体にいいのはなぜ? 今さら聞けない「発酵と腐敗」の違い
甘酒、味噌、納豆、塩麹やコンブチャ。
健康と流行に敏感な人たちの間では、もはやただのブームにあらず、日常的な食品ともなった「発酵食」。しかし、そもそも発酵食がなぜ体に良いと言われるか、ご存知だろうか?
発酵と腐敗。
違いはただの「ひと目線」
発酵と腐敗の違いは、とてもシンプル。
それは「人間にとって良いか悪いか」だけの違い。
たとえば、発酵させたほうが「おいしい」とか「保存がきく」とか「栄養価が上がった」など、人間がヨシ!とする現象を発酵と呼び、「まずい」とか「食べたらお腹を下した」とか「刺激臭が不快だ」といった現象を腐敗と呼びわけているだけなのだ。
しかし、発酵も腐敗もその原理は「微生物が有機物を分解した現象」であり、菌たちにとってはどちらも同じ働き。発酵とは、微生物のなせる技と言い換えることもできる。
太古の昔から
「人を生かす」発酵食
微生物たちはそれぞれの環境の中で一生懸命に生き、存在の証となる「発酵力」を私たち人間に示す。世界各地、発酵の歴史は実に古い。
紀元前3500年というものすごく昔、古代エジプトではすでにパンが好まれ、同じく紀元前2000年のコーカサス地方ではケフィアヨーグルトが広まり、日本でも8世紀初期の「播磨国風土記」には、日本酒を楽しんでいた様子が記されている。
しかもほとんどの発酵食品は、“偶然”発見された。小麦粉を水でのばしただけの無発酵パンを放置していたら膨らんでおいしくなっていたし、ヤギの乳を革袋に入れていたら移動の間にヨーグルトになっていたし、神様にお供えしたご飯にカビが生えて麹となり、お水と合わせたら、飲むと楽しくなるおいしいお酒ができていた、というわけだ。
19世紀に入り発酵のメカニズムが少しずつ解明されはじめ、微生物が関係していることが分かって以来、発酵の研究は現在でも進行中だ。
腸内よ、ハッピーでピースな
お花畑であれ
発酵食品には、酵母をはじめとした微生物が無数に存在する。その数は数千種といわれ、まだ見つかってない微生物も数百から数千種はいるそうだ。
私たちはそれらを食事として体内に取りいれるほか、皮膚や臓器にも「常在菌」という存在と共生している。なかでも多様な栄養素がそろう腸内、特に大腸にはもっとも多くの微生物が存在する。例えば乳酸菌やビフィズス菌などはその代表選手だ。
これら腸内の菌群のことを「腸内フローラ」と呼び、「腸内環境が整う」とは一般的に腸内フローラのバランスが良いことを意味している。
ちなみにフローラとは、ローマ神話で花と豊穣を司る女神。腸内がお花畑ならば、できるだけハッピーでピースな場所にしておいたほうが良い、と想像できるだろう。
「腸にいい」が
全部に良いわけ
腸内細菌には、私たちの体にとって良い働きをする善玉菌と、逆に私たちが困ってしまう働きをする悪玉菌が存在する。そして腸内細菌の約7割は、体が健康なときには善玉菌に有利になるように、反対に免疫が下がってるときには悪玉菌が有利になるように働く「日和見菌(ひよりみきん)」だ。
ふだん私たちは、善玉菌が悪玉菌の働きを押さえているから消化吸収が適切にできたり、免疫機能を保って風邪などを予防したりできている。また、腸の状態が良いということは、日々溜め込む毒素を外に排出しやすくもなる。便秘が解消される原因はまさにこのため。
さらに腸と結びつきの深い肺の機能も上がると言われている。すると外気からのバリアが強まり、ウィルスなどが入りにくい、つまり風邪などを予防する。バリア力は体の表面にまで続くので、カサつきなどお肌の状態にもいい影響をもたらす。
また近年の研究では、腸内環境が良くなることはメンタル面にも効果があるとされ、鬱病の対策として研究されているほか、脳にも良い影響をもたらし、認知症との関係性も研究が進んでいる。
こうして書き出すと、腸内環境がもたらす健康効果の高さに感動すら覚える。腸内環境をサポートする発酵食品と、目に見えない微生物たちにも感謝の念がこみ上げてくる。
まずはできることから
しかし、食生活を急に大きく変えていくのは簡単ではないことも事実。
まずは一週間のうちに味噌汁を飲む回数を増やす、漬物作りにチャレンジしてみる、納豆をメインのおかずにしてみるなど、自分にあったところから日々の習慣にしてみてはいかがだろうか?