ピラミッドに登った野良犬がSNSで大バズり。ところが……
悠久の歴史を刻むギザのピラミッド。その頂上に、一匹の野良犬が登頂したというニュースが世界を駆け巡った。しかも、その一部始終を捉えた動画がSNSで大バズり。
しかし、その裏で著作権侵害や倫理観を問う声が噴出している。デジタル時代のモラルと、そこから見えてくる動物福祉の問題点について考えてみたい。
ドローン撮影? いえ、野良犬です。
バズの裏に渦巻く「無断使用」の闇
「Mashable」の記事を参考に詳細を追っていこう。
2024年11月、アメリカ人パラグライダーのAlex Lang氏は、ギザのピラミッド上空を飛行中、驚くべき光景を目にした。高さ約137メートル、クフ王のピラミッドに次ぐ規模を誇るカフラー王のピラミッドの頂上に、一匹の犬が悠然と佇んでいたそうだ。Lang氏は、すかさずその姿をカメラに収め、貴重な体験を仲間たちと共有した。
しかし、事態は思わぬ方向へと転がっていく。
Lang氏の知人であるMarshall Mosher氏が、この映像をあたかも自分が撮影したかのように編集し、自身のInstagramに無断で投稿したのだ。Mosher氏のアカウントは瞬く間に拡散され、累計2,800万回を超える驚異的な再生回数を記録。メディアからの取材依頼や経済的なオファーが殺到する事態となった。
「編集したのは私、投稿も私のもの。彼にタグ付けする法的、道徳的義務はない」。「New York Times」の取材に対し、Mosher氏は悪びれる様子もなくそう断言している。
この一件は、インターネット上で蔓延する「無断使用」問題の闇の深さを改めて浮き彫りにしたと言えるだろう。
ピラミッドの麓で
1500万匹の野良犬と共存の難しさ
話題の中心となった犬は、「Apollo」と名付けられたオスの野良犬であることが判明。「Mashable」によると、Apolloはピラミッド周辺で暮らす野良犬たちのグループに属しており、以前から地元住民の間では知られた存在だったという。Apolloのケースは、エジプトが抱える深刻な野良犬問題を浮き彫りにしている形にもなった。
カイロの動物保護団体「American Cairo Animal Rescue Foundation(ACARF)」によると、エジプトには推定1500万匹もの野良犬が生息しているという。その歴史は18世紀後半、ナポレオンのエジプト遠征にまで遡る。ナポレオンは野犬を害獣とみなし、駆除に乗り出した。その後も毒殺や銃殺などの残酷な方法で駆除が行われてきた歴史がある。
近年では動物愛護の機運の高まりとともに、野良犬に対する見方も変化しつつあるようだ。ACARFのような保護団体は、野良犬への給餌、避妊・去勢手術、里親探しなど、さまざまな活動を行っている。しかし、依然として多くの野良犬が厳しい現実と向き合っていることを私たちは知らない。
Apolloのピラミッド登頂は、世界中の人々に笑顔と感動を与えた。しかし、その裏側には、厳しい環境下で生きる野良犬たちの現実が存在する。私たちはこの現実を直視し、人間と動物の共存についてあらためて考えていく必要がありそうだ。