「ブラウニー」だけなぜ甘い? ラルフローレンのカフェメニュー
1990年代。僕らのブレザーの下は決まってポロ ラルフローレンのオックスフォードシャツだった。男子生徒の大半がごく当たり前にそうだったものだから、こうなるともう胸元のポニーはさしずめ校章といったところ。
綿よりポリエステル多めで透け感がある「いかにもYシャツです」な生地とは異なり、厚地で織り目がはっきりした風合いや、ノータイのほうが様になる(と当時は思ってた)ボタンダウンカラー。オックスフォードという響きそのものにも、何か特別なものを感じていたんだと思う。
そして2018年秋。表参道旗艦店のリニューアルに合わせてオープンした「ラルフズ コーヒー」で、何十年かぶりにあのシャツに袖を通していたときの、ちょっとした高揚感を思い出したーー。
ブラウニーだけが“ちゃんと”甘い
「ラルフズ コーヒー」ではサンドイッチなどの軽食のほか、ケーキも提供されている。キャロットケーキやチーズケーキが思ったほどに甘くないのは、健康志向の世相を反映してのものか。ところが、ブラウニー(テイクアウトも可)に限っては“ちゃんと”甘いのだ。
ごろっと存在感のあるチョコレートとウォールナッツ。いたってシンプルなブラウニーでありながら表面の焼き加減といい、口に運べばほろほろ崩れる食感といい。深煎りのオリジナルブレンドだけでなく、カプチーノやフラットホワイトとの相性も申し分なし。
根っからの甘党でない僕の場合、ひと口かじってはマグに手を伸ばしてしまうが、そんなルーティンすらリズムよく、心地がいい。食べ応え十分なサイズなのに、たちまちのうちに平らげてしまうほど美味しい。美味しいんだけど……なぜにブラウニーだけこうも甘いのだろう?
甘さの奥にある普遍的なアメリカ
居ても立ってもいられず、店員に突撃。
聞けば、そのレシピはラルフ・ローレンの妻リッキーの母直伝らしい。つまりこいつはラルフ一家の日常のなかにある飾りっ気のない定番中の定番。他のメニューとは趣が異なるのはそれゆえ。アンドリュー、デヴィッド、ディランの三兄弟も、きっとこの味で育ってきたに違いない。
誤解を恐れずに言えば、素朴な家庭の味。そんなブラウニーにトラッドを意識してしまうのは、アメリカンカルチャーのアイコン的存在のようなブランドイメージとどこかで重なるからだ。
学生だったあの当時、盲目的に流行りに乗っかっていたオックスフォードシャツ。折り目正しい佇まいや、それをわかっていながら着崩すゆとり、そんなカッコよさが今ならば理解できる。
もったりとした甘さの奥にある普遍的なアメリカ。ラルフローレンのカフェメニューで真っ先にトライすべきは、このブラウニーだ。