3500年前の壺を割ってしまった4歳児に、博物館が神対応

好奇心旺盛な子どもは、ときに大人がヒヤッとするようなことを平気でやってのける。そしてそれは常に、大人がほんの一瞬目を離した隙に実行されてしまうもの——。

3500年前の壺、
4歳児の前で粉々に砕ける

悲劇が起こったのは、8月後半のこと。

イスラエルとレバノン国境付近に位置する町・ナハリヤに住むゲリーさん一家。自宅から1時間ほどのヘクト博物館を訪れていたときのこと。両親が4歳のアリエルくんから目を離したほんの一瞬、背後で大きな音が。

後に母親アンナさんは、CNNの取材に「どうか自分の子どもじゃありませんようにという思いが頭をよぎった」と語っているが……約3500年前に使われていた青銅器時代の壺がバラバラに砕け、その横にただずんでいたのは我が子だった。

割れてしまった実際の展示品©Hecht Museum Staff

ヘクト博物館で35年前より展示されているこの壺、状態が良く完全な形で今日まで残っている数少ない展示品のひとつだったそう。

足元に粉々に砕け散った太古の壺、ことの顛末に立ちすくむアリエルくん。まずアンナさんは本人を落ち着かせようと、何があったのかを聞いた。すると「中が気になり壺をすこし引っ張った」と話したそう。父アレックスさんは警備員に事情を伝え、損害の賠償についても申し出たようだ。

そして後日、ゲリー家に“大岡裁き”が下った。

博物館の“神対応”に世界が称賛

デモンストレーションを見学するアリエル君と子供たち© Shay Levy, Hecht Museum

博物館から電話を受けたゲリー家。展示品には保険が適応されるため賠償の必要がないこと、また館内に設置された防犯カメラの映像により、アリエルくんの行為は、故意的な破損行為ではないと判断されたことが伝えられた。そのうえで、再度来館してほしいと、アリエルくんは博物館から招待を受けることに。

現物を修復作業中の職員©Hecht Museum Staff

一家を博物館が招待した理由は、アリエルくんを叱るためではない。今回の壺を修復する過程を子どもに見て修復作業や歴史的収蔵物について、あらためて学びの機会としてほしいという心意気。発掘調査についての説明から、修復作業のデモンストレーションなど、ゲリー一家とアリエルくん兄弟は職員の特別ツアーに参加したという。

「災い転じて福となす」とは、古くからある言葉だが、アリエルくんにとって修復のプロセスや古の道具をあらためて深く知る、またとない機会となったに違いない。

博物館・収蔵物との向き合いかた
失敗を「学びに変える」4歳児

アリエル君©Shay Levy, Hecht Museum

ところで今回の一件、そもそも子どもの手の届く場所に保護柵や保護ガラスもなしに展示していたことに問題があるのではないか。という意見もあるだろう。

けれど、ヘクト博物館創設者ルーベン・ヘクト氏の意思はこう。来館者の好奇心をかき立て、より歴史に興味をもってもらうため展示品をあえて覆うことをしたくない。同館は「何も邪魔するものなく考古学的な発見を見学することには特別な意味があると考えている」とし、今回の事案にかかわらず「この伝統を継続する」と声明を発表した。今回の修復見学も、創設者の意思を反映しての対応だったようだ。

壺は既に修復され、元の位置で展示されている©Shay Levy, Hecht Museum
Top image: © Hecht Museum Staff
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