誰もやってないからおもしろい。国産コーヒーをゼロから育て、伝統技術で日本の味をデザインする——徳之島・宮出珈琲園

植物が「みんなで支え合う」。
ゴールは“アグロフォレストリー”

©2019 ETSU MORIYAMA

この12年、徳之島でコーヒー栽培を続ける中で、宮出さんが導き出した国産コーヒーづくりのひとつの答え。それが、「植物同士が支え合う」というものだ。

海外の産地と違って日本には、四季が存在する。海外の産地は、おおよそ15℃〜28℃を繰り返しているから木はコンスタントに成長するけど、日本の場合は夏は暑すぎて気孔が閉じてしまうし、冬場は光合成が弱いため、主に「春と秋」しか成長しない。

さらに、日本のコーヒー産地を悩ませる存在が、ご存知のとおりの「台風」の多さである。

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試行錯誤の末にたどり着いた理想のシェードツリー、「モリンガ」。

 

「僕の畑では、コーヒーの木たちの南と東と西側が植物で囲われていて、もう一方に植えたグアバが育ったら、四方を植物に守ってもらえる畑になります。日本でコーヒー栽培をやろうと思ったら、どれだけ森の中のような環境を作ってコーヒー豆を守ってやれるかが鍵になる」

 

しかし、これから産業にしていくことを考えると、みんなが森を持てるわけではないから、「畑」でどうにかできないといけない。で、今宮出さんが試してるのが、コーヒーの木と、グアバと、モリンガの抱き合わせ。グアバは風から、モリンガはシェードツリーとなって強すぎる日差しから、いずれもコーヒーの木を守ってくれるのだ。

 

「ちなみにこれは千年木といって、すんごいタフなんですよ。台風の時に、支柱としてこれにコーヒーの木を繋いだら、フワ〜フワ〜ってしなって風をいなしていく。みんなで手を繋いで台風しのげるようになるんです」

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千年木は、挿し木で増やすことができる。2〜3年で成長。

 

こういった組み合わせになるまでには、植物の種類を何パターンか試し、ここにたどり着いたという。

最終的には、コーヒーの木からは実、豆、葉っぱ、花、が使えるし、グアバやモリンガからもお茶ができる。徳之島のコーヒー果実から作るカスカラティーは、酸味が穏やかで美味しいそうだ。

そして、ゆくゆくは「アグロフォレストリー」ができるといいなと思っている。

「アグロフォレストリー」とは、農業と林業が組み合わさったもので、さまざまな農作物や植物を一緒に育てていく農法だ。それぞれの時期にいろいろなものを収穫することができ、農業に関わる人にも、自然にも優しい。

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樹勢を見ながら、この島に合ったものを残していく。

 

「今もアセロラとか、島在来のとぅぬげぇ(シークニン)っていうみかんとかが育ってるけど、もともと料理人だから、自分の畑からいろんなのが獲れて、料理に使えたほうがおもろいやろなと思うし、いろいろあったほうが日常が豊かになる。コーヒーは好きやけど、そればっかでも飽きるから(笑)」



アグロフォレストリーでは、万が一ある病気が入ってきても、畑の多種多様な植物が全滅することはない。「何か」は生き残って、生産者を助けてくれるのだ。

コーヒーは東京で勉強する
もんじゃない

©2019 ETSU MORIYAMA

「今、コーヒーを勉強している人は多いけど、それは産地で勉強するもんだと思ってる。僕も東京で勉強した時期があるけど、誰かが持ってきた情報を広めてることが多いから、うんちくばっかり語られて本質が伝わって来ない。

かと言って海外の農園に視察に行って、みんなでコーヒーチェリーを摘んでる写真撮って、行ってきましたとかいうのも違う。ここでリアルに汗かきながら自分で植えて、自分で摘んで、どんだけ大変かを知って淹れると、全然違う。なんで“その味”になるのかがわかるから」

 

教育プログラムさえあればみんながこの流れを体験することができる。宮出さんは今それを整えているという。

 

「今の若者は、情報が溢れている中でもちゃんと物事の“本質”を見に来ようとする。僕のところに見学にくる若者たちも。だからもし彼らがこの仕事に就いたら、ちゃんと飯が食えるようにしてやるのも自分の仕事だと思ってる」

©2019 ETSU MORIYAMA

木の下を覗くと、双葉が。この段階で、強い個体と弱い個体がわかる。

 

宮出さんのやり方は「選抜育苗」と言って、収穫時期に落ちた実から育ったものの中から、ひとつを残す方法。品種がかけ合わさる可能性はあるが、この土地で何代も生き残って根付いた子を育てていくのが正解だと考えた。そして、収穫まで無農薬、無施肥、無耕作。

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同じ親木の子でも個体差がある。強い子は雨の後に抜いていく。

 

「自分の力だけで育ててるから、めっちゃ遅いけど、めっちゃ強い。小さい時にヤスデやカタツムリにはちょっと食べられるけど、観葉植物みたいに綺麗にする必要はないから大丈夫。どれが正しい答えかはまだわからないけど僕は“飴と鞭”です。甘やかしすぎたらあかんねん」

 

収穫量は落ちるけど、飲む人も、薬を使ってない、自分の力で育った、そういうコーヒーを飲みたいはずだから、と話しながら木々の間を歩き、葉っぱに触れる宮出さんの手は優しくて頼もしい印象だった。そしてこの時点での私のコーヒー飲みたい度数は、200パーセントを越えた。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。