脱力フェミニズム.03
セックスと同意と法律のこと

みなさんは中学校で受けた性教育の内容を覚えていますか?

おそらく、卵子と精子が受精して、子宮の中で受精卵が赤ちゃんになる過程を教えてもらったかと思います。しかし、受精するために必要な行為「性交(セックス)」について教えてもらえた人は少ないのではないでしょうか。

性教育と「はどめ規定」

性交はペニスがある人と腟のある人による行為とは限りませんし、現在は生殖補助医療技術の進化によってセックスをしなくても子どもを持つことが可能になっていますが、ここでは学校教育で想定されているペニスを腟に挿入することを「性交」と呼ぶことにします。

思春期を迎えるとセックスに興味を持つ人は多いはず。みんながセックスについてあれこれ考えているのに学校で性交について教えてくれないって、ちょっと不自然だと思いませんか? 実はこれ、文部科学省が告示している中学校学習指導要領(保健体育編)に「はどめ規定」というものが存在するからなんです。

この要領の保健分野のページには「妊娠や出産が可能となるような成熟が始まるという観点から,受精・妊娠を取り扱うものとし,妊娠の経過は取り扱わないものとする」と定められていて、これがいわゆる「はどめ規定」と言われています。「妊娠の経過は取り扱わない」ということは、ペニスを腟に挿入する行為と妊娠が結びつかない人がいるかもしれません。

性交を教えないのに
刑法の性交同意年齢は13歳?

MeTooという性被害を告白するムーブメントをご存じの方も多いと思います。日本だと、ジャーナリストの伊藤詩織さんがテレビ局の記者から同意のない性行為被害に遭った事件がよく知られています。伊藤さんは損害賠償を求めて訴訟を起こし、2022年に被害が認定されました。しかし、日本の刑法は「同意なし」だけでは罰することができず、暴行又は脅迫があったことや心神喪失・抗拒不能状態だったことを証明しなければ「強制性交罪」と認められません。伊藤さんにとって勝訴までの道のりはかなり過酷だったはずです。

そして、この強制性交の罪には「十三歳以上の者に対し」という表現がありますが、これは性交を同意する能力がある年齢は13歳ということを意味しているのです。文部科学省は性交について中学校で教えないよう規定しているのに性交同意年齢は13歳、なんともおかしな話です(しかも刑法が公布された明治時代から変わっていない!)。たとえば、13歳の中学生が成人から強制性交の被害に遭い、それを訴えたい場合は、暴行か脅迫があったことを証明しなければなりません。さらに、性交によって妊娠する可能性があることを理解していないと、万が一妊娠した場合、気づくことが遅れてしまうかもしれないのです。

性教育先進国スウェーデンの刑法は
「同意」がポイント

性犯罪に関する刑法が被害者に非常に不利な内容で、性について学校で詳しく教えてくれない日本。これでは、ティーンが安心して暮らせる国とは言えません。

一方、性教育先進国と言えばスウェーデン。性教育はなんと幼稚園からスタートするそうです。しかも、性交同意年齢は15歳。10代は心もからだもどんどん変化する時期です。わたしは中学校に入学したとき、3年生がすごく大人に見えました。ティーンの2歳差は大きいです。

また、スウェーデンは「同意」を非常に重要視しています。2018年にレイプ罪が改正されたスウェーデンでは、性的行為をする場合は自発的参加が必要となりました。すなわち、「イエス」と言わない限り不同意のレイプとみなされ、性被害を訴える際に暴行や脅迫を証明する必要がありません。

そんなスウェーデンからやって来た、ティーン向けの性教育本を今回はご紹介します。『RESPECT 男の子が知っておきたいセックスのすべて』(現代書館)は、日本の学校で教えてくれない性交はもちろん、オナニー、ポルノとの付き合い方、性的マイノリティ、愛、感染症予防、避妊など、包括的に性について学べる1冊です。著者がこの本で熱心に伝えていることは尊重と同意の重要性。社会の中では男性がパワーを持ちやすいことを男の子が自覚し、まわりの人を尊重して同意を大切にすれば、世の中がよくなり、セックスだってうまくいく、というわけです。

男の子向けのタイトルですが「はどめ規定」のある日本では、むしろ大人にこそおすすめと言えるかもしれません。この本を読むと、尊重と同意があらゆることにおいて必要だと、きっと感じていただけるでしょう。

訳者のみっつんさんが本の内容とあわせて同意やスウェーデンの性教育について動画で紹介されているので、是非ご覧ください。

自分事として考えれば
法律だって変えられる

タブーだらけの性教育、被害者を救わない法律。そんな日本に生きていることを考えると、なんとも暗い気持ちになりそうです。しかし、2023年2月、なんと法務省が「強制性交罪」を「不同意性交罪」に改正する案を示し、これが3月14日に閣議決定されました!

また、性交同意年齢は16歳に引き上げられる見通しとのこと。とてもうれしいニュースですが、ここまでの道のりには本当に多くの人が関わってきました。みなさんは、日本の刑法を改正してほしいと訴えてきた被害者団体や市民運動があることをご存じでしょうか? 街角で声を上げ、フライヤーをつくり、署名運動を行ない、ロビイングをし、勉強会を開催する……刑法を改正するために、粘り強く訴え続けてきた人たちがいるからこそ、今までなかったことにされていた性暴力がメディアで取り上げられるようになり、みんながこの問題を考えるようになったのです。

性暴力はレイプだけではありません。痴漢、デートDV、セクハラ、家庭内虐待など、暴力は身近にあふれていて、ジェンダー問わずだれもが被害者/加害者になる可能性があります。また、性暴力の被害者は主に女性だと思われがちですが、つい最近、英BBCによって日本の大手芸能事務所社長による男性アイドルへの性加害が報じられました。日本のメディア体質の問題でもありますが、もし性教育で「同意」がしっかり教えられていたら、こういった被害は減らせたかもしれません。

 

みんなが自分事として考えていけば、社会は変わり、法律だって変えられるのです。あきらめなかった人たちに心からの敬意を表するために、身近なことから「同意」を意識して日々の生活を送っていきたいと、あらためて感じています。

もっと詳しく知りたい方へ

① 『RESPECT 男の子が知っておきたいセックスのすべて
MeToo時代の性教育は同意が基本。家庭での性教育にも最適の1冊です。

② 小川たまか『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。
可視化されてこなかった性被害者の声を掬い上げてきたライターによるエッセイ。すべての性暴力をなくすために、被害者の声を聞きくことから始めたい。

③ 伊藤詩織『Black Box
レイプ被害に遭ったジャーナリストの手記。加害者の言い逃れ、二次加害、刑法の欠陥など、告発がいかに過酷なものか知っておきたい。

Top image: © Daniel Hoz/Shutterstock.com
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