドラマを真剣に観た一番古い記憶が『あすなろ白書』(1993年)で。小3とかだったけど、初めて世の中のOLと同じ動きをしたというか(笑)。テレビにかじりつきました。恋愛のことなんてわかっていないけど、ドラマの舞台が東京で、そこはキラキラしていて、今思えばそこへの憧れが大きかったと思う。東京に行きたくてしかたなかった。で、そこからドラマ自体にハマっていき、「ドラマこじれ」を引き起こします。

 

——というと?(笑)。

 

僕、もう完全に野島伸司作品育ちで。ドラマに対して、世間的には今、めちゃめちゃ「共感時代」なんですよ。あくまでもその物語や描写に共感性を求めるという。でも、僕はドラマにカタルシスを求めてしまうんですよね。抑圧された感情を発散させたい、というか。なかでも『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』(1994年)は、本当に取り憑かれたように観ていて(笑)。センセーショナルな内容に対して、深い意味を求めたり考えたりしていて。完全にこじれていましたね。

 

——出演者で、特定の誰かが好きだったとかそういうのはあるんですか?

 

いえ、当時からタレントありきでドラマを観ていなくて。90年代は「脚本家時代」というか、とくにかく脚本家が力を持っていて、野島伸司さん、野沢尚さん、北川悦吏子さんとか、脚本家ありきでドラマがで動いていたと思うんです。それがだんだん「この人が主演だから観たい」っていう演者中心のドラマ色が強くなっていった気がします。

 

——なるほど。

 

でもたぶん、最近また脚本家時代に戻ってきていると思っているんですよ。これについては、またあとでちょっとふれていきたいと思います。

 

ここが、
平成のカルチャー大爆発期だと思います

【テレビっ子アイテム】カルチャー自由研究:年代タブを作って、年代と世の中の動き、代表ドラマ、当時のテレビ、カルチャー、音楽ヒット、流行語、ベストセラー、映画、視聴率ランキングをまとめている。


——その表、なんですか?

 

今、ちょうど、自由研究をしているんです。90年代、00年代、10年代にわけて、その時放送されていた人気ドラマをバーっと時系列に並べて、当時のできごとと、ヒットした音楽や商品やカルチャーと一緒にシートにまとめているんです。

 

——平成のカルチャーが詰まってる。すごい情報量……。

 

まだインプット用なので、ちゃんと固まっていないんですけど、資料としてもっと立体的にしていきたいんですよね。(96年〜97年の表を指差して)あ、この辺、超熱いと思います。ドラマで言うと、『ロングバケーション』、『ビーチボーイズ』、『ラブジェネレーション』とか。ことごとくヒットしていますね。バラエティも『SMAP×SMAP』、『うたばん』、『めちゃ×2イケてるッ!』、『学校へ行こう!』とか始まって。

 

——あ、CDの売上枚数まで入力されてる。

 

はい、ドラマ主題歌との絡みも出てきたりするので入れています。「テレビからヒットが生まれる」っていうことを証明しないといけないので。

 

——96年からは携帯電話の文化の変動も激しいですね。

 

はい。96年に広末涼子がポケベルのCMで一躍人気になった頃、携帯電話・PHSはというと、やっと加入台数2000万台突破。99年にはiモードサービスが始まり、携帯でネットが使えるようになります。加入台数が増え、着メロが単音から3和音になって。世間でいうとミッチーサッチー騒動があって(笑)、AIBOがソニーから出て。個人的には、この辺りが、平成のカルチャー大爆発期だと思います。

 

——90年代後半ですね。

 

雑誌の売り上げピークが97年、CD売り上げも98年にピークを迎えます。98年はSMAPの『夜空ノムコウ』、GLAYの『誘惑』とか。この年って、B'zとかサザンとか名だたるアーティストがベストアルバムを出したので、めちゃめちゃアルバムも売れて。なので、ここが日本で一番、CDが売れた年。……で、ここからもうあとはいろいろ下がっていきます。

 

—— え!でも携帯とかが出始めたのがここで、ネットも開通して、そこから下がってしまうのはなんで……?

