性教育ってどうすればいいんだろう……? スウェーデンの1冊の本が教えてくれること(後編)

みなさんは、子どもにどんな性教育をするべきだと思いますか? 最近は日本でも「家庭での性教育」や「ジェンダーって?」などの議論があがることが増えてきたなぁと感じます。

でもいざこのテーマにちゃんと向き合ってみると、これがなかなかむずかしい……。だって自分自身が「ちゃんと性教育を受けてきた」感覚がないですもんね。

だからこそ今日は『RESPECT 男の子が知っておきたいセックスのすべて』というスウェーデンの素敵な本と、その翻訳者を紹介したいと思います。

翻訳を手がけたのは「ふたりぱぱ」というYouTubeチャンネルのみっつんさん。ゲイカップルと、代理母出産で生まれた息子くんの日常が微笑ましいし、動画ではスウェーデンと日本の文化のちがいなどもわかるので、編集部でもよく話題にあがるんです。

(前編はコチラから)

みっつん(ふたりぱぱ)

名古屋市生まれ。2011年にスウェーデンの法のもと結婚。同年、夫リカとともに東京からロンドンへ移住。2016年、サロガシー(代理母出産)により男児を授かったのを機に、夫の出身地であるスウェーデン・ルレオに移住。ブログで子育て日記を綴ったり、動画やSNSでも普段の様子をシェア。著書『ふたりぱぱ:ゲイカップル、代理母出産(サロガシー)の旅に出る』YouTube「ふたりぱぱチャンネル」

いいセックスができる人は
いいコミュニケーションができる人

©みっつん

(夫のリカさんと、みっつんさん)

 

──内容がセンシティブなので、翻訳に悩んだところも多かったのでは?

 

日本とスウェーデンで法律がちがうから、そこをどう伝えようって悩みました。

セックスやパートナーとの関係については日本もスウェーデンもそこまで変わらないから心配せずにストレートに翻訳したんだけど、法律に関しては読んだ子どもたちがもしかしたら法に触れてしまうかもしれない、っていう部分が一部あって。スウェーデンでは未成年でもOKだけど日本ではNGなこと、とかもありました。

 

 

──読者としては巻末に法律の比較などがまとめられていて、とてもわかりやすかったです。

 

アメリカ版ではスウェーデンの法律について一部しか書いてなくて、わりとアメリカの法律に置き換えられて書かれている部分があるんだけど、日本でそれをやってしまうと、あまりにもちがいすぎて文脈が繋がらなくなってしまって(笑)。

とくに同意法の部分だけど、日本だと「じゃあセックスのたびに契約書でも書くの?」みたいなことを言う人がいまだにいて……。

 

──たしかにそういう意見は見かけますね。

 

でもそういうことじゃなくて「どうやってYES/NOを見極めていくか」が大事だと思うんです。日本には昔から「イヤよイヤよも好きのうち」みたいな変なフレーズがあって、時代は変わったのに、まだその考えを押しつけてくる社会の風潮を感じるかな。そこを変えていきたいと思ってます。

 

──素敵ですね。

 

この本は主にセックスについて書かれているんだけど、結局なにが伝えたいのかっていうと、一人ひとりの人間がお互いにリスペクトを持って接しあっていくためのヒントが書かれていると思います。ジェンダー平等についても。

セックスって、一番深くて近い「1対1」のコミュニケーションだと思うんです。そのテクニックを知ることは普段の生活にも活かせるよねっていう内容がたくさん書いてあります。

 

──セックスについて知ることが普段の生活にも活かせる……なるほど。

 

そう。いいセックスができる人はちゃんとしたコミュニケーションができる人ってことだから、普段の生活でもきっと他人に対してリスペクトを持って接することができると思います。相手の話を聞けるとか、相手の反応を見ることができる、とか。

 

日本人は
セクシュアルな話に積極的?

 

──日本ではあまりセクシュアルな話をしない人が多いと感じているんですが、スウェーデンはいかがですか?

 

その感覚、すごく面白いなぁと思っていて、僕は海外に出て10年くらい経つけど、逆に日本のほうがセクシュアルな話をめちゃくちゃすると思っています。

 

──え、そうですか!?

 

うん。でも気づいてない、日本の人は。

たとえば普通におじさんが「〇〇ちゃん胸大きいね」とか言ったりするじゃないですか。さすがに今はセクハラで問題になると思いますけど……。あと男同士でも「お前彼女とセックスした?」とか「彼女どんな反応だった?」とかお酒の席でしちゃったり

そういう意味では、スウェーデンでは友だち同士でも性的な話はほとんど聞かないかな。若い子たちは多少するのかもしれないけど、ベッドでの出来事はあくまでもそのふたりだけのことだから「聞かないし言わない」っていう感覚がありますね。

 

──言われてみれば確かに……。

 

僕らもゲイカップルでYouTubeやっていると「どっちがタチでどっちがウケですか?」みたいなコメントがよく来てました。そういう質問が普通にできるのが日本っぽいと思うけど、パーソナルなことだから僕らは絶対に言わない。

そういう点で、わりと日本のほうがセクシュアルのパーソナルな部分まで踏み込んでくる人が多い気がします。

 

──なるほど。

 

一方でスウェーデンでは、パーソナルな部分と切り離してセクシュアルな話をすることが多い感覚です。テレビで堂々とセックスの話がされていたり「恥ずかしいことではない」というスタンスが強いのかもしれませんね。

フェミニズムは
「男らしさ」に苦しむ男性にも
知ってほしい

©みっつん

(オンラインでインタビューに答えてくれたみっつんさん)

 

──スウェーデンにいるみっつんさんから見て、最近の日本のジェンダーへの意識はどう映っていますか?

