「結局、サウナで“ととのう”の正体って?」サウナーの医師に聞いてみた

サウナに入ることで得られる感覚——ととのう(整う)。

多くの人が口にするワードだが、どこか具体性を欠き、謎めいた存在になってしまっているのが実情だろう。

そこで頼ったのが、3月6日に発売された著書『医者が教えるサウナの教科書 ビジネスエリートはなぜ脳と体をサウナでととのえるのか?』が大好評の加藤容崇医師。

こちらの想定を上回るほど明快な回答のおかげで、長年抱いていた“ととのう”のモヤモヤがついに晴れた!

加藤 容崇(かとう やすたか)

慶応義塾大学医学部腫瘍センターゲノム医療ユニット特任助教・医師、北斗病院・医師、日本サウナ学会 代表理事。サウナ好きが高じて、“ととのう”をはじめとしたサウナの効能を科学的に解明する取り組みをおこなっている。著書『医者が教えるサウナの教科書 ビジネスエリートはなぜ脳と体をサウナでととのえるのか?』が好評発売中。

撮影協力:かるまる池袋店

サウナでととのう(整う)って、どういう状態?

「端的にいうと、普通は切り替わるはずの交感神経と副交感神経が共存し、“変な感覚”を覚える。これこそがととのうの正体です。

この“変な感覚”の感じ方や表現方法が人によって異なるため、謎めいた存在になってしまっているのでしょう。認識が違うだけで、基本的には同じ現象を指しています。

なぜ両者が共存するのか? 休憩中は副交感神経が優位になる一方、サウナと水風呂の影響で交感神経のアドレナリンが残っているためです。ただし、両者が共存するタイミングまでの猶予は水風呂を出て2分以内。どんどんアドレナリンの機能が弱くなり、ただのリラックス状態になってしまうので、2分以内に横になる(座る)ようにしましょう。

初心者の方や未経験の方にはピンとこないかもしれませんが、ととのうための努力や才能なんて必要ありません。サウナに行けば、誰でも自動的にととのいます。

そもそも自律神経とは、自動的に環境の変化にアジャストする神経。サウナや水風呂は入るだけで急激な環境変化ですから、単純に自律神経が働きやすいんです」

ととのうことで体はこう変化する

「脳科学的にはものすごくリラックスした状態になります。感覚が鋭くなり、頭がスッキリする。

血管のアンチエイジング効果も期待できます。血管が柔らかくなり、血圧が下がる。肩こりや腰痛は根本原因こそ解決できないものの、かなり緩和はされると思いますよ。このあたりの効果・効能についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

注意点もあります。たとえば、ギックリ腰などの怪我をした直後にはサウナに入らないこと。症状が落ち着いていない急性期の状態では、かえって悪化してしまう恐れがあります。治るわけではなく、あくまでも症状を緩和させるという意味ですので、収まってから入るのがポイントです」

サウナ“ととのう”
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ととのった脳は「瞑想後の状態」に似ている

「脳には『デフォルト・モード・ネットワーク』といって、ボーッと何かを考えているときに活性化する領域がある。そのエネルギー消費量は、なんと70パーセントにものぼるんですよ。脳が本当に疲れるのは、あれこれと考えてしまっているときなんです。

TVがあるところは別ですが、サウナ室では『暑い!』くらいしか考えられない(笑)。それがいいんですよ。暑すぎて自動的に余計な外部情報が入らなくなる。

瞑想もごちゃごちゃした考えを一度捨てて、脳をブーストさせる行為。外部の情報を遮断して内なる自分に集中するという点で近いものがあります。

ただし、瞑想は自身の努力でその世界に入る。技術が必要で、才能や経験に効果が依存するという論文も発表されています。個人差があってハードルが高い一方、サウナは入るだけでいいので手軽ですよ!」

じつは女性のほうがととのいやすい!
しかし……

「アドレナリンやオキシトシン、ドーパミンといった血中のホルモン値の変化が女性のほうが大きい。反応が明敏なので、基本的にはととのいやすいです。

しかし、女性ならではの欠点が二つあります。

一つ目は、サウナ室の設定温度。男性と比べて5〜10度ほど下げている施設が多く、女性が『水風呂が苦手』というのは、ある意味で仕方ないことかもしれません。温度の感じ方に差はないので設定温度を変える必要はないですし、ととのいやすいぶん、むしろちょっと暑くてもいいくらいだと思います。

