イタリアの廃村を「丸ごと」買った男たち。その真意は……
2019年にシチリアの土地が1ドルで販売されたのをはじめ、近年のイタリアでは空き地を格安で提供し住人を獲得しようとする動きが活発化している。
人が住むのは良いことではあるが、この取り組みの問題点は、リフォームによって建物や町の外観が根っから変えられてしまい、歴史あるイタリアの風景が失われてしまうこと。
大抵の場合、こうした土地はアメリカや中国などの人によって、おもしろ半分で購入されるわけで。
「歴史的な景色を保持する」という概念がハナから存在しない彼らによって、そのすべては破壊されてしまうようだ。
そんななか、イタリアのサン・セベリーノ・ディ・チェントラ出身のグループが、廃村となった地区の家々を丸ごと買い取ったことが報じられた。
カンパーニャ州サレルノ県に位置するこの村は、中世の建造物がそのまま遺っている非常に歴史ある地区だが、1970年代に最後の住人が去って以来、ほとんど放置されていた。
昨今の土地売却の流れに飲み込まれそうだったところ、シルベリオ・ダンジェロ氏をはじめとする8人の有志が土地を丸ごと買い取ったのだ。
「CNN」のインタビューによると、ダンジェロ氏が土地を購入した理由は成金流バカンスを楽しんだり金を儲けるためではなく、土地を市場から消すため。
じつは、この集落はかつて彼らの祖先が暮らしていた地域で、出身地からすぐ近くの場所。厳しい冬や困難な道、厳しい生活環境のために、1800年頃にほとんどの住人が旧集落から逃げ出し、坂を下ったところに作られた旧集落につながる村の新しい区画で暮らしている。
ダンジェロ氏はこのエリアの出身で、自身の「地元と祖先への敬愛」に突き動かされて購入に踏み切ったという。仲間と協力して土地を抑えることを決意したわけだが、これを「無謀」で、地区を復活させるには「強い忍耐力と資金が必要」であることも認めている。
「私たちは、村が“間違った人”の手に渡り、その本質が破壊されることを望んでいませんでした。」「だから、たとえ崩れてしまっても、何もしなくても、市場から撤去するために買ったほうがいいと思ったんです」ダンジェロ氏は語る。
要は、市場に出てしまえば外国人に地元を破壊されるので、自ら購入して保全に努めることにした、というわけ。
年間5万人ほどがこの村に観光で訪れるそうだが、彼らは購入した土地をバカンス用にリノベーションしたり、旅行客のための施設を新築したりするつもりはないという。
人によっては古臭く、時代違いな考えに思えるかもしれないが、これこそ本質的な「保守派」の在り方ではないだろうか。人種や性別、経済と資本に取り憑かれた“歴史なき場所”に暮らす人間にはない発想だ。
ただ、伝統を「コントロールすべきでないものと捉え、その保全のために活動する」というのは、社会学者アンソニー・ギデンズが定義したヨーロッパ本来の“右派の価値観”である。
歴史と故郷を守るために私財を投げ打った8人の勇姿、斬新なようで伝統的。良い意味でいかにも“ヨーロッパらしくて”かっこよくない?