発酵カルチャーに、スーパーフード寒天。ディープすぎる長野の「高原都市」へ

八ヶ岳が、人を呼び寄せている。

標高2000mを超える神々しい山々に恵まれ、冬はウィンタースポーツ、夏は避暑地と、移住やインバウンドの話は枚挙にいとまが無い。なかでも、八ヶ岳西側に広がる高原都市、長野県「ちの(茅野市)」は、国宝「縄文のビーナス」や「仮面の女神」などの縄文時代の土偶の出土に見られるように、太古から歴史豊かな土地。

そして、「ちの」に生きるカルチャーも、訪れる人たちを魅了する豊かさがある。

ほぼカロリーゼロのスーパーフード
「天然寒天」を狩る

「寒天(かんてん)」と言えば……よくわからない食べ物の代表格だ。京都で食文化を学んだという僕の祖母は、溶き卵を浮かべた寒天寄せなるものをよく作ってくれた。子供心に、あまりおいしくなかったのをよく覚えている。寒天は、多くの人にとって「ゼリー状の何か」みたいなイメージなのではないだろうか。

ざっくり言うと寒天は、ところてんの押し出す前の状態を、乾燥させたものだ。

長野県の茅野市は、その「天然寒天」の名産地だ。

発祥は京都だそうだが、冬の乾いた寒さと、天候の良さ、水の良さが寒天の製造に適していて、次第にこの地で生産されるようになってきた。海産物のテングサとおご草が材料なのに内陸で生産されるのには、そんなワケがあった。

冬になると、八ヶ岳をバックに畑一面の寒天が干される。磯の香りがするなか、凍ってキラキラ光る様子には独特の趣きがある。「寒天狩り」とはうまく言ったものだ。

「寒天の食べ方は、寒天寄せだけじゃないんですよ」

そう言って寒天工場イリセンの3代目が差し出してくれたのは、熱いだし汁を注いだ寒天スープ。これで寒天への見方がガラっと変わってしまった。だしが染みこんだ寒天は、究極にシンプルだけど、とにかく食感が心地いい。少なくともゼリーやナタデココじゃないし、春雨とも違う。

だし汁に浸けるだけでいいなら鍋の具材にもなるし、朝ご飯のおすましに入れてもいい。ほぼカロリーゼロで腹持ちもいいので、置き換えダイエットにも最適だ。つい取材に乗じて、量り売りの寒天を2000円分も買い込んでしまった。

ピーク時には数百の寒天工場があったが、今は10軒ほどだと言う。

「寒天づくりは、伝統の作り方をするととても重労働です。使うパレットも重く、慣れないと腰も痛めやすい。でもそういった従来の作り方を見直して、この産業が続いていくように新しいチャレンジをしているところなんです」

たとえば、イリセンが開発した「おかしな寒天」。棒状の寒天より自由がきくので、工程を合理化できるのだそうだ。

取材のとき、地元の人が干す前の寒天(つまりはところてんの押し出す前の状態のもの)をビニール袋で買いにきていた。「味噌漬けにするとうまいんだ」とのこと。

長野県民の長寿の秘密は、このスーパーフード「寒天」にあるのかもしれない。

「生産者と巡る白銀の寒天畑ガイドウォーク」

ヘルシーでクリアな寒天のヒミツに迫る!寒天の製造現場を巡り、寒天畑(干し場)で天だしなど季節の体験も。天然の寒天について知り、見て、触れる寒天三昧の1時間。 ※モニター開催のため、アンケートへご協力ください。

参加費:1000円(税抜/1名あたり)
所要時間:1時間
日程:2019年2月10日(日)、17日(日)、24日(日) 10:30〜11:30
※その他の日程の開催についても相談できます。
申込み・問合せ:ちの旅案内所
TEL:0266-73-8550(9:00~17:00)

信州鋸に息づくクラフトマンシップ
今、会っておくべき最後の職人

江戸時代から続く「信州鋸(しんしゅう・のこぎり)」。

茅野市は、兵庫の三木市、新潟の燕三条市にならぶ鋸の名産地と言われていて、地元の諏訪大社とも密接に関係がある。

というのも、あの有名な御柱祭に使われる御柱を切り出すのは、いまなお人の手によってのみ許され、つまりは信州鋸を使うのだそうだ。

現代に残る信州鋸の職人は、わずか2名。そのうちのひとり両角金福さんは言う。

「いい鋸を持っていることは、大工のステイタスなんですよ。私らの作る鋸は、こうやって逆光の中でひずみを見つけて、ひたすら叩いて平らにしてある。大工は、いかにまっすぐ切れるかが腕の見せどころだからね」

鋸は、繊細なものだ。刃の中央をごくわずか薄くすることで引きの軽さが格段に違う。これはもちろん匠の技によるもの。

信州鋸は、伝統的にどの工程もひとりの職人が作りきるそうだ。

「だいたい昔は1日に1本できれば “いい職人だ” って言われたもんです。今は機械も使うからね。だいたい4〜5本くらい作れるかな。私もこの世界に入ったときは手作業ですべて作っていたんです。だから、感覚と数値で把握できるんですよ」

両角さんが抱えるのは、前述した御柱を切り出す大鋸。8本の御柱を切り出すために、8本の鋸を諏訪大社に奉納しているという。

「最後の信州のこぎり職人の工場体験」

200年続く伝統と匠の技を体感し、職人の魂を肌で感じる!「信州のこぎり」は江戸時代に農家の冬の仕事として導入され、この地で培われてきた伝統工芸。信州の名工にも認定されたこの道55年ののこぎり職人の工房を訪れ、のこぎりの歯入れが体験できます。 ※モニター開催のため、アンケートへご協力ください。

