脱力フェミニズム.02
LGBTが「見るのも嫌だ」と言われる日本で、わたしたちにできること

つい先日、総理大臣秘書官が性的マイノリティを「見るのも嫌だ」と発言し、更迭される出来事がありました。

オフレコの場だったとはいえ、「全ての人が生きがいを感じられる社会の実現」という政策が表向きだと感じた人も多いでしょう。30カ国以上で同性結婚が法制化されている時代に、あり得ない発言です。

「オカマ」や「ホモ」が
普通にテレビで使われていた時代

権力者によるこうした発言は何度も繰り返されていますが、呆れている場合ではありません。

最近、わたしは70代の母親と地元の話をすることがありました。

繁華街として賑わっていたエリアがすっかりさびれてしまったという話題だったのですが、母親が懐かしみながら「あの辺では“オカマ”の人がたくさん働いていたよね」と口にしたのです。

そんな言葉を外でうっかり使われたらまずいと思い、わたしは慌てて母親に「“オカマ”は差別用語だから言っちゃダメだよ」と伝えました。すると母親は「なんで? みんな“オカマ”って言うよ。オカマバーとかあったじゃん」と、娘に注意されたことにちょっと納得できない様子。

「女装家やゲイの人が自称する場合もあるけど、そもそもは侮蔑的な言葉なんだよ!」と返したものの、実はわたしも若いころは“オカマ”という言葉を平気で使っていたのです。

母親の言う「みんな」には、テレビに出てくる人も含まれるでしょう。今のようにインターネットが普及していなかった時代は、ほとんどの人が毎日テレビを見ていたと思います。人気バラエティ番組で“オカマ”や“ホモ”という言葉が使われるのは日常茶飯事。とんねるずの石橋貴明は「保毛尾田保毛男」というキャラクターに扮して偏見に満ちたゲイのイメージをつくりあげ、藤井隆は「オカマじゃありません、ホモです!」というギャグで笑いをとっていました。現実的でない「オカマ像」を演じて笑いを誘う芸人……それを繰り返し見ていると揶揄してもいい対象だと思い込んでしまいますよね。

ゲイ、ドラァグクィーン、トランスジェンダーの人たちがまとめて「オカマタレント」と呼ばれるような時期もあり、わたし自身も当時はセクシュアル・マイノリティの生きづらさなどを想像したことがなく、「オカマ」と一括りにして無自覚に差別していました。

しかし、フェミニズムに出会い、「女らしさ」「男らしさ」というジェンダー規範がどのようにつくられてきたのかを理解することによって、自分を抑圧してきた規範はセクシュアル・マイノリティの人たちへの差別の原因でもあったのだと、やっと気づけたのです。

テレビで活躍しているゲイの人たちのように誰でもカミングアウトできるわけではないこと、アウティングは生死に関わること、割り当てられた性別に違和感をもつ人がいることなどを知ってからは、セクシュアル・マイノリティに対してあまりにも無知だった自分をよく恥じたものです。

トランスジェンダーの人たちの
苦しみを想像するために観てほしい
2本のドキュメンタリー

このように、人はメディアの影響を受けやすく、その影響力が強いほどマイノリティの人たちが生きづらい社会がつくられてしまうのです。

そこで今日は、メディアがつくるイメージによって傷つけられた人たちの声を集めた映画をご紹介します。

2020年制作の『トランスジェンダーとハリウッド:過去、現在、そして』は、映画やバラエティ番組のなかで、トランスジェンダーがどう表象されてきたのか、過去の映像とインタビューを交えて伝えるドキュメンタリーです。「ペニスはどこ?」といった揶揄や、精神異常者のような描き方……そういった数々の映像によって強化された偏見を自分がいかに内面化していたのかを思い知らされました。

同じドキュメンタリーでもう1本おすすめしたいのは、フランスで制作された『リトル・ガール』(2020年)です。出生時に男性という性別を割り当てられたけれど自分は「男の子じゃない」と感じている7歳のサシャと、その性別の揺らぎに対する家族の経験や思いを丁寧に記録しています。メディアによる間違ったイメージに影響を受けないためにも、トランスジェンダーとその家族がどう生きているか、映像を通して是非知っていただきたいです。

フェミニズムは
「女性」だけのものではない

日本では1999年に男女共同参画社会がスタートしました。もしかしたら「男女平等」を目指すポジティブな政策だと思われている方も多いかもしれません。しかし、この取組みは世の中にある性は「男」と「女」のふたつのみとする男女二元制を強化してしまい、性的少数者に対する政策を取りこぼすこととなってしまいます(この辺についてはフェミマガジン『エトセトラ VOL.4』収録の飯野由里子さんによる論考「フェミニズムはバックラッシュとの闘いの中で採用した自らの「戦略」を見直す時期にきている」を是非お読みください)。

日本には包括的な差別禁止法が存在しないだけでなく、2021年の「LGBT理解増進法案」ですら提出が見送られました。

2019年に「働き方と暮らしの多様性と共生」研究チームが大阪市と協力して実施したアンケートによれば、トランスジェンダーの人口割合は0.7~0.8%になるそうです。また昨年翻訳出版された『トランスジェンダー問題』(明石書店)には、「英国では、トランスの人々は人口の1%に満たない」とあります。

生きづらさから生涯クローゼットで過ごす人も少なくないため、わたしたちが学校や職場などでトランスジェンダーの人たちに一生出会わない可能性は大きいです。だからこそ、現実に息づくトランスジェンダーの人たちの存在を知り、その苦しみを想像する必要があるのではないでしょうか。

フェミニズムは「女性」の権利や政策だけを考えればよい思想ではないはず――わたしはそう信じています。

もっと詳しく知りたい方へ

① 『トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして
原題は『Disclosure』。ハリウッドで描かれてきたトランスジェンダーのイメージを振り返るドキュメンタリー。偏見にみちた映像をわたしたちがいかに消費しているか自覚したい。

② 『リトル・ガール
性別違和がどういう感覚なのか、そしてその感覚を社会がどう受け入れるべきなのか、7歳のサシャの言葉や家族の思いを通して想像してほしい。

③ 『トランスジェンダー問題:議論は正義のために
UKのトランスジェンダーの実態を丁寧に伝える内容だが、日本の状況にも大きく重なる。訳者解題「日本で『トランスジェンダー問題』を読むために」から読むのもおすすめ。

Top image: © iStock.com/Chalffy
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