 

あれです、パソコンです(笑)。97年に小室ファミリーが『YOU ARE THE ONE』っていう、チャリティーソングの売り上げで全国の学校にネット環境を提供するというプロジェクトをしていて。新しい時代は、この辺からもう始まっていたんです。

日常的にパソコンが使われ出し、それによってコミュニケーションツールが増え、個人が見るものも増えた。直接的な原因はここかなと。

今はスマホでさらにユーザーの可処分時間の奪い合いが加速しているけど、この頃のパソコンの「未来感」はすごくて。誰かとつながるすごさに、みんな夢中でしたよ。

ドラマで、ベタなことが起こったら
もう、ありがとうございます(合掌)
って感じ


——00年辺りを境に、恋愛
ドラマにも携帯電話というツールが入ってきて、たとえば男女のすれ違いもなくなって面白くなくなった、みたいなことって言われてると思うんですけど。

 

それはあるんですけど、個人的にはテレビやドラマに対して、べつにそんなリアル重視でなくていいって思うんです。じゃあ携帯を使わない関係性を描けば?っていうか、やり方はいろいろあるわけで、製作陣にはぜひ、あらゆる方法ですれ違う恋愛ドラマを作ってほしいです(笑)。……あと、恋愛ドラマの人気が落ちたのは、単純にその価値が下がったっていうのもあります。

 

——なぜ下がってしまったのでしょう?

 

よく言われるのはやっぱり、恋愛コスパ問題。お金をかけて恋愛するのが、90年代だと思うんですけど……今は恋愛にもコスパが求められていますよね?

 

——え、どういうことですか?

 

昔は、好きな子にご飯を奢ったり、迎えに行ったり、とにかく付き合うために時間と労力をかけて、すごい努力をする人が多かったんですよね。でも今は、べつに付き合わなくても、たとえばエロ動画がタダでネットで見られたり、他にも趣味になり得る選択肢がたくさん増えて。恋人がいなくても問題ない、っていう人が多くなってきた。いろんな人の興味や投資が、恋愛に向きづらくなっているっていうのもあると思います。

 

——男女ともに「恋愛がすべてじゃない」的な空気感はありますよね。

 

なので、恋愛ドラマをやっても、興味を持たれないんですよね。まず共感がされにくい。最近のドラマが、恋愛にフォーカスされていなかったり、仕事モノ中心だったりっていうのはそういうことだと思います。ただ……個人的にはめちゃめちゃ王道の月9とか大好きなんですよ……。もはやこれは伝統芸能として、もっと観たいんですよね。

 

——王道の月9っていうと?

 

ベタですけど、最終回で好きな人を追いかけて空港まで走って行っちゃうのとか、そういうのです(笑)。けど今って、そういうのは現実感がないとか言われてしまう……いや、なくていいよ!と思っています。べつにこちらは、完全に創作として楽しんでいますしっていう。ファンタジーでいいよ!非現実的でありえないけど、あってほしい話。ドラマはそれでいんです!水戸黄門的感覚で楽しませてくださいよっていうのがあるので。

 

——伝統芸能ってそういうことですね、納得です(笑)。

 

これは月9じゃないですけど、最近は『高嶺の花』(2018年)がめちゃめちゃ面白かったです。テレビっ子会のみんなでハマってました(笑)。

 

——テレビっ子会!?

 

「お茶の間文化を保つ」っていう目的で、友達と家に集まってテレビを観るっていう会です。あ、それでいうと、テレビ巨大化問題っていうのもあって……。

 

——え、テレビ巨大化問題……また気になるワードですね。

 

お茶の間文化が形成された頃って、テレビが小さいブラウン管テレビだったから、必然的にギュッと集まるしかなかったんですよね。近い距離でコミュニケーションしていた。今はテレビが(物理的な意味で)大きくなっちゃったから、同じ空間にいても人の間に距離ができるなと感じています。

それでも、みんなで同じ番組を観るのはやっぱり楽しいですし、みんなをもっとお茶の間に集めたいんですよね。

 

——ちなみに、テレビっ子会は何人でやってるんですか?