参加費:2500円(税抜/1名あたり)
所要時間:2時間
期間:通年(随時受付中)
申込み・問合せ:ちの旅案内所
TEL:0266-73-8550(9:00~17:00)

「生どぶろく」ってなんだ!?
発酵のテーマパークで洗礼を浴びる

あれ……今まで呑んできた「どぶろく」とは違う。

「生どぶろく」を口に含んだ瞬間、多くの人はそう思うはず。明らかにピリピリ感が強いのだ。例えるなら、自家製のキムチに近い感じだろうか。

「発酵が進んでいる最中ですからね。火入れしていない生のどぶろくです。全国でも、瓶詰めしているのは珍しいと思いますよ」

と、発酵パークの代表伊藤さん。

「火入れしているほうなら、サイダーで割ると飲みやすくなっておいしいですよ」

甘みが増すことで、これまたグイグイ飲めてしまう危険な一杯に変わるのだ。

この生どぶろくが売っているのは「発酵パーク」なる、発酵のテーマパーク。

4代目である丸井伊藤商店の店主が、味噌工場をベースに仕立てたのだそう。「みそ」の大煙突が目印だ。

100年以上現役で使われている味噌樽は圧巻だし、みそ、甘酒、漬物など、たくさんの発酵食品の工程を見るのも面白い。

さらに、地元諏訪大社の御柱祭展示室や、神に向かって豆を投げつける「貧乏神神社」の分社があったりと、B級サブカル感もたまらない。これには海外から来る観光客もテンションが上がるのだそうだ。

おみやげエリアでは信州味噌はもちろん、近年その美容効果が注目されブームになっている「甘酒」も、さまざまなラインアップが揃う。

発酵カフェ「醸し丸」も併設されていて、ここではすべてのメニューに発酵食品が使われている。

「発酵パーク(丸井伊藤商店)」

住所:長野県茅野市宮川4529
TEL:0120-72-2057
公式HP:https://misokengaku.com/hakko-park/

諏訪大社だけじゃない。
前宮と本宮の間にある「異世界」へ

全国に約25000社ある、一大神社グループ(と言ったら怒られるだろうか……)、諏訪神社。

その総本山である「諏訪大社」には上社と下社の2つがあり、そのうちの上社は、茅野市と諏訪市にまたがっていて、茅野市では「前宮」にお参りできる。前宮と本宮の間には2kmほどの距離があるのだけれど、実はその “中間地点” が面白い。

藤森照信(ふじもり・てるのぶ)という建築家をご存じだろうか。自然との調和を試みた日本を代表する近代建築家だ。その作品群は「藤森建築」と呼ばれるのだが、その一部が茅野市にある。

県道に面した「神長官守矢史料館」を目指していくと、その魅力を紐解くことができる。

建物の裏へ周ると、さらに藤森建築を象徴する「異世界」が待ち受けている。

写真は2010年作の『空飛ぶ泥舟』だ。ワイヤーで釣られていて、近づくと揺れているのがわかる。背景とのミスマッチ感がいい。

こちらは、2004年作『高過庵(たかすぎあん)』と、2017年作『低過庵(ひくすぎあん)』。もはや説明するまでもないネーミングセンスに脱帽だ。

藤森建築の特徴は、

「土着的だが、それでいながら国際的に普遍性を持つ」

という矛盾した評価を得ている。たとえば「神長官守矢史料館」は土で覆ったように見えるけれど、実はモルタルを土に模したもの。また「神長官守矢史料館」館内には、下の写真のように、諏訪大社の祭礼を再現した展示がある。

自然との調和とは、そもそも何なのか。藤森建築を巡ると、そんなプリミティブな感覚に想いを馳せたくなる。

「神長官守矢史料館」

住所:長野県茅野市宮川389-1
TEL:0266-73-7567
入場料:大人100円、高校生70円、小中学生50円

空飛ぶ泥舟、高過庵、低過庵は神長官守矢史料館から約500mほど。※個人所有のため、ツアーやイベントなどを除いて建物の中への立ち入りはできません。

寒さ厳しくも、晴れが続く
「ちの」は冬こそ面白い

中央道の諏訪南インターを降りて茅野市へ向かうと、八ヶ岳の麓に広がる広大な田畑に目を奪われる。高原都市「茅野」は実際のところ、米沢米や高原野菜の生産が盛んだ。つまり夏場は農業がメインになる。

ところが冬は、氷点下10度を下回ることも珍しくない寒冷地。その間にできることを模索した結果、冬に休耕する田畑に寒天を干し、鋸をつくり、味噌の寒仕込みをしてきたのだ。

蓼科や白樺湖のような夏のリゾートもいいけど、実は凍みる冬こそ「茅野」本来の面白さが詰まっている。決して派手ではないかもしれない。でもそこには、ダウンに身を包んででも行きたいディープな魅力があった。

 

地元スタッフが提案するあなただけの「茅野(ちの)の旅」も!

今回紹介した、寒天ガイドウォーク、最後の信州のこぎり職人の工場体験はプログラム単体での参加も可能です。記事に登場した施設を含めたツアーなど、地元に住んでいないとわからないあなたにぴったりのアクティビティ、過ごし方、宿泊場所などもあわせてツアーとして提案してくれます。現在、冬のモデルプラン「八ヶ岳の麓、凍みる大地で生きる知恵にふれる旅」を紹介中! ※モニターツアーとして実施するため、アンケートへご協力ください。

Top image: © inagaki masanori