 

俯瞰して見ると、この5〜10年でものすごくジェンダー平等への知識や理解は深まったと思います。実際に日本の社会のなかにいると気づきにくかったり、壁にぶつかってる感じがあると思うんですが、僕のように浦島太郎的に見るととても良くなっているんじゃないかな。

 

──実際に住んでいる身としては、まだ理想と現実のギャップは感じます。

 

僕がまだ子どもだった1986年の改正によって「男女雇用機会均等法」が始まったんだけど、実態がどこまで伴っているのかっていう問題はあると思います。だからこそジェンダーに関する知識や、こういった本が必要なんじゃないかな。

 

──ハッと気づかされる内容が多かったです。

 

この本のなかで1番大切だと思うのが、本のタイトルにもなっている第4章の「リスペクト」だと思うんです。

リスペクトの気持ちを態度や行動で示していくことが大切だし、とくにセックスは行動のコミュニケーションだから、理想だけではなくて行動に移していかなくちゃいけない。

あと、この本がなぜ男の子に向けて書かれているかというと、一般的には社会のなかで男性のほうがパワーを持ってしまっているから。それは「下駄を履かされている」わけで、この本では下駄の脱ぎ方とその重要性が紹介されています。

 

──男性が起こすべきアクションが「下駄を脱ぐこと」だと。

 

力のある側の人間が行動しないと、社会は絶対に変化していかない。男の子がちゃんとした知識を持って行動していかないと良い社会を作っていけないし、リスペクトのある行動やセックスにも繋がっていかない。

性的合意についても、なにがYESでNOなのかも、もっと男性が理解しないといけない。「一緒にホテルに行ったらOKってことでしょ?」なんて話がよく出るけど、そのときになってみないとわからないし、そこでNOと言われたらNOなんだよ、というようなこともこの本では書かれています。

 

──そういう大切なことを本を通して学べるのが素敵だと思います。

 

こういうことを言うと「フェミニストだ」なんて叩く人もいるんだけど、本当にこの本はフェミニズムの本ですよ、と思います。2017年の#MeToo運動よりずっと前に書かれているけど、本当にそれに合致する内容だし、男性側が変わらないといけないんだよ、と。

同時に、フェミニズムは女性だけじゃなく、男性にも役立つということが書かれています。

 

──男性にもですか?

 

男らしさって、一見すると男性が得しているようにも見えるかもしれません。ただ「男だけ」の状況になったとき、男のなかでも序列ができて、男らしくないと馬鹿にされたり、ビジネスでも上の立場になれないとか、男も男で「男らしさ」の檻のなかでもがき苦しむことになるわけです。

フェミニズムを学ぶことは、自分たちに絡まったしがらみとかジェンダーロールから解放されて、もっと楽に生きられるヒントになると思います。

 

──男女間の問題だけではない、と。

 

そうですね。ネット社会は自由に発信できることはポジティブだけど、一方で意見を極端に二分化してしまう可能性もあります。フェミニズムはいいとか悪いとか。それはもったいない。

そういう時代はもう終わりにして、相手を論破する努力じゃなく、自分の人生を楽にするために二択以外の選択肢にも目を向けて、それも使ってどう社会を変えていくべきか、っていう考えにシフトしていけたら、と。ちょっと話が大きくなっちゃったけど(笑)

「初体験」は、何度でも

©2022 NEW STANDARD

(『RESPECT 男の子が知っておきたいセックスのすべて』)

──本のなかの「初体験は何度でも」っていう言葉が印象的でした。

 

日本でも海外で「童貞卒業」とか「処女喪失」とか、それ自体をすごく大きく捉える文化があるんだけど、セックスって毎回ちがうわけですから。

新しいことに挑戦もできるだろうし、新しい快感を得ることもある。歳を重ねることで身体の感じ方とか心の感じ方、あとはパートナーとの関係性も変わってくるから、気持ちよさも変わってくる。同じセックスなんてふたつとしてないんです。

経験してみないと分からないだろうし、10代の子にそれを理解しろっていうのも難しいけど、「そういう初体験は何度でもくるよ」ということをこの本は教えてくれます。

 

──初体験を特別視しすぎる傾向はあるかもしれませんね。

 

そういう意味でも、この本はいろいろな世代の人に知ってもらいたい。もちろん大学生が読んでも遅くないし、結婚してパートナーがいる方や、セックスレスの方とかが読んでも参考になるはずです。

心の動きについても書かれているので「だからあのとき気持ち良くなかったんだ」とか、振り返って腑に落ちる内容になっていると思います。

 

──セックスを通して、お互いへのリスペクトやコミュニケーションを学んで、いい社会をつくっていく。とても楽しいお話が聞けて良かったです。ありがとうございました!

 

Top image: © みっつん
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。