 

レギュラーメンバーは3人です(笑)。おやつを食べながらテレビを観て、その番組に対する副音声をそれぞれが担当するっていう。要はチャチャを入れるっていうことなんですけど(笑)、それが重要なんです。あれです、テラスハウスの山里さんとか徳井さんみたいな感覚です。その都度テレビに突っ込んだり、感謝したり。

 

——感謝?

 

ドラマとかストーリーを予想しながら観るんですけど、想像通りのベタなことが起こったら、もう「ありがとうございます!(合掌)」って感じで感謝する(笑)。よしもと新喜劇の観客みたいに、そのネタ待ってました!っていう(笑)。

水曜日にドラマを観るのは、やっぱり
元気になりたいからなんだと思う

 

——テレビっ子どうしで、テレビカルチャーについて議論したりは?

 

結構しますよ。それでいうと、例のテレビっ子会は、比較的水曜日に集まることが多かったんですよ。で、日本テレビの水曜日10時枠ってじつは今、時代を語るうえで月9に代わるくらい重要になってきてるという話になって。

 

——え、どういうことですか?

 

時代を映すのがとにかく早くて上手いんですよ。日テレの水10枠についてちょっと調べたんですけど(おもむろにメモを取り出す)……えっとまず、2005年以降、この枠で放送されたドラマは55作品ありまして、そのうち男性主演の作品が6回だけなんです。

 

——少な!10分の1近く。

 

すごくないですか?2005年からほとんど、水曜日の10時は女性が回してるんですよ。作品も、『東京タラレバ娘』(2017年)、『花咲舞が黙ってない』(2014年)、『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(2016年)、『今日は会社休みます』(2014年)、『家政婦のミタ』(2011年)、『anego』(2005年)、『働きマン』(2007年)とか、主人公の女性像もさまざまで。

たぶん、それって時代の象徴なんだろうなって。水曜日にドラマを観るのって、やっぱり元気になりたいからだと思うんですよね。ちょうど週の真ん中の夜、平日の折り返し。その枠で日本を回すのってめちゃめちゃ重要だと思いません?

 

——重要です。元気になりたいです。

 

その主演を今旬の女優がやるっていうのが、また時代性だなと。今までは、主演俳優といえばほとんど男性だったと思うんです。たぶん、ドラマを観る人に女性が多くて、この俳優さんの恋愛模様が観たいとか、そういうことを重視していたと思うんですけど。女性の台頭が目ざましい時代になり、女性が主人公に共感できる作品が増えたというところに、時代の変化が見えるなと思いました。

90年代激アツ脚本家の
新作オンパレードでしあわせ!

 

——ドラマがまた、たくさん観られる時代ってくるんでしょうか?

 

今、すでに相当観られてきていると思いますよ。この夏の連ドラ、初回視聴率2ケタ超えがめちゃめちゃ多くてビックリしました。今年『美術手帖』(美術出版社刊)で、「テレビドラマをつくる」という特集が組まれたんですけど、ちゃんとドラマっていうコンテンツの見直しがされ出したんじゃないかなと思っていて。

 

——視聴率以外でも、それを感じる現象ってあったりします?

 

再び脚本家の名前が先に立つくらい目立つようになってきたと思います。『美術手帖』の誌面の中にも、『逃げるは恥だが役に立つ』や『アンナチュラル』の野木亜紀子さん、『リーガルハイ』や『コンフィデンスマンJP』の古沢良太さんの脚本家対談がありました。

この夏は朝ドラ『半分、青い』の脚本が北川悦吏子さん、『高嶺の花』が野島伸司さん、『この世界の片隅に』は、『ビーチボーイズ』や『若者のすべて』の脚本家の岡田惠和さんだったりして。90年代激アツ脚本家の新作オンパレードでしあわせでした!

 

——最初に言っていた「脚本家時代」の再来ですね。

 

あと、盛り返してきたと思われる理由として、ドラマに専門性がどんどん出てきてるっていうこと。校閲者とか法医解剖医とか助産師とか、あまり知られていない特殊な職業にスポットを当てて、知識をプラスして放送するドラマが増えたなっていう気はします。知らないことを知ることができるっていうのと、共感。このふたつは大きいんじゃないかなと。

 

——じゃあドラマ業界、けっこう光がさしてる?

