現役の東大生が調査!「東大駒場キャンパス」で感じた「多様性」について

2023年4月に東京大学に進学した一年生4人が、入学そうそう気になった“あること”について調査。その“あること”とは、いったい──?

『東京大学 履修の手引き』を読んでいる時に目についた、【D&I科目】と銘打たれた講義。いったいD&I科目とはなんなのか? それは東京大学にとって何を意味しているのか? 

興味を持った私たち4人は、D&Iと東京大学の関係を調査した。

まずD&Iとは「ダイバーシティ・アンド・インクルージョン」のことで、集団のなかに多種多様な特徴・特性を持つ人々が存在するダイバーシティに、それぞれ異なるバックグラウンドを持つ人が互いの経験や見識、ニーズを尊重し合うインクルージョンをプラスした概念だ。

東京大学は『東京大学教養学部附属教養教育高度化機構 D&I部門』を設置している。

東京大学は2022年度に「東京大学ダイバーシティ&インクルージョン宣言」を制定し、D&Iを推進。さらに、2023年度からD&I教育を大幅に拡大し、教養学部前期課程(1、2年生)でD&I科目として『人種とジェンダー』『ダイバーシティと法』『性と政治』などの幅広い学問分野を横断する講義を開講する。

しかし、東京大学のD&Iは、講義だけに留まらない。

学食や購買の
ヴィーガン向けメニューとハラル食

みなさんは「東大生協食堂」を利用したことがあるだろうか。

横一列に並べられた色とりどりのメニュー写真を眺めていると、緑色のマークがついたメニューが数個存在することにお気付きになると思う。

©iStock/Yagi-Studio

※画像はイメージです

この緑のマークは、NPO法人ベジプロジェクトジャパンの認証を受けたヴィーガンメニューであることを証明するものであり、東京大学消費生活、同組合とNPO法人ベジプロジェクトジャパンと東大生の協力によって、構想からおよそ3年もの歳月を経て、2022年1月12日より導入が開始されたもの。

ヴィーガンとは、牛肉をはじめ、豚肉、鶏肉の肉類、魚介類だけでなく卵や乳製品、はちみつ、ゼラチンなど動物性食品を一切口にしない完全菜食主義者やそのカルチャー、思想である。

つまり、ヴィーガンメニューとは、そんな人たちに向けて作られた、肉類などの食材を使用していないメニューを指す。

また、東京大学では、ヴィーガンと同じく食べ物を制限しているムスリムの方々のためにハラールフードも購買部で提供。

ハラールとはアラビア語で「許された」という意味の言葉で、ムスリムが宗教的に許されたものや行為を指す際に用いられる。

ムスリムの人々が食べられない豚肉やアルコールは日本の一般的な食品に含まれていることが多く、それらを避けて買うことは難しいため、安心して買えるハラールフードはありがたいものだろう。

このヴィーガンメニューやハラールフードに対する取り組みは、多様化が進む国際社会に対しての東京大学の多様性への配慮の姿勢を示すものになるだけでなく、食堂という多くの人が利用する場で比較的安価に提供することで、人々に環境問題や食糧問題が騒がれる世の中でヴィーガンという選択肢を提示するきっかけともなるだろう。

「当たり前は、当たり前じゃない」──
生理用品の無料配布

東京大学の駒場Iキャンパス内の大半のトイレには、無料で利用できる生理用品が設置してある。

この生理用品の無料配布の取り組みは、生理用品の出費に悩む学生の負担を軽減するため、キャンパス内で急に生理用品が必要になった際の利便性を高めるため、ジェンダー平等を推進するために、2022年の10月から教養学部と学生自治会が始めたものだ。

また、女子トイレと多目的トイレだけではなく、男子トイレにも生理用品とサニタリーボックスが設置されている。

女性に限らず、持病などのために生理用品を使う男性や、性的区分に違和感を感じている人々など、すべての人がそれぞれの事情で必要だと感じる時に使えるようにという意図が込められているそうだ。

