世界中で「異常高温」も上空は「寒冷化」。いったい、ナゼ?
「地表近くの大気が温暖化している」──。
この周知の定説に、“あるパラドックス”が存在することが判明した。
いま、はるか上空で何が起こっている?
イエール大学森林・環境学部のオンラインマガジン『Yale Environment 360』に掲載された論文によると、大気が温暖化している一方で、上空の大部分は劇的に寒冷化しているらしい。
これは気候モデラーによって長いあいだ予測されていたものの、衛星センターにおいて詳細に定量化されたのはごく最近のことのようだ。
今回、寒冷化が指摘されるきっかけとなったのは、NASA施設「ラングレー研究センター」の大気物理学者Martin Mlynczak氏による以下の主張だ。
「気候変動がほとんどの場合、大気圏の最下層で起こっているという前提を見直す必要がある」。
言わずもがな、地表近くの気温変化はCO2をはじめとする温室効果ガスが主な原因。年間に排出される400億トン以上のCO2が、対流圏(上空10〜16kmまでの大気の層)の温暖化に起因している。CO2が太陽が出すエネルギーを吸収・再放射し、空気中になる高密度の他の分子を加熱し、大気全体の気温を上昇させているというわけだ。
では、なぜ上層における“寒冷化”が起きているのだろう?
上層の“寒冷化”のからくり
じつは、CO2はすべて対流圏にとどまらず、上層にも広がるらしい。はるか上空においては気温への影響が大きく異なっていて、上空の薄い空気ではCO2が再放射する熱のほとんどがほかの分子にぶつかることはないそうだ。そのため、熱は宇宙空間に逃げてしまい、周囲の大気は急速に冷却されることに。
現に最近の衛星データによれば、2002年から2019年の間に中層大気を構成する中間圏と下部熱圏において、1.7℃冷却されたことが明らかに。Mlynczak氏の推測では、今世紀末までにCO2濃度が2倍に達し、大気の冷却も地上で予想される温暖化の2倍から3倍の速さで起こるとの見方を示している。
地表は異常な高温に悩まされるいっぽう、上空は寒冷化が進行……そのパラドックスは大気物理学者たちに新たな懸念を抱かせているようだ。
“下熱/上寒”がもたらす
さらなる危機
現在、専門家たちが解明を急いでいることに、CO2増加と上層の寒冷化が温暖化現象の頻度と強度にどのような影響を与えるかがある。
それというのも、先の懸念にはオゾンホールの規模拡大、地上の天候や気温の急激な変化、さらには軌道を周回する人工衛星と宇宙ゴミの衝突を引き起こす可能性などが考えられるからだとか。
これらの問題を明らかにするためにはより詳細な情報が必要で、結果として長い目でみた気候変動の予測に対する信頼性向上につながると英エクセター大学の気候科学者Mark Baldwin氏は指摘する。同様に、コロラド大学ボルダー校大気物理学者Gary Thomas氏も「上層で何が起こっているかについてモデルを正しく把握しなければ、下層で誤った結果を得る可能性がある」と述べていることを『WIRED』が伝えている。
ところが、ここに大きな問題が。
先のMlynczak氏によると、現在、気候に関するデータが枯渇状態にあるらしい。なんでも、過去30年の間、衛星を活用した上層大気のデータ収集が続けられてきたものの、これを牽引してきたNASAの人工衛星のうち、1つは2022年12月に故障、1つは今年3月で役目を終え、さらに3機もまもなく稼働を停止する予定だという。ちなみに、新しいミッションの計画は未定のまま。
このため、同氏は今秋開催予定の「アメリカ地球物理学連合」による会合の場で、上層の気候監視への関心を再熱させたい構え。
継続的な観測を続けることで不足の事態に備える。地表の温暖化はもとより、宇宙視点でのデータ観測の重要性にも目を向ける必要がありそうだ。