二つ目は、これぞ女性特有ですが、“お局問題”。ボスキャラがいるサウナが意外と多いんです。男性でもいるにはいるんですが、まだ平和。女性のボスキャラって本当に容赦ないですから(笑)。『あの娘、一番上の段の○○さんのスペースに座ってる!』とか、そんなことはどうでもいい。

この二点が女性にとっては由々しき問題。身体的にはととのいやすいのですが、社会的要因でととのいにくくなっています

ととのいやすいサウナって?

「繰り返しになりますが、医学的に見ると“ととのいタイム”は2分しかありません。つまり動線が命。水風呂から休憩スペースまでが離れすぎているようでは難しい。

先ほども言った通り、“阻害要因”もたくさんあります。自分の世界にいかに入れるか、イライラせずに過ごせるか。

TVがなかったとしても、近くに不愉快な人がいたら意識が引っ張られてしまうのでダメ。おじさんが体の汗でぴちゃぴちゃ音を鳴らしている、ましてやその汗をサウナストーンにかけて『汗ロウリュ』するなんてもってのほか。ボスキャラだって要りません。

そういうのって、じつはマナーを知らないだけだと思うんです。長年そうしてきたから、続けているだけ。だからこそ啓蒙活動が必要。説教くさくならず、いかに社会的なシステムで『サテラシー(サウナのリテラシー)』を高めるかが重要だと思います。

理想のサウナはやっぱり『人』にかかっている。老舗だとしてもビギナーが多いところだと、正直気になってしまうこともあります。難しい問題ですよね……」

サウナ“ととのう”
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ととのいづらくなった人へのアドバイス
「ととのイップス」を解消するために

「基本的に、みなさんととのえに行きすぎ(笑)。

初めは自律神経が弱っていて、ちょっとした刺激でも反応してくれるんですが、だんだんアジャストできるようになる。それほど体が堪えなくなるんですよね。でも、逆にいうとそれだけ自律神経がととのっているということなので、別にいいんですよ(笑)。

たしかに“あの感覚”を味わいたいのはよくわかります。だからといってエスカレートしてしまい、熱すぎる熱波や冷たすぎる水風呂を求めるのは、長い目で見ると健康に良くない。だから私は、別のもので補完する方法を勧めています。

たとえば、お風呂の併用。お風呂とサウナと岩盤浴って、並存するものなのに境界線があると思う。サウナ派は『お風呂や岩盤浴なんて……』と言いますし、それぞれのケースも然り。性質が違うだけで、本来は反発し合うようなものではない。それらをうまく融合させることに“ととのイップス”解消のヒントがあります。

サウナに入る前に、炭酸泉に2〜3分浸かってしっかりと体を温めておく。炭酸泉にはマッサージ効果があり、体温上昇のスピードも早い。外気浴で体が冷めすぎて、『いまサウナに入っても温まりづらそう』なんてときにも使えます。

水風呂が冷たくないときは、メンソールなどのミント系の香りを嗅いだり、炭酸水を飲むと清涼感を得られます。

サテラシーの低さなど、サウナ室内の環境に懸念点がある場合は、塩飴を舐めるのも効果的。塩分補給になりますし、舐めるという行為は意外と没頭できます。あ、飲食禁止のところが多いので、もちろん施設側への確認はマストですよ。

そうやって、いろいろなもので補うのがいいと思います!」

まとめ(“ととのう”ためのポイント)

・水風呂を出てから2分以内に横になる(座る)

・怪我をした直後はサウナを利用してはいけない

・TVはないほうがベター。とにかく“内なる自分”に集中する

・炭酸泉や炭酸水、ミント系の香りなど、“その他の要素”で補完する

 

『医者が教えるサウナの教科書 ビジネスエリートはなぜ脳と体をサウナでととのえるのか?』

脳疲労が瞬時に消える!ビジネスのパフォーマンスを最大化する正しいサウナの入り方!

著:加藤 容崇 発行:ダイヤモンド社

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