 

テレビ局は、一回、ちょっと数字を諦めたんじゃないかな?って思ったんです。数字にずっと縛られていたから、効率よく数字をとれる番組をひたすら作ってる時期があったと思うんですよね。でもちょっとそれが減ってきて、最近はニッチな作品が増えてきている。「数字をとる」っていう意識自体を変えたんじゃないか?って思ったんですよ。もう視聴率だけでは測れないし。

 

——爆発的に観られるっていうより、観る人がちゃんと最後まで観てくれるような?

 

そうそう。『おっさんずラブ』(2018年)みたいにSNSの反響で数値を見るとか、録画の視聴率で見るとか、いろんな判断軸があるからね。みんなに観てほしいっていう作り方じゃなくて、ここをとっていこう、ここを狙おうって層ごとに確実に届けるっていう作り方に変えて。案の定そこの層でめっちゃバズる、みたいな(笑)。って思ってます。


——じゃあ、ドラマのカテゴリーもどんどんバリエーションが出てきそうですね。

 

あ!それでいうと、『カルテット』(2017年)や『逃げ恥』を放送していたTBSの火曜日10時枠もすごいんですよ。2014年にできた枠なので、まだそこまで歴史はないんですけど、めちゃくちゃ時代を見ている枠だと思います。ここも18作連続主演が女性で、この前の、綾瀬はるか主演の『義母と娘のブルース』(2018年)もそうですけど、例にもれずヒットさせているので、そういう感じはどんどん増えていくと思います。

 

——たしかに。しかも恋愛色が強いわけでもないですしね。

 

時代を突き進んでいく!みたいな。女性がガシガシ働いていたり、自分の人生を生きている感じとかね。マイノリティを、センセーショナルにではなく普通に描いたり、フェミニズム思想みたいなものも、これからどんどんドラマにも反映されてくるかもしれません。

みんなの人生、ラブストーリーであれ


あ、そうだ。ちょっと話変わるんですけど、『東京ラブストーリー』(1991年)の話をしてもいいですか?

 

——お願いします。

 

キャッチコピーは、“東京では、だれもがラブストーリーの主役になれる” っていうことで、当時は一応、純愛ドラマとして作られた作品なんですけど。ヒロインの「赤名リカ」(演:鈴木保奈美)っていう役は、今の時代の女性に近いかもって最近思っていて。リカって、めちゃめちゃ仕事ができるんですよ、主人公のカンチ(演:織田裕二)よりも。

 

——仕事面でも恋愛面でも、カンチを振り回しまくりますよね。

 

そう、めっちゃ振り回す。また出てきて恐縮なんですけど、これってまさに『高嶺の花』で石原さとみが演じる主人公と同じなんですよ!時代を映す水曜10時枠の主人公と一緒!

 

——なるほど。27年の時を経て、今。

 

やっと時代がきた!と。で、当時のドラマにおける女性の見せ方って、もちろん例外もあるんですけど、「ラブストーリー=結婚がゴールであること」が多いじゃないですか?でもリカは、自分でカンチとの別れを決める、という強さがあって。

 

——たしかに。あれカッコいいですよね。ラブストーリーだけど、女性の強さみたいなものを象徴しているドラマですよね。

 

うん、ほんとにそう思います。でも、もうほんとに今は恋愛だけのドラマは難しいし、問題もいろいろあるから学園ドラマも作りづらいし、たぶん、変に◯◯ドラマというジャンルは作れなくなっていくんだろうなと思います。

 

——こういうドラマが観たい、とかそういうのはないんですか?

 

なんかもう、すべてがラブストーリーであれって感じ。それは必ずしも、定番の恋愛ドラマじゃなくてもいいんですよ。なんのラブでもいい。家族のことでも友達のことでも、お仕事のことでもいい。ただなんか、みんなの人生、ラブストーリーであれって思うんです。「人生は愛なんだ」ということ、それを伝えるドラマであってくれー!って、僕はテレビに対してずっと思ってるんです。

 

Top image: © Atsuko Katsumata

 

《こっちも読んでね!》

テレビっ子・綿貫大介インタビュー

『世紀末が終わって、浜崎あゆみが
“あの曲”を歌った瞬間はヤバかった』

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。