©UT-ONE 2023

筆者(東京大学一年生、女子)は東大に入学してからキャンパス内のトイレに生理用品が設置してあるのを目の当たりにして、軽く衝撃を受けた。

自分が無意識のうちに、生理用品はドラッグストアで買うもの、生理用品は女性が使うもの、ということを当たり前のこととして捉えていたと気付かされたからだ。

生理用品は一部の人びとにとって生きていくために必要なものだが、決して安くはない。『生理の貧困』という言葉があるように、経済的な理由で生理用品の入手に困っている人もいるのが現状だ。

また、学生自治会の意図にあるように、女子トイレを利用する人のほかにも、生理用品を必要とする人がいる。そういった、自分が当たり前だと捉えていたことを当たり前だと思っていない人々がいる、ということを知るいい機会だった。

バリアフリー支援室と
「手話でしゃべランチ」

東京大学には、バリアフリー支援室というものがある。東京大学憲章に基づき、2004年4月に設置された。

支援体制は人的・物的サポート、財政的措置、ノウハウの提供とじつに幅広い。

東京大学の学生は登録すればサポートスタッフとして障害のある学生の支援活動をおこなうことができる。具体的には、視覚障害のある学生への支援として、書籍、資料の各種加工や対面朗読、聴覚障害のある学生への支援としてパソコンテイク、ノートテイクを、肢体不自由のある学生への支援としてノート作成、代筆などが挙げられる。

また、バリアフリー支援室は東京大学の学生向けに「手話でしゃべランチ」という、楽しく手話を学びながら聴覚障害のある大学職員の方と交流する企画を開催。

ここでは私が「手話でしゃべランチ」に参加して感じたことを述べようと思う。

まず驚いたのは、健常者のスタッフの方が会話に参加していなかったことだ。

というのも、聴覚障害者の方の手話を、手話がわかる健常者のスタッフが言葉に翻訳してくれるのだろうと、しゃべランチに参加する前の私は思い込んでいたからだ。

しかし、実際に手話に慣れていない私たちと聴覚障害者の方との間を取り持ってくれたのは難聴のスタッフの方だった。

そして、もう一つ驚いたのは、手話で使用する指文字に由来があるということだ。たとえば「ま」という指文字はアルファベットの「m」のように、人差し指、中指、薬指を下に伸ばして手の甲を相手に見せるようにして表す。

「手話でしゃべランチ」で挙がった話題の一つとして「年配の方と若者で手話単語が違う」ということがあった。

電話を表す手話は最近はスマートフォンを使う手振りをするが、昔は耳に人差し指を伸ばした手を当てる、というものだったらしい。手話単語の歴史を感じて感慨深いものがあった。

今回の企画で一番大きな発見は「手話も日本語や英語と同じ言語」ということだ。

初心者にとっては難しいが、慣れれば楽しくなることはほかの言語と共通している。初めは表現できることも少なくてもどかしい気持ちになるだろう。だが、学んでいくうちに手話で会話できる喜びを感じられるようになるだろう。

「聴覚障害者の方と交流したいが手話を学ぶのは自分には難しすぎる......」と思う方もいらっしゃるかもしれない。そういった方には筆談をお勧めしたい。

手話を学ぶということは大切なことだが、文字を記しても相手に自分の考えを伝えることができる。私たちは私たちにできることをするのがいいだろう。

©iStock/PeopleImages

※画像はイメージです

東京大学では、今までは見過ごされてきた人々のニーズや視点、経験を大学の活動に組み込み、従来のキャンパスや大学の枠組みを作り直そうとしている。

学生としても東大のこうした取り組みを生活の中で目にするたびに、今まで自分の視野に入っていなかった人々の存在を意識するようになった気がする。

それはきっと、ほかの学生も同じだ。

すべての人々が互いに尊重し合うことができる、すべての人々の安心できる居場所になれるキャンパスの実現は、着実に近づいているように感じた。

【当記事は「TABI LABO」および「NEW STANDARD株式会社」が
「UT-ONE」とのコラボレーションにより制作したものです】


「UT-ONE」とは「ソニーの社会連携講座 IGNITE YOUR AMBITION」の一環であり、「全ての東大生がライフワークとなるテーマを見い出し共感し合える仲間と共に挑戦していく基盤を作る」ことを目的とした東京大学教養学部の主題科目です。

 

執筆者: A.Y.、K.T.、M.Y.、Y.O.

Top image: © iStock/vector_s
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。